第三話 カラメル付けの微笑み

 知らない女の子が時雨に近づいてきて、耳のそばから囁いてきた。

「離さないで、一人にしないで、もう、歩けない」

 女の子がカラメル付けの微笑みで、表情と全然合わない言葉をして、意味不明な夢。

 夢の内容がわからないまま、時雨は家を出た。


 翌日 浜海都大都会区 羅長威文ビル 1140階 プロトロ事務所

「ここかな、こんな立派な建物の中にあるなんて、凄い」

 時雨は起きてから直ぐに募集についてのメールを見つけた

「明立時雨様、応募書類は承りました。翌日の午後五時に弊社の事務所にお越しいただけませんか。」

「まさか、私なんかの人は、このチャンスを入手できるなんて、だから、絶対逃さないように」

 プロトロ事務所は、浜海都大都会区にある高級ビル「羅長威文ビル」の1140階にある。「スターズセンター」「徳安市庁」などのビル群を眺め、高級マンションに囲まれ、大手企業が集まり、正に一般庶民には近づいてはいけない場所だ。

 エレベーターが到着、目に映るのは、人々がせわしく仕事に精一杯熱心に、清潔でしっかりしている事務所だという所、真っ当なアイドル事務所のはず。

「はい、プロジェクト「トロ星」事務所でございます。何かご用件がありますか」

「わ、、私は明立時雨と言います、プロトロの応募をしに伺いますので」

「はい、かしこまりました。少々お待ちください。」

 もやもやしている時雨は、何気なく、横に座っている、なんかおかしい女の子を見つけた

 オレンジ色の長い髪で、白い頬と宝石ごとき青い瞳、ゴート風の髪飾りと服を着て、美人だけど中二病っぽく見える少女は、厳かな顔をしている

「何かご用、じっと見てて困るわ、吾輩、邪魔されるのがごめんだぞ」

「あっ、すみません」


「はい、雨上あめあがり紬羽つむぎはね様、中へどうぞ」

「わかりました」


 あの子、ちょっと変ね、近づけない感じがするよね


「あけたちしぐれ様、中の会議室へどうぞ」

「はっはい、わかりました」


 時雨は会議室に入り、見覚えがある人を見つけて、びっくりした。

「時雨ちゃん、会いたかったよ、まさかここで会えるなんて不思議ふしぎだよね。昨日きのうはごめんね。おいつめちゃって。でも、どうして逃げるの」

 心乃は躍りおどりかかって時雨を抱きしめてくる。

「こ、心乃ちゃん、ど、どうしてここに、話してください」

「やあ、ははは、まあ、わたし、一応歌が好きなんだよね。あのさ、このプロジェクトが私を探し出したんだ、アイドルにさせるって。せっかくだし、きっちゃった。時雨ちゃんは?」

「わわわ わたし、恥ずかしいから言えないよ」

「えええ、そんな大したことはないってば、ほら、いってよ」

「ううううん」

「えっ、時雨ちゃんもここに来たんだ、うれしいよ。」

「ああ、墨白ちゃんも?」

「はいはい、皆様座ってください、会議間もなく始めます。」

 時雨、心乃、墨白、紬羽四人がテーブルを囲みすわっている。プロトロの担当者、君原きみはらあかねが会議を開く。

「はい、皆様、プロジェクト「トロ星」に応募していただき、誠にありがとうございます。このプロジェクトは、才能がある女の子たちを集め、アイドル活動を行わせていただきます。つまり、皆様は、選べられた人ですよ。企画的に、皆様はアイドルグループを組み合わせていただくことになっております。四人で共同活動を行うことになり、グループメンバーの集団意識を育てるので、寮に引っ越していただくようお願いいたします。寮は本ビルの935階にあります。無料で施設は完備ですのでご心配なく。以上、質問がございますか。」

「はあ?グループ行動って、そいつらのペースに合わなきゃならないの、吾輩は闇の眷属だぞ、闇の力を世界中に広がる役目が吾輩だけで十分だぞ、一人でいいわ。」

「落ち着いてください、雨上様、形式的にはグループ行動ですが、具体的な行動は別々になりますのでご安心ください。」

「それならいいけど。どうせ、家賃は無料だし。別に家賃を節約したいから寮に引っ越すね。」

「はいはい、他の人は何か質問?」

「はい!」

「すみません、あのう、このプロジェクト、一体どういう企画なのですか、わたしたちが、アイドルになり、ステージに立つ企画なのですか。どうして私達を選ぶことになりましたか。」

 時雨は心の中の不安を表す。

「そうですね。本企画は、才能がある少女の皆様にプラットフォームを提供し、自分をアピールさせる企画なんです。皆様はある部分の才能がありますので、本企画にふさわしい人材です。本企画の予算としては十分ですので、皆様にアイドルの頂上に育成していくつもりでございます。」

「わかりました。」

「問題はないですね。皆様の事前調査は既に完成しておりますので、面接などは行わないとなります。よければ皆様は早速寮に移動してください。具体的な日程は後程寮にお届きいたします。」

「えっ、今すぐって?荷物など、結構時間かかりますよね。どうしたらいいですか」

「既に皆様の保護者に連絡しておりました。荷物は後程宅配便で寮にお届きしますのでご心配なく」

「えっ、仕方がないなあ、そうしようか」

 文句を言いながら、三人はエレベーターで935階の寮に移動していく。


 同ビル935階 プロトロ寮

「わあ、すごいわね」

 ガラスの窓から差す陽光は、部屋を照らす。270°の窓から眺める浜海都心の高層ビル群。二階のロフト式の寮は木製のようなデザインで落ち着く雰囲気が溢れてくる。

 いわゆる「偉い人じゃないと住むことができない部屋」

「私ごとき、ここに泊まるなんて」

 紬羽はびっくりした。

「はい、皆様、ここはプロトロ寮でございます。では、ご案内いたします。中へどうぞ。」

「こちらはロビーですね、なかはお知らせ用のテレビです。仕事についての情報はここに載っています。」

「こちらは台所でございます。設備は完備ですので、ご自由にお使いください」

「二階の一号室は天宿様のお部屋ですね。二号室は明立様で、三号室は雨上様ですね。」

「はい、これ、これは連絡用のバングルです。何かあったらこれで連絡してください。では、ゆっくり休んでください。」

 君原が立ち退く、雰囲気がすぐに変わった。

「それじゃ」

 紬羽は何も言わずに自分の部屋に引きこもうとした。

「そういえば、昨日のこと、どうして逃げ出したの?私のこと、そんなに嫌いの?」

 心乃は心の中の疑問を言い出した。

 え、ええええ、心乃ちゃんが追い詰めてくる!どう答えていいのかわからないよ。

「嫌いことは、ないですよ」

「っていうことは、私のこと、好きなのかな」

「すっ、すき?そんなことはないよ」

「まあまあ、見ればわかるよ。だって、好きじゃなきゃ、頬が赤くなることはないよ」

「それは。。。心乃ちゃんに、からかわれて、恥ずかしいから」

「可愛いね」

「心乃ちゃんこそが、どうしてこの企画に参加するの?今の心乃ちゃんは人気者だよね、今の道をただ進めばいいのに。」

「えっと、そうだなぁ。わたしね、歌を歌うのが、結構好きなんだ。歌って、人々に私の気持ちを届けたい、人々に幸せを伝えたい、もっと輝きたい、そういう気持ちで、このプロジェクトに参加したんだ。ステージに立って、もっとときめきを実感したい、だから、アイドルになった。時雨ちゃんは、ここで会えるなんて、びっくりしたよ。」

「えっ、わたしは、うううううん」

 心乃ちゃんと一緒に歌いたいなんて絶対言えない!!!!

「どうして黙ってるの、素直じゃないね。理由聞かせて、ねね」

「もう、心乃ちゃんのバカ!!!」

 時雨も部屋に戻って、心乃を一人にした。

「可愛い子ばかりね。さって、をしようか」



「ふざけんな!このぐらいのことできないのか!やり直せ」

「申し訳ございません、直ぐに手直します」

「まったく、実習生はそういう程度か」

 私の名前は雨上紬羽、国立浜海大学政治学部の二年生、今はある国会議員の選挙オフェスで実習している。

「紬羽ちゃん、今晩の懇親会、来てくれるよね」

「すみません、夜は用事があるので、それはちょっと」

「ええ、残念」

 実は、夜はアルバイトがあるからいけないね


「にゃん、いらっしゃいませ、ご主人様、どうぞこちらへ」

 メイドカフェでアルバイトをするのは、恥ずかしいけど、知り合いが知らないからいいもんね。バレないようにしないと。どうせ、ともたちがいない。

 わたし、お金が必要なの、どうしても貯金したいの、我慢して、どんな恥じらいことをしても、どんな辛いことをしてもいいと思う。を実現したい。を果たさなきゃ。


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