第10話

 僕は大人しく第二王女の後をついていく。

 辿り着いたのは一つの小さな部屋。

 第二王女は奥の椅子に腰掛ける。

 ……護衛は、なし。

 なるほどね。別に僕の正体に気づいたわけではないのだろう。単純に『リーエ』に会いに来たようだ。


「座ってちょうだい」

 

 優しげな雰囲気と言葉で、自分の前にある席を示す。


「は、はい!失礼します!」

 

 僕は緊張によって体をこわばらせるのを演じながら席につく。


「そんなに緊張しなくていいのよ?一人の生徒とだと思っていいのよ?この学園において身分は関係ない。平等なのだから」


「いえ!そういうわけには!」


「……まぁそうよね。身分が関係ないなんてもう形骸化しているものね……」

 

 第二王女の言う通りそんなルールなど全く機能していない。昔は機能していたのかもしれないけど……。


「緊張を解して、私と親密に接しなさい」

 

 第二王女は何をトチ狂ったのか言葉に魔力を込めて告げる。

 これはローオス帝国の王族が持っている魔法である『勅命魔法』。言葉に魔力を込めることで洗脳をする魔法だ。

 同格どころか、格下にも通じない。自分と相手に天と地の差がないと効果を発揮しなさいクソ雑魚魔法だが、リーエとしての僕と第二王女の力は天と地の差があるので僕はかかるしかない。


「……はい」

 

 僕は一瞬感情を失った瞳を浮かべ、素直に頷く。


「ありがと」

 

 第二王女はニコリと優しげに微笑む。……怖。

 

「それで本題に入るのだけど。あなた。私の下につかないかしら?」


「え?」

 

 僕は一瞬意味がわからず言葉を詰まらせる。

 ……なるほど。そして、すぐに納得する。

 なるほどね。第二王女は自分が王位に就くために貴族の力を借りるのではなく、民衆、平民の支持を武器として戦っていくつもりなのか。

 まぁ女である自分が王位に就くならそうするのが一番可能性はあるか。


「あなたには才能がある。でも平民だからという理由で敬遠され、才能を腐らせている。私はあなたの才能を活かしたいのよ。私はあなたに期待しているの」


「第二王女様……」

 

 僕は第二王女の言葉に関心した。そんなような言葉を漏らす。


「そんな肩苦しく呼ぶ必要はないわ。スシャーナ。と気軽に呼んで頂戴」


「はい!スシャーナ様!」


「……別に様は要らないのだけどね」

 

 様つけないのは色々と問題あるけどね。まぁそんなこと第二王女も百も承知だろうけど。


「まぁそれが限界よね。改めてよろしくね。リーエ」

 

 第二王女は立ち上がり、僕の方に手を伸ばしてきた。


「はい!」

 

 僕はその手を強く握った。

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