第21話

「あー時間掛かった」

 

 僕は一人、ボヤく。

 あれだけ暗かった空は、少し明るさを帯びている。


「あ……あ……」


「あぁ、忘れてたわ」

 

 僕は完全に忘れていた一人、最後の生き残りである一人を魔法を使って殺す。

 その体は炎に包まれ、燃やされていく。

 灰すらも残さない。

 イグニス公爵家火を得意とする一族。

 イグニス公爵家が操る理は『加速』。熱運動を加速させることで炎を起こす魔法を使う一族。僕は加速ではなく『減速』の理を操ることを得意とするんだけど、一応僕だって『加速』の理を操る事はできる。

 

「んしょ」

 

 僕は他にもたくさんのものを燃やしていく。

 後片付けだ。

 拷問したときの跡で、剥がした爪とか、引きちぎった髪とか、引きちぎった皮膚とか、切り裂き引きちぎった肉とか、殴る蹴るなどをしたときに飛び散った歯とか。

 溢れ出し大地に染み付いた大量の血とか。

 諸々の後片付けをしなければならない。

 

 僕がこうして動き情報を集めているのは第三王女には秘密。跡を残しておきたくない。


「どうしようかなぁー」

 

 僕は大地に染み付いた大量の血を前に途方にくれる。

 土属性の魔術があれば、いい感じに大地を操作して隠蔽することが出来るのだけど、僕は土属性の魔術を得意としていない。

 いや、土属性どころか、火属性、水属性、風属性、雷属性。

 五大属性の魔術を得意としていない。僕に出来るのは禁術と呼ばれるほとんどの人が知らない特殊な魔術のみ。

 僕には圧倒的な『魔法』を保有している。一人で氷河期を起こせてしまうほどの魔法を使える。

 それ故に魔術なんて勉強してこなかった。

 それに、魔術が必要だとしても部下の子にやらせておけばよかっただけの話なので必要ないことだと思っていたのだ。


「あぁ、馬鹿したなぁ」

 

 拷問してもいつも周りの子が片付けてくれているから、いつもの癖で行ってしまった。周りの子がいない今なら血が出ないように工夫しなきゃいけなかったのに。大地を凍らせて血が滲みないようにするだけで良かったのに……。

 あぁー。僕の悪い癖出たなぁ。

 他のことに思考を割き、何十年先のことを予想し続けているせいで慣れたことを適当にやってしまうという悪い癖が。つい目の前のことをおろそかにしてしまうというあまりにも致命的すぎる癖が。


「うーん」


 ……僕は考える。


「まぁ、いいか」

 

 そして僕はこのまま放置することに決めた。

 どうせたくさんの動物がここで、この森で死ぬことになるのだ。

 大地に血の滲みが残っているくらいで騒ぐ人はいないだろう。

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