3-2 もうひとつの左手①

「君は馬鹿だな」

 

 ラーゼフ・ピュクシスは神経質そうに呟いて、白衣の裾を靡かせて室内を闊歩する。

 用途不明の機械がごちゃごちゃと無造作に散らかっているにも関わらず、その全ての位置を把握しているのか正確に物の隙間を縫って徘徊を行うという奇妙な芸に思わず感心。


 内心で拍手していたのがばれたわけでもなかろうが、きっと睨み付けられた。

 眉間に寄った皺といい、邪視者もかくやという鋭い眼光といい、およそ親しみやすさとは対極にある人物。


 けれど美人だ。圧倒的な美人。寝不足のせいで目立つ隈や荒れ気味の肌すらその神が与えたもうた造型の前には些細なことのように思える。飾り気の無い服装の中にも隠しきれない艶やかさ。女性としては珍しい名前の響きすら、その威圧的な美貌を引き立たせる為の装身具に思えてくるほど。

 

「外世界人の精神状態を安定させるためだけに【フィリス】を使った? 本気で? 魔将もまだ倒していなかったというのに?」

 

「その魔将を倒す為に、彼の助力が必要と判断したのですと、先程ご説明しましたが」

 

 研究室の丸椅子に腰掛けて、私はささやかな反論を試みた。もう幾度となく繰り返した弁明である。ラーゼフは細い指先で眼鏡を軽く直しながら、短く嘆息した。

 

「その上で馬鹿だと言っているんだ。いいか? 君のその未熟な呪術の腕前で、そんな繊細な干渉が必要な術を使ったこと自体が間違っている。その青年のパーソナルヒストリーに傷が付いて、歴史上から消滅していた可能性だってあったんだぞ? いや、もっと悪くすれば、君に敵対的な人物になることだってあり得たんだ」

 

 ぐうの音もでない。監禁状態の私が報告書を提出し、度重なる聴取によって事の顛末を話した後も、しばらくこうやって正論で叩きのめされ続けたものだった。彼女には日頃から世話になっている手前、強気に出ることが中々できないというのもある。



 【大神院】が有する修道騎士団が一つ、【智神の盾】に所属するラーゼフは、出向という形で【松明の騎士団】で私たち修道騎士と合同で迷宮探索に赴いたり、異獣の生態に関する調査研究をするのが主な役目である。その他にも装備品の開発なども行っており、全ての修道騎士は彼女に対して礼を欠くことが絶対にできない。装備品の調整に関して手を抜かれれば、自らの生死に直結するからだ。


 基本的には研究員なので戦闘に直接的に関わったりはしないが、敵である異獣の弱点や対抗策を考案し、適切な装備や人員の配置などを上層部に進言するなどの重要な役目を担っている。


 【星見の塔】から派遣されていた【きぐるみの魔女】が謎の失踪を遂げた後は、その役職を引き継いで私達【異獣憑き】の調整や管理を担当しており、彼女の機嫌を損ねる事は私にとって命綱に切れ込みを入れるような暴挙に等しい。

 

「すみませんでした」

 

「謝ればいいというものではない――全く、心配をかけさせて」

 

 彼女が、至極生真面目にそれを言っているのがわかって、思わず胸を突かれたような気持ちになる。以前は気づけなかったけれど、そこまで私のことを考えていてくれたのか。

 

「君は私が――我が【智神の盾】が独力で完成させた初の異獣憑きなんだ。しかも今まで誰にも適合しなかった『あの』第一魔将の適合者。その能力の詳細には未だに不明な点も多い。重要な検体をそうそう失うわけにもいかないのだよ」

 

「ああ、そんなことだろうと思いました」

 

「何だその不満そうな返事は。いいか? 自覚が無いようだから再確認するが、君は【星見の塔】の力を借りずに純粋に大神院から生み出された異獣憑き。邪神ではなく父なる槍神の祝福をその身に受けた、異獣をまつろわせる宣教聖騎士だ。そして、あのいけ好かない【きぐるみの魔女】ではなく、この私が手ずから作り上げた最高傑作!」

 

 最後のが本音だろうな、と醒めた目を送りつつ、私は内心で小さくあーあ、と呟く。興奮して赤みが差した頬と明るくなった表情はちょっと可愛らしい。これさえなければ素直に好意を持てる相手なのに。


 央都アルセシリアの学術院を主席で卒業し、名門ピュクシス家の出として常に周囲の期待を一身に受けている彼女に同情する気持ちはあるけれど、過剰なまでに【塔】への対抗心を露わにする所はちょっとついていけない。

 

「君が馬鹿な真似をして地下にぶち込まれている間に、新型の呪動装甲だって出来上がったというのに」

 

「それ、本当ですか!」

 

 思わず勢い込んでしまった。我ながら単純ではあるが、自分の命を預ける武装のことだ。どんな修道騎士だって目の色を変える話題だろう。とりわけ私にとっては。

 

「ああ。アズーリア専用に調整していく工程が残っているが、まあ九割完成だな。前々から申請を受けていた肩の可動性と慣性制御機構の改良に加え、君の種族特性を活かせるように内部の呪力伝導率を――」

 

「ああ、細かい事は動かしながら聞きます。早く試験運転しましょう早く早く」

 

「君、鎧の話になると相変わらずだな」

 

「それはもう。私のもう一つの身体ですから」

 

「確かにな。文字通りの意味でその通りだ――その意味で、君は【きぐるみの魔女】の方と相性が良かったのかもしれないが」

 

 ラーゼフの言葉に、少しだけ考え込んでしまう。

 私は【きぐるみの魔女】と直接の面識が無い。

 呪動装甲と寄生異獣という、現在の【騎士団】において戦力の中核を担う技術を提供した【星見の塔】の魔女。


 彼女が地上にもたらした物は大きい。この二つの力があったからこそ幾多の魔将を倒し、第四階層までの攻略が為し遂げられたのだ。事実、私も寄生異獣の力が無ければ魔将エスフェイルに敗れていたに違いない。


 だが、私が知らない間――地下に拘留されている間に【きぐるみの魔女】は裏切った。大量の機密情報と貴重な聖遺物を持ち去り、研究施設の破壊、修道騎士にも死傷者を多く出して逃亡した。噂では地獄側に寝返ったとも、第五階層に潜伏しているとも言われているが、詳細な事情まではわからない。


 この一件で【騎士団】と【塔】の仲は拗れるかとも思ったけれど、総団長の意向はこのまま【塔】との協力関係を続けるというもの。

 

「【塔】からの後任、まだ決まってないんですか?」

 

「まだらしいな。何でも団長殿が強硬に要望を出して、向こうが難色を示しているとか。前もこうだったとか聞いたな」

 

「それってやっぱり例の――」

 

「【冬の魔女】だよ。なんとしてでもウチに迎え入れたいらしい。本人は気楽に英雄気取りで探索者なんてやってるわけだし、その気は無いんだろうにな。【塔】経由で打診しても無駄とくれば、もう本格的に振られたなあれは。あの色惚けさえなければ完全無欠なんだがね、あの方も」

 

「失礼ですよ、幾ら何でも。それにいいじゃないですか、前世からの運命で繋がった恋人同士って。夢があって――いえ、もちろん本人達の意思が一番大切ですけど」

 

 本当は、転生者という存在に関しては思うところがあるけれど――幸いにして、噂の人物達はこの時代に生きている人を犠牲にして誕生する憑依転生者ではない。それに、私自身が誰かを犠牲にして生き延びるという方法を非難する資格がもはや無いのだ。


 私の浮ついた発言を聞いて、ラーゼフは意外そうに片方の眉を上げた。そうして興味深そうに、こちらを観察する目になって問いかけてくる。

 

「意外な一面だな。君はそういう情緒的な事には興味がないのだとばかり――ああ、いやそんなことも無いのか? 確か拘留期間が長引いたのは、地下で思想的に問題がある創作物をアストラル投射で拡散させようとしたからとか聞いたぞ」

 

「それ、誰から聞いたんです?」

 

「いや誰でも知ってる。何と言ったか――戦場小説フロントライン・ノベルとかいうあの迷宮読み捨てのペーパーバッグを書いてるんだろう?」

 

「――」

 

 密かな趣味兼副業が。ようやく自由の身になったというのに、外を出歩くのが恥ずかしい。悄然としていると、ラーゼフは少し真面目な顔になって私に警告した。

 

「まあ、やるなとは言わんがほどほどにしておけよ。私も【智神の盾】の一員だ。目に余るようなら上に報告せねばならん。異端審問官どもに目を付けられて順正化処理なんて嫌だろう?」

 

「肝に命じます」

 

 この様子では、しばらく談話室に意識を飛ばすのは控えた方がいいだろうか。そんな思考に、鋭く突きつけられる現実。私の認識は、全く持って甘すぎるとしか言いようがなかった。


「――ちなみに、君が夜な夜な『おいた』をしていることは筒抜けだ」


「何の事でしょうか」


 しまった、返事が早すぎた。内心が態度に出ていないだろうか。フードで表情を隠しつつ、そっと相手の様子を窺う。呆れたような視線が向けられていた。


「ま、一部の反動主義者でもあるまいし、この時代に異教徒や異端者は皆殺しにしろ、などと頭のネジが緩んだことを言うつもりは無い。君が接触している呪術師たちの身元も全て調査済みで、問題は無いとわかっているからな」


「え」


 私だってあのアバターの向こう側がどんな存在なのかは知らない――というか、そういうことはお互い明かさないのがあの世界の基本的な不文律だ。

 呪術によって全てが構成されているアストラル界では、まことの名を知られるということはその心臓と脳、己の全ての情報を明かすことにも等しい。


 己の技量に自信があれば、あらゆる呪術を跳ね返すことも可能だろう。

 自らの人格を強調したり名声を高めることで、自己という強固なミームを生成することだって可能だ。自己のキャラクター化、コンテンツ化はかなりの覚悟と大掛かりな準備を必要とする諸刃の儀式呪術なのである。


「確か全部で五人だったな。うち二人が北ドラトリアからのアクセス――そういえば君の故郷の隣国だったな。あとは探索者に学生、それと君と同じ不良修道騎士。特に怪しいところは無い」


「それ、最後のって本当ですか」


「事実だよ。残念なことにありふれたことだ。まあ、教義にも規則にも、呪術師と関わってはならないともアストラル投射を行ってはならないとも書いてないからな。君と同じように神働術の不適切使用をする輩は幾らでも出てくる――いちいち取り締まっていられるわけがない。何だ、自分一人が特別に危険で逸脱した行為を行っているとでも思っていたのか?」


「いえ、そんなことは」


 ちょっと思っていた。しっかりと監視されているとは言え――いや、監視しているからこそ個別の事例に対処したりはしないということのようだ。とはいえ、ぞっとしない事実ではある。


「もう一度念を押すが、ほどほどにな。君はあくまでも修道騎士だ。あまり入れ込みすぎるな」

 

「はい」

 

 答えながらも、私は内心で首を傾げる。

 私の行動は全て筒抜けだという。

 おそらくは、行動の記録は全て見られていると思って間違い無い。


 だとすると、ラーゼフの言葉にはおかしな点があった。

 私がアストラル界で接触している呪術師たちが、全部で五人だということだ。

 いつも談話室で話をする相手にはたまにだが【ジアメア】という奇妙な言動をする人物がいる。その名前が出てこないということは、あの人は大神院の目すら欺く超級の言語魔術師だったりするのだろうか――?


 それともう一人。脳裏に浮かんだのは、漆黒のフードを深く被った、あまりに美しい斧槍の少女。どこからともなく現れて私を救ったかと思うと失礼な言動で意味の分からない宣言をして、そのまま消えていった謎の呪術師。


 ハルベルトの存在を、大神院は認識できていない。それは比較的するりと落ちてきた納得だった。なぜってあの時、襲撃者の前に立ちはだかった姿は余りにも強烈だった。

 あの圧倒的な呪力。彼女が高位呪術師、それも情報操作の専門家である言語魔術師だったとしても何ら不思議ではない。むしろ当然だとすら思えた。


 あの後、「また会えるから」とだけ言い残して消えた彼女は、一体何者だったのだろう。胸の中に、消えない靄がかかったような気持ちになる。夜闇に一筋差した月明かりのように、あの歌声と美貌の記憶が皓々と私の黒々とした内心を照らして止まない。あの輝きを、一度でも知ってしまえば忘れることなどできないのだ――。

 いつの間にか、熱病のような思考に浮かされていた。はっとなって我に帰り、ここがラーゼフの研究室であることを思い出す。

 

「どうした、ぼうっとして。鎧のテスト、するんじゃないのか」


「あ――はい! すぐに準備します」


「わかった。じゃあ照明を消すからローブ脱いでそこに座っていろ」

 

 ラーゼフは手に持った操作端末を一振りする。部屋が暗くなる――だが私にとっては慣れ親しんだ光量だった。ラーゼフのように視界が制限されたりもしない。


「時々思うよ。君の見ている世界はどんなものだろうと。果たして私の見ているものと同じ世界なのだろうかと」 


「さあ、どうでしょう。私も、自分が見ている世界が他の人と同じなのかどうか、たまに疑問になるんです――どうしたって、種族の差はありますし」


 身に纏った漆黒の衣を脱ぎ捨てて、私は複雑な機材に囲まれた寝台に横たわった――露わになった黒衣の内側は、暗闇に隠れてラーゼフの目には届かない。彼女は手元の端末を定められたとおりに操作して、あとは自動機械に全ての作業を任せる。


 寝台の上下左右から複数の関節を持った腕が伸び、鎧の各部位を私の身体に装着していく。しばらく無機質な音だけが響き、やがてそれも停止する。全身を不可視の波のようなものが通り抜けていくような感覚と共に、呪的装甲を私の霊体と調律する細かな作業が開始される。といっても、私は心静かに横たわっていればいいだけなので楽なのだが。

 ラーゼフの声が全行程の終了を告げる。


「終了だ――毎度思うが、不思議な光景だな。ローブの中に何でも収まるというのは」


「便利ですよ。いつでも一瞬で着替えられますし」


 照明が点灯した時には、既に私は漆黒のローブ姿に戻っていた。全身鎧の輪郭など微塵も窺わせない、我ながらやや小さめの体躯を黒衣が覆うのみという姿。


「常に鎧を着たままというわけではなくて、その黒い衣の中にしまっているという解釈でいいのか?」


「鎧を着た状態を記憶しておいて、それを呼び出す感じですね。自分の状態を意識の隅に並べておいて、状況に応じて切り替えていくんです」


「正直、想像を絶しているな、君たち眷族の生態は」


「加護は色々と便利ですよ。実際、そのお陰で私はエスフェイルに対して圧倒的優位に立てたわけですし」


「だろうな。正直、君以上にあの影使いに対して有効な人材を他に思いつかないくらいだ。全く、眷族神の加護持ちは揃って優秀で驚かされる。魔将に対する神将とでも言ったところか」


「あの、そう言うこと言ってしまっていいんですか。大神院の見解だと、一応天使と言うことになっているはずでは」


「誰が気にするんだそんな細かい事。槍神に代わって地上に影響を及ぼすのが九柱の眷族神だろうが九大天使だろうが九神将だろうが大して違いは無い。ああいうどうでもいい呼称の変更はな、大神院の老人どもが自分たちは仕事をしているというアピールの為に無駄に重ねている会議の副産物でしかない。どうせまた次の節が巡れば違う呼び方になっているだろうさ」


 心底くだらない、といった口調で吐き捨てるラーゼフは、思想や言動の面で言えば私よりも上に目を付けられそうだった。逆に言えば、このくらいは口にしてもいいということなのだろうか。それともラーゼフだから許されているのか。


「まあ外でおおっぴらに口にするようなことでもないがな――ふん、仕方無い、くだらんがいちいち君に指摘させるのも可哀想だ。政治的に正しい言い回しを心がけるとしよう。とにかく、君の守護天使は大神院が定める位階では第二位。第一位が最高神である槍神の半身のようなものであることを考えれば、事実上最高位の天使からその加護を賜っているわけだ。つまり、君の霊的な潜在能力は本来ずば抜けて高いはずなんだよ。それこそ、九人の管区長、【守護の九槍】に匹敵するほどにな」


 幾ら何でも私の能力を高く見積もりすぎてはいないだろうか。魔将を倒して英雄扱いされることが決定したからと言っておだてないでほしい。調子に乗ってしまう。


 それに、最上位聖騎士の九人の力は別格だ。【騎士団】の頂点に立つ筆頭聖騎士の総団長や、副団長である聖女様の振るう神働術はまさしく神懸かり的である。私など、比べることすらおこがましい。


 けれどもしそれが本当なら、と胸の中で密やかに暗い色の炎が点る。【守護の九槍】第七位。第四階層で私達の存在をゴミ掃除でもするかのように切り捨てたあの男に対抗できる力が手に入るのだとすれば。熱を宿し始めた私の意識に、ラーゼフの言葉が入り込んでくる。生まれた感情を黒衣の奧に仕舞い込んで、彼女の声に耳を傾けた。

 

「やはりな――前に計測した時よりも、神働術適性が全体的に上昇している」


 計器から放たれる微かな光を見ながら、ラーゼフがぼそりと呟いた。半ば驚き、半ば予想通りといった感じの口調。


「確かに、エスフェイルとの戦い以降、呪りょ――霊力の流れを捉えやすくなった感じはしますけど――アストラル投射もできるようになりましたし。でもそれは、私がフィリスの扱いに慣れてきたからでは?」 


「それもある――が、どちらかと言えば寄生異獣に浸食されることによって、君自身の才能や適性そのものが底上げされていると言った方が正しいな」


 ぎょっとして、思わず黒衣から左手だけを出すという普段しないことをやってしまう。手首から直接伸びる金鎖は、正常に機能している筈だ。地上に帰還して真っ先に行ったのは失われた金鎖の補充だったから。


「急激な浸食は無い、という話では?」


「勿論、君の意識が乗っ取られるような心配は今の所は無い。知っての通り、寄生異獣、特に擬態型は肉体に直接異質な生命体を侵襲させる技術だ。強大な霊力を有する異獣を肉体に寄生させれば、当然異獣はその強力な霊力によって宿主の肉体と霊体を汚染していく。浸食率が一定の段階にまで達すれば、異獣憑きはゾンビ化するわけだが――」


「それを防ぐための【フラベウファの金鎖】なんですよね?」


「その通り。君の左手に埋め込まれた金鎖は言ってみれば使い捨ての寄生異獣の制御装置だ。よほど強大な神働術使いでもなければ、金鎖無しで寄生異獣を活性化させることは自殺行為に等しい。そんな自殺志願者は私の知る限り一人だけだが、君は絶対に真似をしないように。話が逸れたな――君の場合、そもそも厳密な意味での擬態型ではないことが問題になってくる」


 機械腕の一つが、小さな光で私の左手を照らす。その左手には、色が無かった。

 彩度の無い、白と黒のみで表現されたモノクロームの輪郭。


 手繰る呪力の性質によって豊かなグレースケールでその明暗が切り替わり、時には白と黒の比率までもが反転する。極まれば純粋な白、極端な黒にも染まりうる、存在の不確かな影。異獣原体。始祖魔将。無彩色の細胞。様々に呼ばれるその寄生異獣の名を【呪祖フィリス】と言う。

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