第44話 カナタVSスカイアウト
「ごめんなさい……」
黒の部屋から出たリベリオンは元の姿に戻り、破けた服の変わりにローブを羽織って謝っていた。
「気にするな。お前さんに頼ってるのは『教会』も同じだ」
リベリオンのスキル『憑依』の危険性は『教会』も重々承知だ。
「でも……」
「お前さんも知っての通り『憑依』は発動すればその時点で災害となり、周囲を破壊し尽くして自らも死ぬ。その為、『基礎保存』を同時に持つお前さんだからこそ、価値のあるスキルなのだ」
『憑依』は教会も度々確認している最凶のスキル。ランクの判定ではSを超えると言っても過言ではない。同時に使用者も耐えられず、元の形を失い死に絶える。リベリオン以外は。
「それに、前の炎の魔人になった時よりは服の面積も残ってたしのぅ。な? ミリオン」
「な、何で僕!?」
「男なら当然、眼が行くじゃろ? リベリオンは着痩せすると知っておるくせに!」
「リオン君……」
「ただの変態じゃん」
リベリオンを庇うように肩を寄せる夜叉の軽蔑するような視線にミリオンは必死に言い訳を考えるが特に思い付かず、
「いや! うん! でもさ! ガイさんはどうなのさ!」
「ガイナンさんはコレがいつも通りだし」
「……うーん……ガイナン様はそう言う方って事にしてるから」
「ミリオンよ、コレが人望と言うヤツよ」
「いや……ただ諦められてるだけだと思いますけど……」
そんな黒の扉の前で会話をしていると、
「何をしてる。お前達」
「オルセル様」
「ヤバ……」
休憩がてら、リベリオンの様子を見に来たオルセルに各々で反応を見せる。
「夜叉。お前には“原始の森”に居る『ディザスター』の討伐依頼が出てたハズだが?」
「あれー? そうだったかなぁ? 情報に入れ違いが合ったかもー」
「アレは『エルフ』からの依頼だ。彼らは基本的に自分達で問題を解決する。そんな彼らが頼ってきた意味を考えろ」
『
「今すぐ行きます! ガイナンさーん」
「ガイナン送るな」
「え!? それじゃ遅れ――」
「飛行便が出る。後5分でな」
「ちょ! それ早く言って下さいよ!」
と、挨拶もそこそこに夜叉はスキルを発動すると走って行った。
「リベリオン。その様子を見るに黙祷だけでは済まなかった様だが……報告する事があるだろう?」
「はい」
「ミリオン、ワシらは行くか」
「そうですね……」
「そこの二人、止まれ」
脇から逃げようとしたガイナンとミリオンにも声がかかる。
「ミリオン。戦闘状況を説明しろ」
足下でリベリオンが暴走していた事をミリオンが隠そうとしたのをオルセルは見抜いていた。
「ワシ関係無くない?」
「お前の『ジパング』での戦闘記録を“読ん”だ」
オルセルは己のスキルで、ジパングでのカナタとガイナンの戦闘状況を確認していた。
「【天秤王】に【無双王】。偶然の異名にしては些か辻褄が合い過ぎる」
「ほう……」
と、ガイナンも神妙な顔つきになり、オルセルのと会話に興味が出る。すると、リベリオンが手を上げた。
「あの……【解剖王】と言うのも、その枠に入りますか?」
唯一ミリオンだけが、どういう事? と頭に疑問詞を浮かべた。
スカイアウトが『浮遊』にて上昇してくる様をカナタは浮いた家の入り口から見ていた。
「やべぇ……どんどん上がってるよ……」
「何を心配している? 落ちても我が抱えてやるから心配すんな」
ジークは家の上昇を気にしていた。現在は遺跡街が一望出来る高さまで上がっている。
「二人とも、外には出ないでください」
「……手伝いましょうか?」
「足手まといです」
「……」
「気にするなよ、ジーク。カナ姉は引き分けはあったけど負けた事無いぞ。あ、もう一敗でしたね♪」
「お前……」
煽んなよ。と向けるジークの視線。カナタは聞き流す様に嘆息を吐き、
「貴女は見た目はキアンなのにベルグと話している様です」
そう言ってカナタは家の外に足を踏み出す。地面は遥か下。家の高さは500メートルを越えている。
しかし、カナタはそこに地面があるかの様に確かな足取りで宙を歩く。
「……アレ、どうなってんだ?」
「カナ姉の魔力特性は『重力』だ。相変わらず凄まじい精度だな」
ニールは感心する様に成り行きを見届ける事にした。
「『浮遊』とは違うネ」
スカイは裸エプロンに胸の下で腕を組んで宙で佇むカナタへ攻撃を仕掛ける。
「しかし、身動きは取れるカナ?」
手品のようにナイフを取り出すと投擲。様子見の一発と言った所。
「……」
ナイフはカナタに触れる前で止まる。すると、次には紙クズのようにひしゃげて小さく圧縮された。
「!」
スカイは泳ぐ様に動く。元いた位置を見えない何かが通過し、僅かに遅れた服の端が切断される。
「不可解ダネ」
「貴方は解りやすい」
スカイは移動しながら四方八方からナイフを投げるも、全て同じ様に無力化される。
カナタは腕を組んだまま動かない。スカイは制空権は自分にあると認識しつつも、カナタに対する隙は見つけられなかった。
浮かせる事もデキナイ。そして、今も下の奴らに圧力をかけ続けてイル。
カナタを浮かせようするも、その重さは視界に収まりきらない程の山脈のようだった。
「どうやら、能力の
「互角?」
初めてカナタの表情が動く。その時、下から無数の杭が遅いかかった。
無論、ソレもカナタに触れる前に停止し、弾けるが――
「――」
その中に混じっていた水銀が弾けた勢いでカナタの身体に纏わりつく。
「一人じゃ勝てナイ」
水銀は『固形』のスキル保持者によって枷のようにカナタの身体を容赦なく締め付けて拘束した。
「! なんだ!? この女!?」
『固形』のスキル保持者は驚愕する。
『固形』は発動した瞬間、特定の物質を強制的に一つに集めるスキル。それを水銀を使い締め付けに利用すると、対象を切断する事も容易いのであるが――
「切れねぇ!?」
全力で収束しているにも関わらず、カナタを縛る水銀は彼女をエプロンの上から締め付けるだけで、それ以上は食い込まなかった。
「一瞬、自由を奪えば十分ダ」
スカイは上着をカナタヘ投げて視界を塞ぐと、猛毒のナイフをその瞳に突き立てた。
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