第51話 ゲシリアン子爵の疑い
「子爵は屋敷に
ゲスロン街のゲシリアン子爵邸の前に大きい声で騒ぐ男が現れた。
屋敷の入口を守っている衛兵が走って、男を阻止するも、男が止まる事がなかった。
「ゲシリアン子爵は違法な行為を行っている!! 屋敷の中は闇だらけだ! 信じてくれ! 必ず中を探れば、証拠が出るはずだ!!」
衛兵達に囲まれるも、男は衛兵を全員振り払う。
衛兵を吹き飛ばしても尚、男は止まる事はなく、子爵邸の前で騒ぎ続けた。
少しずつ人だかりが出来始める。
平民だけでなく、子爵邸を訪れた貴族もその男の声を聞く。
段々と多くの人が子爵邸の前に集まった。
「一体何の騒ぎだ!」
多くの人だかりの中から、完全武装した複数人の人が子爵邸の前に出てくる。
正面の男は、ゲスロン街の冒険者ギルドのギルドマスターエイロンだった。
エイロンが出て来た場所には、深くローブを被っているカールとミリシャの姿が見えていた。
周りはエイロンの登場にざわつく。
「お、お前は! 冒険者ギルドマスターのエイロン!」
男が驚き、エイロンを指さした。
「……久しぶりだな? 仲間を
「俺は無実だ! 全ては子爵が企んだ事なんだ!」
「……またその話か。お前が話した場所には何も
「そうだが……俺は子爵に東の山に山賊がいるから、討伐しろって依頼されたんだ! その契約書なら冒険者ギルドにも
「……ああ、その契約書は俺も見て覚えている。だが、あの場所には何もなかったではないか!」
「くっ…………」
二人が言い争いをしていた時、子爵邸の扉が開いた。
「なんの騒ぎじゃ!」
中から、キツネ目の男。ゲシリアン子爵が出て来た。
「ゲシリアン子爵……!!」
トーマスが恨み籠った声で荒げる。
「……? 誰じゃお前は」
「くっ! き、貴様! 俺らに罠の依頼を出して、俺の……仲間達を殺害した癖に知らないふりをするのか!!」
「…………このゲシリアン子爵は嘘など付かぬ。貴様が何処の誰かは知らないが、わしを侮辱した罪……覚悟は出来ているのだろうな?」
ゲシリアン子爵の後ろから数人の武装した男が前に出る。
その時。
「これは何の騒ぎですか?」
人だかりの中から、とある少年が現れる。
後ろから美しい少女達と共に、数人の
「ん? 子爵様。丁度良いところに。ここに
「んなっ!?」
少年の出現と山賊達の姿を見た子爵が慌てだす。
「……ん? 君は、新しいクラン『銀朱の蒼穹』のマスターだな?」
「はい。初めまして、ソラと申します。本日は子爵様から個人的な依頼で東の山の山賊を討伐して来ました」
「……東の山の山賊だと?」
エイロンの疑問視する声に、ゲシリアン子爵はますます顔色が悪くなる。
「ええい! 何をしている! さっさとわしを侮辱したあの男を捕まえないか!」
焦るゲシリアン子爵の前にエイロンが遮る。
「ゲシリアン子爵。東の山の山賊の討伐。このエイロンは全く知らない件ですが……これは一体どういう事でしょう?」
「そ、それは…………噂の新しいクランがこの街に来たって事で、前回失敗した事もあって、そのクランにお願いしたのだ! だから冒険者ギルドにはまだ申し出ていなかったのだ!」
焦るゲシリアン子爵を更に追い込みをかける出来事が起きた。
ソラが連れてきた縄に捕らえられている山賊達が口をあげる。
「お、俺達は子爵に命令されて、こいつらのパーティーを待ち伏せしたんだ! 前のパーティーのやつらも男は全員殺して、女は子爵邸に運んだんだ!」
「っ!? だ、黙れ! このゲシリアン子爵がこんな低俗な輩と関わるはずがないだろう!」
山賊の言葉に、トーマスは怒りに震える。
「エイロンさん! どうか、ゲシリアン子爵邸を調べてくれ! 俺の……俺の彼女のソニアがいるかも知れないんだ!!」
「だ、黙れ!!!」
ゲシリアン子爵の明らかな反応に、エイロンが言い放つ。
「ゲシリアン子爵。ここは一つ、我々に捜索させて貰ってもよろしいですか?」
「な、なんだと! 貴様はそんな低俗な言葉を信じるというのか! わしはゲシリアン子爵だぞ!!」
「ゲシリアン子爵。私は貴方を
「くっ!」
「いかがしました? もしも、やましい事がなければ、問題ないのでは?」
「ぐぐぐ…………くっくっくっ」
焦っていたゲシリアン子爵が笑い出した。
「面白い……いいだろう。このゲシリアン子爵。あんな低俗なやつに言われっぱなしはムカつくが、貴族としての責務は務めよう。我が屋敷を
ゲシリアン子爵のキツネ目が自信に満ち溢れた瞳に変わる。
何の問題もないと言わんばかりの自信に満ち溢れた表情になった。
「我が屋敷にあの低俗が言っていたつまらない嘘がなかった場合、そこの新しいクラン。お前らはこれからずっとわしの
「ん? どうして、彼らのクランを?」
「……冒険者ギルドとして、貴様らも責任を負うべきだろう? このゲシリアン子爵の屋敷を捜査するならば、それくらい当然だろう!」
自信に溢れている子爵だったが、そこに誰もが想像していなかった返答が返って来た。
「いいですよ? もし何も見つからなかった場合、俺達『銀朱の蒼穹』は、子爵専属クランになりますよ?」
ソラのあっけない言葉に、その場にいた全ての人が驚愕する。
「ただし、その調査には俺達『銀朱の蒼穹』も参加させて貰いますね」
「いいだろう。このエイロンがその提案、責任を持って遂行しよう」
まさか、快諾すると思わなかったゲシリアン子爵の表情が固まる。
一方で、ソラは不敵な笑みを浮かべ、誰よりも先にゲシリアン子爵邸の中に入って行った。
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