人間と魔王、でも関係ない
昨日ニアとどこかに行こうと話をしたのだが、翌日に起きてからすぐに行動に起こした。ニアが転移魔法を使って向かった場所は海の美しい海岸だった。
「……おぉ」
「いいでしょう? 人間界にはそこまで詳しくないけれど、以前に一度だけ立ち寄ったことがある場所なの」
なるほど、確かにここは良い場所だ。
近くに開港都市があるらしく、この海岸にも色んな人の姿が見られた。今俺とニアは魔法によってその姿は遮られているので見られることはない。
「そうか。結構温かいし海水浴みたいなもんか」
老若男女色んな人の姿が見られ活気づいている。
やっぱり人間しか居ないけど、もしかしたらゾナさんみたいに人間に紛れている魔族もいるかもしれない。
「ほらノア、あの日陰にでも行きましょ?」
「あぁ」
ニアに手を引かれ日陰へと移動した。
人々はみんな太陽の明かりが当たる場所で各々海水浴を楽しんでいるのでこっちの方まで人の姿はなかった。人の目がないことを確認し、ニアの魔法が切れて俺たちの姿が現れる。
「ねえノア、実は昨日ルミナスに選んでもらったのよ」
「え?」
パチンとニアが指を鳴らした。するとニアの体が光に包まれ、しばらくするとその装いは大きく変化していた。いつも身に着けている漆黒のドレスではなく、黒のビキニを着た姿に変わったのだ。
「どうかしら?」
「……………」
腕を頭の後ろにやり、胸を強調するようなポーズをニアはした。それはグラビアアイドルが写真を撮る時によくやっているようなポーズで……言葉に出来ないくらいにかなり見惚れていた。
大きな胸を守る僅かな布しかないのもそうだし、長い髪を一つに纏めた姿も新鮮だった。一緒にお風呂にも入ったし一緒のベッドで寝たことだってある……それなのにまた一つニアの魅力を知ることで頬が熱くなる。
「うんうん。とても良い反応ね」
「……綺麗だよ凄く。それに」
「それに?」
「……エッチだ」
「ふふ、狙ったもの♪」
あ、狙ってたんだそれならエッチなのも納得ですわ。
それにしても海か……異世界の海だしもしかしたらヤバいのが居たりするんじゃないのか。そう思った直後だった。
「……え?」
少し向こうの海面に蠢く何かが見えた気がした。
ユラユラと蠢く赤い明かりも……確かに見えた。あれは何だろうか、俺が目を凝らしているとひゅんと音が聞こえた。それは俺が気になっていた海面に吸い込まれ、そのままグルグルと回転してその何かは見えなくなった。
「……ニア?」
「えぇ。二人で楽しむのに邪魔者が居たから消したわ」
ということはやっぱり何かが居たってことだ。
仮に襲われたとしてもニアの指輪とリリスの契約が発動するみたいだし、そう考えると守りに関しては本当に心配する必要はなさそうだ。
「あ、でも俺水着とかないけど」
「心配ご無用よ♪」
再びパチンと指を鳴らすと海水パンツがポンと現れた。
「はい」
「あ、ありがとう」
用意周到だな……。
俺はニアからパンツを受け取り、その場で服を脱いでパンツを穿く……いやね、ニアがジッと見ていたけど隠せるものは何もないし、一緒に風呂にも入ったのだからそこまで恥ずかしく感じなかったのも考え物か。ちゃんと後ろは向いたけどね。
「二人で楽しむとは言ったけど、ここはやっぱり少し暗いしあっちに行きましょう」
「分かった」
確かにちょっと味気ないもんな。
ニアと手を繋ぎながら俺たちは明るい場所、つまり人が集まる場所へと向かった。海の家みたいなのもあるし簡単に遊べる場所もあるみたいだ。
「……ま、そうなるよなぁ」
「気にしないの。ほら、堂々として」
俺たち二人……正確にはニアだがかなり視線を集めている。
絶世の美女の隣に居る俺を見て舌打ちをする人も居れば、何故か勝ち誇ったように笑みを浮かべる人も居て……まあ鍛えてれば良かったなとは思う。筋肉で割れているわけでもないし、胸筋が分かりやすく厚いわけでもない。本当に平凡な体をしているのが俺だった。
「海に行くって言ったらリリスも来たがってたのよ。まあでも、今回は何とかノアを独占出来そうで良かったわ」
「そうだったんだ……」
そんな風に話をしていると、三人ほどの男が近づいてきた。
俺と同じように海を楽しんでいたスタイルの男たち、おそらく冒険者であろう体をしていた。
「さてと、何を楽しみましょうか」
しかし、ニアは近づいてくる男に全く興味を示さず、その存在すらそこにないものとして扱っているようだ。そのままスルーしようとしたが、当然彼らはニアに向かって腕を伸ばした。
「待ってくれよお嬢さん」
先頭に居た男が伸ばした腕をニアは躱し、そのまま何もなかったかのように進んでいく。全く相手にされないことに呆気に取られた男だったが、まだ諦めてはいないらしい。
「……ニア」
「あ……」
そんな中、俺も少し彼らに対して思うことがあった。
確かに俺は大した人間じゃないし、ニアの傍に居て釣り合うような見た目をしているとは思わない。でも、それでも彼女を誰にも触れさせたくなかった。
「このまま行こうか」
「えぇ♪」
俺がしたのは簡単で、ニアの肩に腕を回しただけだ。
彼女の時間は今俺が預かっているんだと、そう思わせるためのモノだった。
「……やっぱりいいわねこういうの。魔王としてではなく、一人の女として扱ってくれることの幸せを感じるわ。私は魔王である前に女だって、そう思えるから」
そう言ってニアは輝くような笑みを浮かべた。
俺はその笑みに大きく心臓が跳ねたのを感じ、同時にどうしてここまでニアを他の男に触れさせたくないのかを理解した。
「……………」
「どうしたの?」
……今更だ。むしろどれだけ遅いんだって話だった。
この異世界に来て心細かった穴を最初に埋めてくれたのは間違いなくニアだ。彼女が居てくれたから俺はこの世界に楽しみを見出すことが出来た。俺の全てはニアから齎されたもので、そして彼女に繋がっている。
「無視すんなよてめえら――」
「うるさいわよゴミ」
「ぐがっ!?」
しつこく話しかけてきた男はニアの魔法で吹き飛んだ。
周りは騒然となっているが、こういう場所だしナンパが失敗してあのような目に遭うのも珍しくないのかそこまでの騒ぎにはならなかった。
「ほら、海に来たんだから遊びましょ♪ せっかくのデートなんだから」
人間と魔王だから、そんな言葉ではもう隠し通すことは出来ない。
俺……ニアが好きだ。
どうしようもないほどに、彼女のことが好きなんだ。
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