第8話 希少Aランクモンスターシルバーボア
★
シルバーボアは人間の肉の味を知っていた。
これまで多くの犯罪者が投獄され、森までたどり着いた。シルバーボアが口にしたのはそこで狩った人間の肉。
森にすむ獣と違い、ほどよく肥えていて柔らかい。シルバーボアはまたその肉を食べたいと思っていた。
そんなことを思いながら生きてきてしばらく、シルバーボアは森が騒がしくなっていることに気付いた。
獣が警戒し、懐かしい臭いが漂う。シルバーボアはその臭いに覚えがあった。
四肢で地面を蹴って向かった先には華奢な身体をした人間の女がいた。
シルバーボアは久しぶりに見る人間に興奮し襲い掛かった。その際に追いかけていた獲物を滝に落としてしまったのだが……。
ありつけるはずだった御馳走を食べられないのは許せない。肉に対する執念が身体を動かし、シルバーボアは獣道を通り下流まで降りると肉の臭いを辿っていった。
★
森を抜け河原へと出ると、そこには銀色の毛並みに金毛が混じったイノシシ型のモンスターがいた。
『バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
俺の姿を認めると威嚇して叫ぶ。その様は獲物を見つけて歓喜しているようだった。
「ピート!?」
「くるなっ!」
俺は追いかけてきたシーラを怒鳴りつけて止める。
「巻き添えになりたいかっ!」
震えが止まらない。なぜなら目の前にいるのはスタンプボアなどではなかったからだ。
「ランクAモンスターのシルバーボアだ。以前、Sランク冒険者パーティーが狩ってきたことがある」
俺は喉を鳴らすと生唾を飲み込んだ。
ミスリルゴーレムと同じく希少種で、当時冒険者ギルドは大いに賑わった。その時と同じ……いや、それより一回りほど大きいシルバーボアが目の前に立っている。
「嘘……、だってそんな……スタンプボアじゃないの?」
似ているようだが全然違う、スタンプボアが灰毛に対し、シルバーボアは銀毛なのだ。薄暗い森の中で見間違えたのだろう。
「ああ、こいつはスタンプボアよりいろいろな部分が優れている」
あの時の衝撃は今も記憶に残っている。
「逃げましょうっ!」
鬼気迫る大声でシーラが俺に提案をしてきた。こいつに襲われた恐怖が蘇ったのだろう。
「シルバーボアの素早さはスタンプボアの比じゃない。鼻がよいからな、逃げたところで一度臭いを覚えたらどこまでも追いかけてくるぞ」
「そ、そんな……」
俺の説明に絶望した顔をするシーラ。自分がこいつをここに引き寄せてしまったことを理解したらしい。
『ビアアアアアッ!!』
その間もシルバーボアは四肢で地面をならし、俺たちに飛び掛かる隙をうかがっている。
「ピート! 強力な魔法で焼き殺せないの?」
「……そんなことできるわけがないだろっ! 相手はあのシルバーボアだぞ」
シーラからの提案を俺は一言で切り捨てる。こうしている間も俺は大賢者のサークレットの知識を探り、最適な魔法を探している。
そんな俺の返答を聞いたシーラは覚悟を決めた表情を向けると、
「今ならまだ私の臭いしか覚えていないはず。だったら私が囮になる! あなたは逃げてちょうだい」
「いきなり何を言っている?」
身体を震わせ、俺のローブを引っ張る。そんな彼女を俺は信じられないものを見るような目を向けた。
「あのシルバーボアは私を追ってきたのよ! 危険を招いたのは私なんだから! ピートまで巻き添えになる必要はないでしょう!」
真剣な表情で俺を見つめる。提案しておいて怖いのか、手が震えているのがわかった。
「お前を放って逃げられるわけないだろっ!」
「っ!? どうしてそこまでっ! 出会ったばかりの私に情なんてないでしょう! あなた死ぬかもしれないのよ!」
必死に説得しようとする彼女。このまま問答をするつもりはない。俺ははっきり言ってやることにした。
「出会ったばかりなんて関係ない! 大切なものを得るためには覚悟の上だ!」
「なっ……」
なぜか顔を赤くして俺を見ては口を開けて放心している。危険な獣を前に隙だらけだ。
『ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!』
シルバーボアの叫び声でシーラが我に返る。俺にはその短時間で十分だった。対処する魔法が見つかった。
やる気が伝わったのか、シルバーボアが地面を蹴り突っ込んでくる。たっぷり詰まった肉を揺らしながら突っ込んでくる。
『ベエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!』
「は、早く逃げてっ!?」
極上の御馳走にありつこうとするように血走った目をしており、
「【コールドライトニング】」
『ボッボッボッボッボッボッボッボッボッボオオオオオオオォーーーーー!』
蒼電が杖からほとばしりシルバーボアを直撃した。
「なななななななあっ!?」
「よし、仕留めたな」
シーラの叫び声を聞きながら、俺はシルバーボアが絶命しているか確認するのだった。
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