第37話 魔鉱石の精錬!
中央鉱床のゴーレムを倒した俺たちは、早速ミスリルの採掘を始めた。
鉱床ではゴーレムに採掘をしてもらい、鼠人やスライムに鉱石を一か所に運んでもらう。
ユーリが言うには、一日で剣が数本作れるミスリル鉱石が掘れたようだ。また、他にも鉄鉱石や銅、石炭など普通の鉱石も豊富に採れた。
一方で地上ではこの数日、アルス島の整備に努めていた。
まず、廃墟の撤去。
といっても状態のいいものは残し、倒壊したものだけをゴーレムに解体してもらう。
なぜ撤去するかと言われれば、アロークロウなどの魔物に隠れられたり巣を作られるのを防ぐためだ。
また、撤去して出た石材は再利用するつもりだ。
次は街路や既存施設の清掃。
俺たちが暮らす政庁も、スライムたちが埃を吸い取ってくれたおかげで、まるで新築のようにピカピカになってきた。
他にも倉庫など、綺麗に清掃してもらっている。
鎧族や鼠人は、そんなゴーレムやスライムを警護したり、襲来するアロークロウを倒してくれた。
また、鼠人は島にまだいた鼠を連れてきてくれた。
俺は新たに二十体の鼠を眷属にして、ふうと息を吐く。
「……これで五百名ほどか」
「チュー! アレク様、ありがとうっす! 誠心誠意、お仕えするっす!」
鼠を連れてきたティアがそう言うと、新たに眷属となった鼠人たちもチューと声を上げる。
俺の眷属である鼠人はこれで、千五百名を突破した。
「まだ、こんなにいたんだな……」
「いやあ、もしかしたらまだいるかもしれないっす!」
「まだ増えるのか……」
俺は近くに立つエリシアと顔を見合わせた。エリシアも末恐ろしいとでも言いたげな顔をしている。
まあ、鼠人はなんだかんだ色々こなしてくれるし、島が活気づく。
それに鼠人の一食の費用は人の十分の一以下で済むから、鉱石が大量に採れる今、特に問題はない。
それでも欲を言えば、食料も自給できるようになればいいのだが……
アロークロウはやはりこの島を避けるようになってきた。だから、今までのように肉は得られなくなる。
……家畜を連れてくるかな。でも、牛や羊、豚は育てるための牧草地が足りないから、卵を産む鶏ぐらいしか育てられないか。
となると、あとは魚だな。
なんとか漁ができないか考えてみよう。
「ともかく、俺たちはローブリオンにいったん戻ろう……ユーリの様子も気になる」
「はい。セレーナも呼んでまいります!」
エリシアは急ぎ、政庁にいるセレーナを呼びにいった。
そうして俺とエリシア、セレーナはローブリオンの拠点の四階にある部屋に《転移》する。
セレーナは窓から見えるローブリオンの街並みに、やはり驚きを隠せない様子だった。
「徒歩で数日の距離を……本当にすごい」
「時間があれば、帝都にも連れていくよ。だけど今、帝都はちょっとね」
あまり大人数で大っぴらには歩けない。
至聖教団に見つかるとやっかいだ。
俺の《隠形》を見抜く奴もいるかもしれないし。
「見てみたくないと言えば嘘になりますが、どうかお構いなく。家族や知人が生きているわけでもないですし。今はアレク様のためにお尽くしすることが、私にとっても大切なことです!」
セレーナはそう答えてくれた。
嬉しいけど、俺のためだなんて恥ずかしい……しかも真顔で言われると。
「あ、ありがとう、セレーナ……それじゃあ、ユーリたちの様子を見にいくか」
階段を降りていくと、カンカンと金属を叩く音が響いてくる。
一階の工房に着くと、そこでは多くの青髪族が鍛冶や製作に励んでいた。
「えっと、ユーリは……いたいた」
ユーリは溶鉱炉の前で、だくだくと汗を流していた。
青みがかった黒い髪を耳にかきあげるユーリ。
白いシャツが汗で透けて、目のやり場に困るほどだ。相当熱いのだろう。
俺は溶鉱炉にまっすぐ目を向けながら、ユーリの隣に行く。
「ミスリルを溶かしているのか?」
「あ、アレク様! ええ、でも時間がかかって……本当は、魔力を送れればもっと速く精錬できるのですが」
ミスリルをはじめとする魔鉱石の精錬や加工には、魔法が使える者が作業を手伝うことも多い。
魔力を送ると、魔鉱石の形を変えやすくなるのだ。
「魔鉱石はそうだったな……そうだ、せっかくだし、ユーリに魔法を教えるよ」
「え、いいのですか? でも、私は正直言って要領が悪くて」
「いいや、ユーリには闇と雷の魔力に恩恵がある紋章を持っている。闇魔法は無理としても、雷魔法はすぐに使えるようになるはずだ」
「本当ですか?」
「まあ、試しにやってみよう」
俺たちはさっそく中庭へと向かう。
そんな中、セレーナがじいっとユーリの手の甲を見ながら言う。
「……闇の紋章。私には全く分かりませんが、アレク様には分かるので?」
「【冥工】っていうんだ。闇と雷の魔法、そして鍛冶に恩恵がある」
「ほう……アレク様には読めるのですね」
「その言い方だと、古代でも闇の紋章を解読できる者はいなかったみたいだな」
「そう、ですね。悪魔と遭遇し、教えられた者はいるそうですが」
つまり悪魔は闇の紋章を読める、ということか。
ユーリが不安そうに言う。
「鍛冶はともかく、私が魔法なんてとても信じられませんけどね」
エリシアが頷く。
「ユーリは野暮ったいですからね」
「エリシアも、魔法というよりは斧のほうが似合っている感じだけどね……ともかく、お手柔らかにお願いします、アレク様」
「ああ。だけど本当に難しいことじゃない。まずは、あの的の中央を狙ってみよう」
俺は中庭にある的を指して言った。
あれは青髪族が弓やクロスボウの試射に使う的だ。
「魔力は、空気中に浮かんでいる。まずは、それを手に集めるようイメージする……」
「はい……」
ユーリは目をぎゅっと瞑って、両手を的に向ける。
「むむむ……アレク様。全く、何も感じません」
「いや、ユーリ……俺には分かる。大変な量の魔力が集まってきている」
ユーリの手には膨大な魔力が集まっていた。これを電気にして放てば、拠点が丸焦げになってしまうかもしれない。
「アレク様……私が駄目だからってお優しい!」
当のユーリは俺が気遣ったと勘違いしているようだが。
だがエリシアもセレーナも魔力の流れに気が付いたのかこう言う。
「気を付けてくださいよ、ユーリ」
「色々とおっちょこちょいだから、ユーリは」
「セレーナには言われたくない……ともかく、魔力は集まっているわけですね」
俺はうんと頷く。
「ああ。でも、雷は強力な魔法が多いから、ここはまず恩恵のない水魔法からやってみよう。頭に水を思い浮かべて、的を撃つんだ」
「は、はい! えいっ!!」
ユーリの手から人の頭ほどの大きさの水球が放たれ、的に命中する。
おおとユーリは声を上げる。
「す、すごい! 魔法ってこんなことができるんですね!」
「雷ならもっとすごい魔法が使えるだろう。ともかく、ユーリもこれで魔力を送れるな」
「はい! それではこれでミスリルを早速精錬してきます!」
「ああ」
早速ユーリは溶鉱炉の前に戻り、ミスリル鉱の入った岩の容器に手をかざした。
すると、まだ固形だったミスリルは見る見るうちに溶けていった。
「おお、速い!」
「ユーリの魔力量なら納得だな」
ユーリは早速、トングでミスリルの入った岩の容器を取り出し、インゴット用の鋳型に溶けたミスリルを流し込む。
それが冷えれば……
「ミスリルインゴット……こんなに大きなの、初めて見たかも」
足の大きさぐらいのインゴットを見てユーリが言った。
「滅多に市場に出回らないからな……同じ量の金と同じ価値で取引されることもある」
「こんなものがこれからも、毎日のように採れるなんて……」
ユーリは白光りするミスリルインゴットに目を輝かせた。
「さっそく、どんどん精錬していきますね! 作る物は何か決まっていますか?」
「そうだな……最初は何か武具にしようと思ったんだが……うん?」
俺は、青髪族の一人がこちらにやってくることに気が付く。
「どうかしたか?」
「そ、それがアレク様。店のほうで神殿の神官が、アレク様の居場所を知っているかと聞いてきまして」
ユーリが言う。
「それは、帝都に帰ったって伝える話になってたでしょ?」
「ああ、そう言った。だけど、ローブリア伯との話と違うって。もしかしたら、アルスのほうに誰か行っちまうかもしれません。も、申し訳ありません」
頭を下げる青髪族に、俺は首を小さく横に振った。
「気にするな。ちゃんと言うことを言ってくれたんだ。それに……アルスのほうに行くにしても」
俺が言うと、エリシアとユーリは苦笑いする。
「相当苦労なさるでしょうね……あの魔物の数ですから」
「というか、生きてたどり着けないんじゃ……」
二人の声に俺は頷く。
「まあ、一応はアルスのほうでも警戒はしておこう……そんなことより、ミスリルのほうが重要だ」
俺は特に気にせず、ミスリルの使い道について考えるのだった。
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