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* * *
六人もの人間が救急車で運ばれ、その場にいた上、倒れている人間を助けようともせず蹴って、ゴミ扱いしていた丘山は暴行の現行犯で逮捕される。
搬送された六人は、誰一人死んではいないが、五日以上経っても誰一人、目を覚まさなかった。
「……それでお前たち、あの事件に関わっているんだろう? どういうことか、詳しく説明しろ」
事件をどう処理していいか悩んでいた
友野が社長室の床に書いた印は、現場検証の時には綺麗に消えていたのが、丘山の妻である静香から、霊媒師を名乗る男がやって来て、呪いがどうのと言っていた話を警察にしたのだ。
静香からしたら、丘山が逮捕されたのは納得がいかない。
きっと、その霊媒師のせいだと訴えて……
「それじゃぁ、まるで私たちが犯人みたいじゃないですか……」
「だから、それを確かめるために、こうして聞いているんじゃないか……あと、そこの————カメラを持ってるあんた」
「俺ですか?」
「そう、あんただ。なんで撮ってる?」
「そりゃぁ、警察がどんな取り調べをするのか興味があるからですよ!」
呼ばれたのは友野だけだったのだが、自称助手の渚だけでなく、今だにあの呪いの箱以外の新たなネタを探して彷徨っている広嶋も付いてきてしまった。
東は顔を引きつりながら、「俺たちの顔は映すなよ」と念を押す。
「まぁ、とにかく、友野先生、何があったのか、説明してください。これじゃぁいつまでも報告書がまとめられなくてですねぇ……丘山社長の容疑もはっきり決まらなくて……」
南川が困った顔でそう言うと、友野はあの箱を指差した。
「呪い返しをしたんです。丘山社長が、呪い殺される直前まできていたので……————」
話は、友野が初めて丘山酒造を訪れた時まで遡る————
▼ ▼ ▼
「ようこそ、いらっしゃいました……」
社長秘書だという逢坂の守護霊が泣いていた。
友野にとって、何か訴えたいことや困っていることがあるような……苦しい状況にある人の守護霊や背後霊が見えることは日常茶飯事。
逢坂は社長秘書という大変な仕事をしているせいで、こうなっているのだろうと、そこまで気にはしていなかった。
見える人間からしたら、かわいそうではあるが一々気にかけていたら、先に進めないし、疲れるだけなのだ。
そして、社長室まで案内される中、すれ違った店舗の店員たちも、逢坂と同じような……なんというか、ひどく疲れているような……笑顔で接客をしてはいるが、守護霊や背後霊が全く笑っていない。
以前ブラック企業で働いている人物の占いをした時に、同じような状況だったなぁ……なんて思いながら、二階へ上がる友野。
「いやぁ、よくお越しくださいました。こんな格好で申し訳ない……」
「いえいえ、こちらこそ突然お伺いしまして——……」
そうして、初めて対面した丘山社長は、広嶋に見せてもらった放送時の映像の時とは違い、痩せこけているし、死相————というか、強烈な呪いを受けているのが見て取れる状況だった。
社長室の隅に置かれている布の下からもとても不穏な感じがしたし、何より丘山の背後にいる老人の霊が、ずっと訴えかけてくるのだ。
《殺される、殺される、殺される、このままでは殺される……助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ》
その老人の霊はこの社長の先祖なのだろうと思った。
そして、老人の霊はこちらが聞いてもいないのに、箱について語り始めたのだ。
《箱の中身は空だ。呪いを詰めろ。呪いを詰めろ。助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ助けろ》
「先生? どうしました?」
強く友野にそう訴え、六爪龍の箱に、丘山にかけられている呪いをといて、詰めろと言う。
「お、おい、友野? どうした?」
「…………」
————バサッ
布を外すと黒い箱が姿を現し、まるで箱に巻きついているかのように、描かれている金色の龍と目が合った。
そして、龍の爪の数を確認すると、確かに六つの爪がある。
六の爪を持つ龍の話を、以前霊媒師の祖母から聞いたことがあるのを思い出した友野は、このうるさい老人の霊を黙らせる方が先だと思った。
「すみませんが、この依頼、お断りします。というか……多分、俺じゃ無理です」
《六爪龍は王を守る箱。皇帝の箱。殺す殺す呪いを閉じ込める呪いの箱————》
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