第149話 オークション

 ドブハマ家屋敷の中。


 フィリアと多数の女性が部屋の中に集められていた。


 そんな部屋の扉には小さな窓が設けられていて、外から開け閉め出来るモノとなっている。


 扉の窓が開き、一人の強面男が中を見る。


「そろそろ始まるぞ! 会場で泣いたりするやつはどうなるか分かってんな!」


 声を荒げる男が扉を激しく叩き、部屋中に音が鳴り響く。


 音に反応するかのように、女性達が恐怖の色に染まっていく。


 そんな中でも堂々と男を見るフィリアに、男も一瞬目を奪われる。


 その気高き美しさに息をのんだ。


 男は逃げるかのように、その場を後にした。


「貴方は怖くないの?」


 フィリアの隣にいた女性が声を掛ける。


「ええ」


「これから私達がどうなるか分かるの?」


「何となくは予想しています」


「そうか……それでも堂々をしているなんて、本当に凄いわ……」


「えっと、お名前は?」


「あ、私、キクルというの」


「キクルさん。大丈夫。今日はきっと良い事が起こりますから」


「良い……事?」


「ええ。だから胸を張って臨んでください。心配する必要はありません」


 フィリアの言葉はキクルだけでなく、他の女性達にも不思議と納得がいくようだった。


 数分後。


 扉が乱暴に開くと武装した男達が中に入ってくる。


 そこから一人ずつ名前を呼ばれ、一人ずつ部屋から連れ出された。




 ◇




 ドブハマ家屋敷のホール。


 多くの貴族が集まっている。


 その視線はどれもいやらしいモノで、ホールのステージに注目していた。


 ステージには一人の司会が本日の商品・・を紹介し始める。


「では次の商品です!」


 司会から商品について詳細の説明が続く。


 説明が終わる頃、ステージに一人の女性が裏からあがっていく。


 先程、フィリアと言葉を交わしたキクルである。


 彼女は部屋の中にいた頃とは違い、その表情に心配の色は全く見えない。


「では競りを始めます! 銀貨1枚から始まります!」


 司会が合図を送るとすぐに大勢の人がそれぞれ持つ名札をあげる。


 数字を口ずさむ司会は、次々枚数と番号を言いあげる。


「はい、48番様です! 次、120枚です! どなたかいらっしゃいませんか!」


 30秒。


 名乗り出る人は出ず、司会から48番落札の声が鳴り響く。


 キクルは自分の出番を終え、ステージを後にする。


 ステージの裏に入ると、そこには窓から月の明かりを受けて金色の髪が銀色に染まり美しく輝いているフィリアが見えた。


「フィリアさん。頑張ってください」


「ありがとう。キクルさんもお疲れ様でした」


 フィリアに笑顔を見せ、キクルはその場を後にする。




「では、これから最後の商品となります! 今回の目玉商品でもあります! こちらはあまりにも高額商品のため、金貨から始めます!」


 司会の言葉に貴族達から唸り声があがる。


 金貨からスタートする意味を知っているからだ。


「では最後の商品です!」


 司会の言葉とともに、ステージの裏からフィリアが姿を現す。


 砂漠に広がる美しい金色のように、彼女の澄んだ瞳と金色に輝く長髪がステージに舞い降りる。


 想像以上の美しさも相まって、ホールには沈黙が続く。


 司会もフィリアの圧倒的な美貌に司会である事を忘れてしまうほどだ。




「私を買ってくださる方はいないのですか?」




 フィリアの言葉に全員が我に返った。


 司会の言葉を待つことなく、ホールに集まった全ての貴族達が名札をあげ、各々が金貨の枚数を声にあげていく。


 金貨1枚でも十分に高いその額は、かつてここで繰り広げられた競りの中でも異質な上がり方をしていくのである。




 ◇




【ソラ、始まったわ。やっぱり奴隷のオークションだったよ】


【ありがとう! ではこれから侵入するので、少しだけ待ってて】


【うん!】


 ようやくフィリアから念話が届いた。


 これで作戦が始められる。


「キュバトス様。やはり中ではオークションが行われているようで」


「やはりか…………」


「これから中に案内致します」


「よろしく頼む」


【みんな! 作戦を開始する!】


 数秒。


 僕の前に一人の漆式の一人が姿を見せる。


「団長。案内致します」


「ああ」


 彼の後を、キュバトス様と一緒に中に入っていく。


 屋敷の正面に向かうと正門が開いていて、その中に堂々と入っていく。


【ルリくん。屋敷に入ったよ】


【了解!】


 ルリくんにも動いて貰わないとね。


 屋敷の中にいたはずの衛兵達は姿を消している。


 漆式達が頑張ってくれたんだと思う。


「まさかドブハマ家の屋敷にそのまま入れるとは……」


 キュバトス様は驚いている。


 みんな分かっていたはずだけど、中々現場を押さえられなかったんだろうな。


 屋敷の中も人の影一つなく、その道を案内されて、どんどん奥に進んでいく。


 廊下にはキュバトス様が連れた兵士達の足音だけが響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る