第20話 大会目前!! トップVTuberたちが豪華集結!!

【ぴょんぴょこり~ん。みんな~、月々ぴょんこ(ルナルナ ピョンコ)だよ~】


 特徴的な挨拶共に明らかにバニーガールとわかる衣装を身にまとった、銀髪の美少女が画面内でぴょこぴょこと耳を揺らして挨拶をする。


『お、始まったね』


『あら、相変わらず司会実況はぴょんこと袈裟坊主(ケサボウズ)なのね』


『この2人が主催だからね』


 画面には月々ぴょんこさんの他にもう一人、その名の通り袈裟に身を包んだ坊主が並んでいる。

 戸羽ニキやナーちゃんからすればお馴染みの2人だろうけど、俺からすれば彼らもまた憧れのVTuberたちだ。


 今回のEX.の大会を始め、他にもクロファイなどの対戦ゲームや、カラオケ企画など、たくさんのVTuberを集めた大型企画を数多く手掛けている。

 ぴょんこと袈裟坊主に任せておけば大丈夫と、リスナーや同業のVTuberから太鼓判を押され、2人合わせて《企画屋》と呼ばれる、業界でも異色の存在として認知されている人たちだ。


【半年に一回のEX.お祭り大会、《運命を掴むVたち》が始まるよ~。ねぇねぇ~、袈裟坊主~、今回で何回目だっけ~?】


【うむ。拙僧も忘れた】


【おい~、しっかりしろよ主催~】


【お主もな】


【はい~、定番のやりとりも済んだところで~、どうしよっか~?】


【選手紹介をしてルール説明の流れと打ち合わせただろうに】


【あはは~。そうだった~。それじゃあ、早速選手紹介に行ってみよ~。あ~、呼ばれたVTuberさんは~、こっちのディスコードに来てくださいね~。挨拶をお願いします~】


 うっわ、すご。

 同時接続数8万人だって。どれだけ注目されてるんだ。


「相変わらずすごい盛り上がりですね」


『《企画屋》主催なのに加えて、有名どころのVTuberが集まってるからね。僕らみたいに同時視聴枠を立ててない人もいるし』


『私、呼ばれても行かないわよ』


「え、何でですか?」


『ナキア先生は過去に一度、袈裟坊主さんに説教されてるからね。配信中に』


「あー、そう言えばありましたね、そんなことも。切り抜きで見ましたよ」


 確か悪ノリしまくったナーちゃんが、エグイ下ネタをぶちかまし続けたんだっけ。

 当時ですら有名過ぎて誰もツッコめないナーちゃんに、真正面から説教をしたってことで、袈裟坊主さんがめちゃくちゃ称賛されてたな。


『あれ以来、ナキア先生は袈裟坊主さんが苦手なんだよね』


『そんなんじゃないわよ。ただ、めんどくさいだけよ』


『そういうことにしておこう』


 などと会話を交わす内に、どんどんと選手紹介が進んでいき、


【次は《東の蟻(ヒガシノアリ)》の紹介だよ~。リーダーは戸羽丹フメツ~】


『結局あのチーム名にしたの? ダサいから嫌だって言ったじゃない』


『でも、ナキア先生だってアイデア出さなかったでしょ。まあ、行ってくるね』


 言うが早いが戸羽ニキは俺らとの通話から抜け、月々ぴょんこさんと袈裟坊主さんが待つ主催の配信枠へと赴く。


『ズマっち。あのチーム名はダサいわよね』


「俺はいいと思いますよ。ぽくて」


『ちょっと近寄らないで頂戴。ダサいセンスが伝染するわ』


「しないですから! ていうか、同じチームですよ!?」


『解散しましょう。あなたたちと私の方向性は違ったのよ』


「これから大会ですよ!? って、ほら戸羽ニキがしゃべりますよ」


 主催の配信枠に戸羽ニキの立ち絵が表示された。

 いよいよ本当に、トップVTuberと共に大会に出場するんだ。

 うわ、なんかめっちゃ実感が湧いてきた!


【ぴょんこさん、袈裟坊主さん。久しぶり】


【フメフメ~、久しぶり~】


【久方ぶりだな、フメツ】


【相変わらずだね、2人とも。今回も主催ありがとう】


【感謝はいいからちゃんと盛り上げてよね~】


【その通り。つまらぬ大会だけはしてくれるな】


【大丈夫。今回はとっておきのメンバーを連れてきたから】


 すげぇな、戸羽ニキは。

 8万人のリスナーが見てるのに、いつも通り話してるよ。


【とっておきのメンバーって~、噂の新人VTuberのこと~?】


 あ、マジ!? 俺の話!?


【さすが主催。その辺はばっちり抑えてるね。そうだよ、彼のこと。あとはナキア先生もね】


『ちょっと、私がおまけみたいじゃない』


「文句は戸羽ニキに行ってください」


 いやいや、それにしても気分いいなぁっ!!

 8万人の人が見てる前で、トップVTuberの戸羽ニキが俺のことを『とっておき』って言ったんだぜ?


【何故、新人を?】


【EX.の大会って僕らも知り合い同士で呼び合ったりするから、大体同じメンツだったりするじゃん。それだとつまらなくない?】


【ふむ。界隈に新しい風を、と。そういうことか?】


【うん。って、これ実は建前なんだけどね。アズマさんを呼ぶときに咄嗟に思いついた理由。どう? それっぽいでしょ】


 え!? 何それ!?

 俺、戸羽ニキのその言葉に感動したんだけど!?


【フメフメも悪い男だな~。それじゃあ本音はなんなの~?】


【うーん、ちなみに2人は、前回の優勝って僕がいたチームだったの覚えてる?】


【無論だ】


【《選ばれし俺たち》ね~。覚えてるよ~。強かったよね~】


【その時一緒に組んでたツルギと雄(ユウ)と、大会が終わった後に話したんだ。次は誰が最強か決める戦いをしようって】


【こらこら~、《企画屋》を差し置いて勝手に面白そうなことを考えるなよ~】


【同意。拙僧たちも一枚嚙ませてもらわねばな】


【大丈夫だよ。だって、大会は盛り上がるでしょ? ほら、コメント欄見てよ】


 戸羽ニキが言う通り、期待を煽られたリスナーたちの興奮で、コメント欄がものすごいことになっている。

 盛り上がり過ぎて、コメントの表示が追い付いてない。


【じゃあ今回3人が別々のチームなのって~】


【それぞれが最強のチームを作って戦うためだよ】


【お~~~ッ!!!! めっちゃアツい~!! そんな話してたんだ~】


 いやいやいや、聞いてませんが!?


「ナーちゃん。今の話って」


『聞いてないわ。フメツも変なところでカッコつけるから、黙ってたんでしょうね』


「言ってくれればよかったのに」


『ムッツリなのよ、あいつは』


 いやまあ、そうなんだろうけどさ。言い方……。


【でも、そうすると逆に新人じゃなくて、知り合いの強い人とか呼べばよかったんじゃ……?】


【ナキア先生の招待ポイントが高過ぎたんだよね。知り合いを呼んだら3人のチームが組めなくなっちゃう】


【あの女、実力は確かだからな】


『はぁ~~~??? なによ、このクソ坊主。上から目線で偉そうにして』


「ナーちゃん、落ち着いて」


 頼むから今、変に気を荒立てないでくれ。

 俺一人じゃナーちゃんを止めるとか無理だからね!?


『フメツもフメツよ。人を邪魔ものみたいに言うなんて失礼しちゃうわ』


「ナーちゃんが強いのは事実ですよ?」


『ふっ、私の強さに嫉妬してるってわけね。やだやだ、これだから器の小さい男は嫌になるわ。ズマっち、あなたはあんなふうになっちゃダメよ』


「あはは。気を付けます」


 頼む! 頼むから、滅多なことだけは言わないで!!

 大会直前で炎上して出場停止とか絶対に嫌だからな!?


「ところでナーちゃん。招待ポイントって何?」


 関係ないこと話してた方が平和な気がするし、適当に雑談してやり過ごそう。

 これが俺の炎上回避ムーブである!


『知らないの? しょうがないわね。いい? 招待ポイントっていうのは、チームバランスを取るために、各VTuberに振られたポイントのことを言うの。EX.の強さと知名度を掛け合わせた感じね。で、1チーム辺りの合計に上限が設けられてるから、その中でうまくメンバーを集めなきゃいけないの。私は強くて有名だから招待ポイントが高いわけ。ズマっちは強いけど新人だから招待ポイントが低かったのね』


「その招待ポイントって大会で勝てば上がるんですか?」


『さあ? 詳しいことは知らないわ。めんどくさいから私はいつも招待される側だもの』


「ちょっとググります」


 あー、なるほど。把握した。

 つまり、この招待ポイントが、VTuber界隈における現時点での俺の評価って言ってもいいわけだ。

 今は低いけど、もっと有名になれば俺も招待ポイントが高くなるし、有名VTuberからの認知も進む。そうなれば、次の大会や別の企画なんかにも招待される可能性が高くなるってことだな。


 ……ふむ、そしたらやることはひとつだよな。

 この大会で一回でもいいから何か印象に残ろう。優勝はもちろん狙うけど、それと同じぐらい、もっと有名VTuberと繋がりたいし。


【せっかくだから~、ツルギと雄さんにも話を聞いちゃおっか~。ツルギ~、雄さん~、来れますか~?】


 そう、例えば今呼び出された2人。

 戸羽ニキと同じ事務所に所属しているトップVTuberである、埼京ツルギ(サイキョウ ツルギ)と英雄(ハナブサ ユウ)に認知してもらえたらでかいよな。

 ていうか、画面が豪華!

 あの3人が並ぶと、『だよな~』っていう納得感が強い。


【お、なんかいい感じの踏み台があるじゃないッスか~。しかも二台も】


 生意気な物言いと共に登場したのが埼京ツルギ。新撰組をイメージしたかのような羽織をオシャレに着ている、青年剣士といった出で立ちのVTuberだ。


【踏み台なのはどっちか、俺がたっぷりと教えてやるぜ!】


 テンション高くというか、若干の暑苦しさと共に登場したのが英雄だ。その名の通りファンタジーものの勇者のような恰好をして、剣を背負っているのが特徴だ。


【今のセリフは全部フラグになるよ。勝つのは僕らだし】


 そこに戸羽ニキが加われば、VTuber界隈では知らない人がいない三人組となる。

 同じ事務所でも特に仲がいいみたいで、よくコラボ配信をしているし、さっき話に出ていたように、前回の大会では3人でチームを組み優勝していた。


【前回チームメイトだった3人による三国志というわけか。優勝チームがどこかを予想するのはもちろんだが、この3人の誰が勝つかも楽しみな大会になるな】


【どことかないから。僕が勝つよ】


【何言っちゃってんスか。俺が勝つに決まってるじゃないスか。こちとらサイキョウを名乗ってるんスよ?】


【フメツもツルギも熱くなるなよ! 全員まとめて俺が倒すんだからさぁッ!】


【バチバチだ~。あ~、それじゃあこの流れで言っちゃおうかな~。いいよね~? 袈裟坊主~】


【うむ。フメツが最後の紹介だったからな】


【それじゃあ~、これからルール説明をするからね~。チャンネルはそのままで~】


 月々ぴょんこの言葉を合図に、画面は切り替わるのだった。

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