モンマルトルを歩くように、美しい風景とその歴史をご堪能下さい。

 海外の文化や歴史に興味がある人にとって、書籍やメディアを通してそれらのことを知ることは、心躍るものがあると思います。

 当作品はフランス在住の作者さんが見た、モンマルトルの姿が描かれています。
 カクヨムさんでの投稿ですから、当然言葉だけの情報のはずなのに、建物や駅、何気ない小路や坂でさえも、美しさや趣などが感じられ、知らず知らずのうちにその魅力に惹き込まれていきます。

 全4話で構成されていますが、私が特に印象に残っているのは、第3話の『モンマルトルに愛された女』です。
 その女性とは「シュザンヌ・ヴァラドン」という女流画家。ロートレックが同棲相手であり、エドガー・ドガが師匠だったことを考えると、彼女が活躍したのは19世紀ころ。私が知る西洋絵画で活躍した女性として最も印象に残っているのは、シュザンヌ・ヴァラドンよりも少し前に活躍した「ベルト・モリゾ」だけだったので、話を読んで驚きました。

「シュザンヌ・ヴァラドン」の絵は、作者さんの言葉を引用すると「大胆なラインと鮮やかな色遣いが特徴である。人物は太く意思をもってくっきりとふちどられ、線に迷いがない(『モンマルトルはお好き』より)」とのこと。その上、女性だからと尻込みすることなく、裸婦を描き、男性のヌードまで描くほどの奔放さ。しかし、こういう人こそが新たな道を切り開き、次の世代が一層自由な作品を描きやすくなる上、さらに良い作品が生まれるきっかけとなるのだろうと思います。

 絵画の世界だけでなく、人生そのものが普通の人が想像もしないような生き方をした「シュザンヌ・ヴァラドン」。世の中の底辺に生まれ育った彼女が、どうやって画家としての人生を歩み、成功させたのか、というお話は興味深かったです。まさに、モンマルトルという土地柄が生み出した画家なのだろうと思います。

 そのほかにも興味深いお話が、短く端的にまとめられております。フランスの美しい風景に勝るとも劣らない、作者さんの洗練された言葉に魅了されること間違いなしです。

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