オアシス近くのアンジャッシュ
見ず知らずの少女を抱きかかえたまま途方に暮れていた。
どうやらこの俺、マダラ・コンクリオにとって今日は最悪な日らしい。
先程の様な出来事は日常茶飯事だが今回は妙ちくりんなお荷物までおまけと来ている。
今までもこうやって助けられてきたが正直自分でも嫌な力だ。迷惑極まりない。
確かに少し吊り目ではあるが怖い形をしてるからという以外にもいかついということだ。
魔眼と言った方が分かりやすいだろうか。
要は特殊な構造の目をしている。
原理としては魔力を込めて放っているというシンプルな話なのだが、どうやらその放出している元素が
その為俺の目を見たものは気迫に圧倒され戦意を喪失するとのことだ。
要はどえらい殺気に近い物を当てつけているという考えで良い。
この力は
その上俺の魔力量は特級品ときた。膨大過ぎる魔力があり余り過ぎて誰かの目を見ただけでそいつは発狂してしまう。
軽くて動けないだけだが酷い奴はあの男見たく漏らすし、
意識のある頃から天涯孤独だった俺にとってこの力は手放したくて仕方のないものだ。
拾ってくれた孤児院でも孤立し、拾ってくれたのに捨てられる始末な上、街にも長期間の滞在ができない。
唯一良い所は、ゴロツキに目を付けられても無事に切り抜けていることだ。
そのおかげで旅をしていても痛い目には合わないし、何なら気絶した奴からお金も拝借できる。
別にそこに悪気なんてない。相手から吹っ掛けてきた
寧ろ命がたった手持ちのお金だけで済んでいる事に安いと思って欲しい。
それに俺だって怖い目に合ってるのだ。それくらいの褒美くらい貰ってもいいくらいだ。
笑える冗談だって?
笑えるものか。何故ならば。
俺は超が付くほどの臆病者の人見知りだからだ。
翌々考えてみて欲しい。幼少の頃から人と
怖がられて忌み嫌われるんだぞ?
臆病者の口下手になるに決まってるだろ。
確かに俺には殺気があるさ。
だがらって人からの悪意が怖くならない理由にはならないだろ?
そう言うことだ。
例えどんなに強くても
携えた剣なんて振り方も分かんないんだぞ。
教えてもらう?
誰にだ。超嫌われてるんだぞ?
剣技も指導している光景を岩陰からこっそり見て素振りしたくらいだぞ。実戦経験なんて力のせいであるわけがない。
恐らく真向勝負となればさっきのゴロツキにさえやられるわ確実に。
俺の目を見たあいつらの妄想では荒ぶる鬼神の様に剣を振るっているだろうが荒ぶっているのは俺の基礎だ。
こんな実力も伴ってないのにさっきだけで戦闘を避けろだって?
嫌に決まってるだろ!
なんでこんな状態で毎度荒くれ者をひやひやしながらいなさなきゃいけないんだよ!!
そりゃ金だって分捕りたくなるに決まってるだろ!!
……いけない、余りにも嫌過ぎて癇癪を起してしまった。
つまり先程の事件の真実はこうだ。
偶々俺が暴漢現場を目撃し、厳つい男たちにビビる。その為声が出ないし動けない。
→硬直した俺に対しゴロツキがブチ切れる。
→偶々目が合い一人脱落。
→攻撃したと思われ攻撃される。
→その時の怒号で目を向けたら気絶させていた。
→女性が目を見てしまい倒れた。
ということだ。実に奇怪で仕方がない。
奇怪といえばこの女の人は倒れるとき変だったんだよな。
王子様って言いながら倒れた人は初めてだ。
何というべきか。悪意の感じない倒れ方だったというべきか。
……何にせよ今の悩みはこの女性の事だ。
強姦達と一緒に倒れさせておくのも申し訳なかった為こうして安全な場所にまで運ぼうとしているのだが、如何せんどうしようもできていない。
頑張って村人や宿主に尋ねているのだが、やはり怖がられてしまう。
二組ほど目を見ずに何とか対応できたが、人見知りのせいと状況が状況なだけに冷やかしや嫌がらせと勘違いされてしまうし。
発狂した際のあいつの零れもののせいで匂いが酷い。正直抱えていたくもない。
どうしたものか。
仕方ない。少し歩くことになるがこの村の近くにオアシスがあるはずだ。
丁度あいつのせいで汚臭のするこのお嬢さんを起きるまで介抱することにしよう。
――――――
オルタは目を覚ますと、先の光景が嘘だったように何事もなく、朝日が昇り泉の近くの大木にもたれ掛かりながら寝ころんでいた。
嘘だったとは思ったが本気では思ってない。何故なら昨日の夜の出来事が一部抜けており、まだ飲んだことはないが酒に酔ったかのように覚えていない。
ただ一つ気になることと言えばあの一瞬で悪漢どもを気絶させた事と、その後の情事に関して気が気でない。
何より問題だったのは失ったか健在なのか。それしかない。
状況を整理する為に周りを見渡した。
(これは間違いない……さよならしてる!)
まず彼女は最寄りのオアシスにいると気付き、その次に身に纏っていた掛け布に気付き、それらが答えと物語っている。やってしまったと。
だが同時に遂に私にも春が来たとそわそわして仕方なかった。
何故ならエロい目で見られても好意を抱いてくれることはなかったし、何よりそんな暇さえなかったからだ。
だが残念なことに間違いないという認識は間違っている。
「起きたか」
声のする方向から来るは眼光の鋭き茶髪の男マダラ。全身を黒をメインに揃えた服と鎧を纏わせチャキチャキと音を鳴らし歩み寄る。
「あなたは……」
「危ない!」
え、と彼女は驚き辺りを見渡すが何もない。
それもそのはずだ。何故なら彼の言った危ないとは己の目の事だ。
「あ、いや、すまぬ……その……目が」
「目、ですか?」
オルタは疑問に思う。目が危ない?
別にゴミが目に入ったわけでもない。だとすると目に入る危ないものと言えば。
目を下にやる。
「ヒャア?! すみません!!」
彼女は自分が来ている物が掛け布一枚だけだったという事実に気付き木と布を盾に隠したい部分を極力隠す。
そして彼女はこうも思うのだ。
(さよなら私のヴァージン……!!)
彼女の認識は確信に変化する。
だが残念なことにまだお別れの時ではないのだ!
おはようヴァージン!
もう少しよろしくお願いします!
さあ、この状況。こうなってしまうとどういうことになるでしょうか。
男は視線を合わせれず明後日を見続ける。女は裸を隠そうと一昨日を見る。
アンジャッシュの状態のままお互い屈んで誰も動かない。
話が進まないのである!
しばらく沈黙しか起こらない当たり前な状況しか起こらず、ようやく進展し始めたのは男が動いたからだった。
「……何で、謝ったんだ?」
「何故って……それは私の体を気にしてくれたからでは?」
マダラはその言葉のせいで疑問が生まれ振り返る。
その光景を見てハッと気づいてしまった。
布で隠してはいるが各所ちらほらと覗かせる柔肌な曲線美。
ジーザス!
そういえば、服を洗ってあげないとと思い脱がせていたことを忘れていた!
そして理解する。彼女は自分の目を見て倒れたなど知らないと!
「うあぁ?! すまぬ! 忘れていた。説明しないと……」
「どうしたのですか?」
男はそっぽ向きながらタジタジと話を続ける。
「あの、その、昨日のこと、なの、ですが!……悪い、のです」
言葉がぎこちないのは人見知りなのもあるが、幼少期に最低限の話し方しか教えてもらえてない。
それも相まって考え事が多くなるとどもりも多くなり言葉も詰まりやすいのだ。
(何だろう……昨日の感じと話し方が違うな……)
そしてハッと気づく。
(あ、恥ずかしいんだ。そりゃそうよね。昨日は過ちがあったものね)
オルタの笑みは正に制限のない零れいくら丼のかけ放題の如く抑えられない。
「俺、目を、合わせると、皆怖がっちゃって……だから昨日、君気絶しちゃったんだ」
「ん? でも昨日私の事
そう言いかけて口を閉じた。
(バカ私! 何言いそうになってるの?! あんな。あんな。あんなあんなあんなあんな)
彼女の頭はオーバーヒートした。
「慰める暇、なかった、です」
「……え?」
オルタは思わずその言葉に耳を疑った。
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