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「————ウチのバイトが大変失礼しました」
「いえいえ、こちらこそ……まさかあの有名な占い師の友野先生のお連れの方だったとは——……」
「有名だなんてそんな……」
「いえいえ、そんなご謙遜しないでください。何度かテレビでも拝見したことがありますよ」
大和医師は友野の出演している占いコーナーを何度か見た事があるらしく、渚が記者の回し者ではないと信じてくれた。
どうも以前来た記者がとんでもなく迷惑な記者だったらしく、大和医師は疑心暗鬼になっていたようだ。
一階の大広間で友野と話している大和医師は先ほどまでの少し怖いように感じた雰囲気とは違って、穏やかで優しそうな雰囲気になっている。
友野とは少し離れたところに座っていた渚は案内してくれたスタッフに、大和医師がどんな人物か聞いてみると、若いのにとても頼りになる腕のいい先生だと言われてしまった。
「とても素晴らしい方ですよ。ご入居者様からも人気で、どうしても大和先生じゃないと嫌だっていう方もいますし……」
「そうよそうよ、あの方はとーってもいい先生なんだよ」
「そうそう、あの方にかかればどんな病気も治るんだから」
いつの間にか近くにいたご婦人たちが話に参加してくる。
渚はご婦人たちがいかに大和医師が素晴らしいかを語っているのを、相槌を打ちながら聞いた。
「私たちの悩みも聞いてくれるしねぇ……実の息子も……孫も全然会いに来てくれないものだから、ついつい色々話しちゃうわ」
「そうそう、それにあの方に診てもらったあとは、なんだかいつもより元気になっちゃう」
「そうよねぇ……素晴らしい人だよ、あの方は」
大和医師は入居者みんなから絶大な人気を得ているようだ。
友野が大和医師からこの老人ホームの医療体制について説明を受けている間、渚はスタッフと入居者たちからさりげなく話を聞いて、ジュリたちが参加した祭りについて訪ねた。
「そういえば、前に友人が言っていたんですがここでお祭りがあったみたいですね、屋台とかも出てたって」
「ええ、そうですよ。入居者様同士の親交を深めるために、毎月やってましてね……まぁ、屋台が出るのは年に二回だけですけど、それは近所の方や一般の方も参加できるものになってます」
「祭りはいくつになっても楽しいもんだ。この前はひ孫も来てくれてねぇ……」
「わしも息子を呼んだわ。こんなことでもないと、めったに会いに来ないからなぁ……」
ジュリたちが参加したその祭りは、その年に二回行われているものだったようだ。
すっかり入居者たちと打ち解けた渚は、上機嫌で若い頃に参加した全国各地の祭りの話で盛り上がっている老人たちに、神代という男について聞いてみる。
ところが————
「…………」
「…………」
「…………」
和やかで、微笑みにあふれていた大広間が、急に静まり返った。
急にその場の空気がガラリと変わる。
「……なんの話だろうねぇ」
「さっぱりわからないよ」
「何だって? 知らないよ、そんなの」
そして、少しの沈黙のあと、みんな口を揃えてわからないと言う。
先ほどまでの饒舌に次々と自分の話を我先にとしていたご婦人たちも、囲碁や将棋の対局をしていた老人たちも……
一斉に同じことを口にする。
「私たちは何も知らないよ」
神城のことはもちろん、ジュリたちが体験した儀式についても何も知らないと、はっきりとそう言った。
「……そ、そうですか?」
渚はそれがあまりにも不自然で、奇妙に思えた。
まるで、みんなで口裏を合わせているかのよう————
これ以上は何も聞くなと言われているように感じ、渚は友野のところへ戻った。
* * *
「先生、変ですよここ。みんなで何かを隠してます……」
『ほほえみ』を出て、占いの館へ戻りながら渚はそう言った。
明らかにおかしい。
霊や妖怪が見えない渚にも、おかしいと思えるレベルで、あの老人ホームは何かがおかしい。
「あぁ、そうだね。俺もそう思う……特に、さっきの医者」
「……大和先生でしたっけ? あの人もなんというか……嫌な感じがしました!」
渚が大和に対してそう思ったのは、記者だと疑われたせいだが、友野が言っているのは別の意味だった。
「あれだけ入居者たちから信頼されているのに、徳がない」
「……と、とく?」
「そう、徳。医者っていうのはね、人を救う仕事だ。普通、そういう人を救う仕事をしている人には特有のオーラみたいなのがある。命に関わるせいか、
さらに守護霊もいない。
「飲み込まれてる。本来いるはずだった、守護霊が別の存在に————」
「……え、どういうことですか?」
「もう少し調べてみないとわからないけど……よくないモノだ」
友野はそう言いながら、『ほほえみ』の方へ振り向いて、建物全体を遠くから眺めた。
「俺はてっきり、あの人が神代なんじゃないかと思ったんっだけど————……」
三階の窓が開いている。
誰かに見られているような、そんな気がした。
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