第50話 良い趣味しとるのう!
ガイナン、お前への指示を与える。
夜間において、星の見える位置に一時間は姿を出せ。この指示を護れないのならお前は降格だ。
「全く……あの青二才め。言うようになったわい」
ガイナンは外に椅子を出して座ると夜空を見上げていた。数多の星々がいつもと変わらない様子で輝いている。
サンドロスの天候は殆どが“晴れ”。時々砂嵐。夜間の星は毎夜見ることが出来るため、オルセルの条件は十分に満たしている。
「オルセルよ。見ておるか! 余生の少ないジジィを監視しおって! 良い趣味しとるのう!」
「……何をしているのですか?」
夜空に向かってギャーギャー騒ぐガイナンへ、カナタはもうボケが始まったのかと呆れた。
「お、カナタか。話し相手に来たか。気が利くのう。丁度退屈だったモノでな」
「とてもそうは見えませんでしたが?」
まぁ座れ。と、ガイナンは家のベランダに置いてある椅子を隣に転送させる。
「結構です」
「そうか」
「いくつか質問を良いでしょうか?」
カナタは椅子に座ったまま振り向かないガイナンと会話を始める。その状態でもまるで隙がない様は人の身では破格の実力であると改めて理解する。
「構わんよ。その代わりにワシも質問をするが良いか?」
「……どうぞ」
ガイナンはコインを弾くと、カナタヘ表と裏を問う。
「裏」
「ふむ、表だ。ワシが先だな」
「どうぞ」
「お前さんは『ドラゴン』か?」
「そうですが。なにか?」
躊躇いなく当然の様に告げるカナタにガイナンは腕を組む。
「証明できるか?」
「何を持ってして、貴殿方が私を『ドラゴン』と定義するのかわかりません」
「ふむ。お前は自らを【無双王】と名乗った。他にも同じような“王”は居るのか?」
ガイナンはカナタを『ドラゴン』と仮定して内部の情報を探る。
「居ます。既に死去した王も居ますが」
「知るだけ答えてくれんか?」
「【天秤王】【磁界王】【雷霆王】【解剖王】【風塵王】【極光王】。そして、【無双王】です。この内、【天秤王】【磁界王】【雷霆王】は既に死去しています」
ガイナンも知った名前が出た。この辺りの情報はカナタと話したことの無いモノだ。
「そいつらは『ドラゴン』の精鋭なのか?」
「精鋭……と言うには少し違います。“王”の称号は帝王閣下に認められし個体の証明であるのです」
基本的には己の魔力特性を名乗る。カナタも【無双王】の前は【重力】であった。
「その帝王とやらは、お前らからすれば王の中の王の様なモノか?」
「閣下は同じ次元の存在では無いはありません。生物的な構成は同じでも、その力は強い弱いでは測れないのです。かの『ドラゴン』を前にあらゆる存在は等しく死を迎えます」
「とんでもないのぅ。して、ヒトは勝てるか?」
「不可能です」
帝王の傍らで、己の力を振るってきたからこそ言える。ヒトが何世紀も文化、文明を重ねようとも、かの帝王には触れることすら出来ないだろう。
そう……ヒトでは――
「そこまで言わしめる帝王閣下とやらの能力は何だ?」
「これ以上は質問の証明にはなりません」
本来の質問から少し反れたが、更に余計な問答はするつもりはない。
もうちっとだけじゃないか、と言うガイナンに呆れつつもカナタは質問をする。
「……ご家族は他にいらっしゃるのですか?」
カナタは家の中で丁寧に置かれた写真の一つを見ていた。それは若い頃のガイナンとエルフの女が写る物。
ガイナンが残骸の中から真っ先に探して無事を安堵していたアイテムだった。
「妻が居た。しかし、子は成せん身体でのう。死ぬ寸前まで謝られたわい」
「……仲はよろしかったので?」
「駆け落ちみたいなモンでのぅ。ワシは妻を愛していたし、妻もワシを愛してくれた。しかし……愛とは全く持って難しいモノだ」
当時の事は遥かに昔。しかし、家の扉を開ける度に思い出す。
「『教会』に属し、任務から帰ると、アイツは死んでいた」
「それは……」
「自殺だ。遺言には子を成せずに申し訳ないと書かれていた。と言うわけでワシは今、弟子と二人で暮らしとる」
共に苦しみを分けていたハズだった。しかし、互いの愛が深くなればなる程、子を成せない未来が彼女を死に追いやったのだろう。
「……良いのですか? 私にその事を話をしても」
「信頼とは自分から歩み寄る事が大切だ。それに偽りの無い方が、お前さんもはぐらかせんだろう?」
ガイナンは笑う。彼にとっては口にしても笑える程には吹っ切れている様子だった。
「それに今は騒がしい同居人と、家政婦が増えたからのぅ」
彼なりに大切にしている中には既にニールとカナタも含まれてるらしい。
「……質問をどうぞ」
今度はガイナンが尋ねる番である。
「お前さんに家族は居るか?」
音もない静かな間。しかし、一瞬だけ、サンドロス全体の重さが増した。
人々は肩に重みを感じ、建物はミシリと軋む。
「あ……貴方には関係ありません」
「……ふむ。そうだな」
カナタは自らを恥じる。こちらから始めておいて、反故にするのだ。
「あんな所に一人で居たのだ。それなりの事情があるのは解る」
「……あの山は数多の同胞の墓標です」
「そうだったのか?」
「はい。故に、ソレを盾にした貴方には嫌悪しかありません」
「その中にはお前さんの家族もおるのか?」
怒りと殺意を放つカナタはガイナンの言葉に思わず眼を見開く。そして、何も答えられず沈黙するしかなかった。
「……カナタ。明日、お前に会わせたいヤツがおる」
「……誰ですか?」
ガイナンは夜空を見上げる。
「リベリオン・アラートだ」
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