第42話 解らないノカ?

「うぉぉ!?」


 突如として壁を貫通して襲いかかったのは、無数の弾だ。円柱で先端が尖った、杭のような代物が壁を貫いて来たのである。


「今度は何だよ!」


 ジークはニールを庇うように抱えて、床に伏せるように倒れると自分が下敷きになる。

 上空を手の平程もサイズのある杭が通過。木製の壁を容易く貫通する所を見るに、当たればただでは済まないだろう。


「カナタさんは!?」


 ジークは隣に座るニールしか庇えなかった。しかし、カナタは平然と椅子に座ったまま、弾幕の飛来する方向を見ている。自分の顔面に飛んできた弾を掴み止めた。


「なんですか? これは」

「敵の攻撃ですよ! 伏せて!」

「いや、我らからすれば水浴びみたいなもんだぞ? それよりも『竜殺し』、引っ込めよぉ。密着出来ないじゃん」


 胸に抱えられてるニールは鎧で抱き締められている事に不満を垂れる。


「クソ! もう次が来たのかよ!」

「次? あのカナ姉に二分割されたのは敵だったのか?」

「師匠は世界各地の犯罪組織から的にされてるんだ! 師匠の実力が実力だから、敵の水準も自然と高くなるんだよ! オレなんかあっさり巻き込まれて死ぬ!」


 それでも師匠が居れば安全な所――ギルムさんの船とかに瞬時に転移させてもらえるが、今の状況では縮こまるしかない。


「ふふん♪ そうかそうか。じゃあ、我が抱きついておいてやろう。ほーら、恐くない、恐くない♪」

「鎧の上から頭を撫でんな!」


 呑気な二人の様子にカナタは、やれやれ、と嘆息を吐く。すると弾幕が止んだ。


「……クソ。師匠の家を穴だらけにしやがって……」


 少し身体を起こして家の状況を確認すると、風通しがだいぶ良くなっていた。メキメキと、音を立てて壁と天井の一部が落下する。


「……やべぇ。師匠が見たら世界を滅ぼすとか言いそうだ……」


 それか怒りを通り越して卒倒するかもしれない。


「また来ますよ」


 カナタは自らの能力で周囲の全てを把握し、先程の弾幕が再度行われる事を認識していた。


「ニール! どうにか出来ないのか!?」

「出来なくは無いけど、家無くなるよ?」

「それはもっとダメだ!」


 その時、バキバキバキ、と不穏な音が聞こえる。同時に起こる揺れにジークは近くの壁に腕をついて転けない様にしがみつく。


「今度は何だ!?」

「ほう?」


 ニールは感心するように声を出す。

 三人が感じたのは浮遊感。家が土台から強制的にひきちぎる様に無理やり持ち上がっているのだ。

 ジークは起き上がって窓の外を見る。


「……嘘だろ」


 既に地面から10メートルは離れていた。更に上昇を続ける。


「なるほど、浮くとはこんな感じですか」

「カナ姉もよく飛んでるじゃん」

「私の場合は落ちる・・・だけです」

「不思議会話やめて!」


 落ちても平然としてそうな二人は平常運転だった。と、カナタは先程の弾幕が真上から飛来する様子を察して天井を見る。


「真上から来ます」

「ヘイ! ジーク! カモン! このボロ屋はもう駄目だ! 脱出するぞ!」

「ボロ屋って言うな! 護る方向で考えろ!」






 『固形』。特定の物質を集めて一つの物質に固めるスキルである。

 『流動』。空間に“流れ”を作り、物質を流す能力である。

 『固形』にて、無数の杭を生成。それを『流動』で高速で流す事により、無類の弾幕として機能させる。


「本当は水でもあれば良かったんだけどな」

「サンドロスじゃしょうがねぇよ」


 杭の弾幕は、『固形』と『流動』は別々の保持者による連携技だ。ガイナンの『歪曲』は持続時間が僅かで、連続使用にはインターバルがあると知れている為に、この組み合わせは有効に機能する。

 最も、ガイナン以外ではなす術もない組み合わせなのだが。


「にしても……」


 そんな二人が驚くのは隣で家を浮かせるスカイアウトの事だった。

 彼は“シングルタスク”と呼ばれ、組織でも特に重宝されている五人の一人。『教会』の本部へ乗り込み、数名の同胞を解放する程の実力者だった。

 スカイの持つスキル『浮遊』は視界に捉えきれる物であればどんな重量でも浮かせる事が可能であり自身にも作用出来る。


「まだ中にイルカ?」

「はい。奴ら動いてません」


 四人目の『透過検知』を持つ男がその場に家の中の状況を簡易的に伝える。


「1000メートルまで上げて落トス。逃げない様に攻撃を続けロ」


 スカイの指示に杭の弾幕は宙に浮く家に対して上から下に通過するように流動を作る。


「これで終わりそうですけどね」

「家を落とすのは保険ダ。仕留める気でイケ」

「勿論ですよ」


 遠目でも解る。天井を突き破り、弾幕が室内へ侵入。中のモノなどミンチだろう。


「――? なんだ?」


 しかし、家に入った杭の弾幕は家の下から出てこなかった。


「どうした? 『流動』が切れたのか?」

「いや……流れはまだ残ってる。杭の方が中で消滅した」

「何がアッタ?」


 『透過検知』の男なら状況を見えていたハズだ。


「わかりません」

「おいおい。見たまま答えろよ」

「い、いや。本当に! 椅子に座ってる女が立ち上がって上を見た瞬間に全部消えたんだ!」


 と、家の扉が開く。そこから見えたのは例の裸エプロンの女だった。

 彼女は茂みに隠れている殺し屋達を見つけて、視線を送る。と、


「なっ!?」

「なんだ!?」

「お、重い……」

「……」


 唐突に上から押さえつけられてる様な圧力に潰されそうになるも、スカイが『浮遊』を発動させてその場から移動する。

 元居た場所はハンマーでも打ち下ろした如く、ズンッ! と円形に沈んだ。


「す、すみません」

「ヴォントレットを殺ったのはあの女カ」

「マジで裸エプロンだ……」


 何かの冗談かと思ったが、女の姿は本当に裸エプロン一枚である。


「次弾を急ゲ」

「一時、退却するべきでは?」

「解らないノカ?」


 スカイは女を見上げる。


「あの女がこちらに圧力を続けテル。『浮遊』で相殺しているが、仕留めない限りこちらが干物にナル」

「! お、おい! “水銀シルバー”を使え! 出し惜しみしてる場合じゃない!」

「最速の『流動』を組む! 少し時間を!」

「俺があの女を抑エル。タイミングは教えロ」


 スカイは使い捨ての短距離通信が出来る魔法道具を耳に着けるともう片方を『透視検知』の男に渡し、自らを『浮遊』させた。

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