第18話

「本当に飲み込みが速いんですね……」


「そうでしょうか?僕は無知ゆえ他の人のことを知らないので」


 僕は第三王女の言葉を適当に流す。

 今僕がやっているのは第三王女の書類仕事のお手伝いだ。

 どうにもここのガナダルシア砦に勤務している人たちは戦うことしか出来ない脳筋が多いようで、文官がほとんどいなくて書類仕事に困っていたらしい。

 そこで僕が手伝うことになったのだ。

 平民に書類仕事を手伝わせるとか何を考えているんだ……。


「えぇ。あなたは天才。と言っても良いかもしれませんね」

 

「ありがとうございます。それで、ミリア王女殿下。未だに北方の遊牧民を倒せない理由は何でしょうか?三属性持ちであるミリア王女殿下に、ここまでの配下が揃っているともなればすぐに相手を撃滅できそうなものですが」


「……あなたには話していませんでしたね」

 

 ……あえて話さないように避けていたけどね。君は。

 

「忘れていました」

 

 舐められたものだよね。別に僕程度なら出し抜ける。そう信じて疑っていない。あそこまで露骨に話さないように避けておいて、忘れていたなんて詭弁が通じるはずもない。

 まぁそれが狙いなんだけどね。

 平民と油断させて情報を集める。平民ほど便利な立場もない。とことん舐められている。


「未だに北方の遊牧民を倒せない理由。それは簡単です。厄介な相手が彼らの味方をしているからに他なりません」


「厄介な相手、とは?」

 

 僕は第三王女に質問を投げかける。

 厄介な相手。そんな存在の情報などとっくの昔に掴んでいる。


「仮面をつけた謎の相手です。風魔法を得意とする相手で、かなりの魔法の腕前です」

 

 突然現れた謎の存在であるがゆえに僕が持っているそいつの情報は少ない。


「私達が彼らを撃滅しようと動いたその時。最も嫌らしいタイミングで姿を現しかき回していく仮面の存在」


 僕が知っていることなんて戦い方。


「その人は名前も名乗りません。ですので私の部下たちは通り名としてこう呼んでいます」

 

 そして通り名だけだ。

 

 

 ─────風神、と。

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