第41話 大人しくさせるか

 黒い扉の内側は、無数の剣が至るところに突き刺さっており、焦げた臭いが充満していた。地平線に半分だけ見える一つの惑星が血のように赤く空間を照らしている。


「不気味な感じ倍増ししてるじゃん」

「ミリオン、リベリオンはどこだ?」


 誰の姿も見えない。

 『空間跳躍』をミリオンが使ったのであれば、リベリオンの近くに転移んだハズだった。


「あれ? おかしいなぁ……」


 その時、ガイナンは真上から、チクッと針に刺された。


「二人とも、一旦離れとれ」


 ガイナンは二人を左右に押して退かせると、上を見上げる。


「ァァァァアアアア!!!」


 耳を裂かんばかり声を牙の生える口から放つ。蛇のような細い瞳に両腕に鱗と爪を形成した怪物が降ってきていた。


「リーベ!?」

「今回は何を宿した!?」


 今まで見たことのない異形の姿にミリオンと夜叉は驚きしかない。

 襲いかかる爪。ガイナンはそれを一重でかわしつつ、手を伸ばしてリベリオンの手首を掴むと、そのまま地面に叩きつけた。


「アア!!?」

「全く、随分と――」


 衝撃にむせるような声を出すリベリオンは、その口からガイナンへ向かって高密度に圧縮した魔力を放つ。


「可愛くなったな」


 ソレを『歪曲』にて逸らすものの、流石に離れざる得ない。

 バックステップから、入れ替わるように夜叉が前に出る。


「様子を見る。しばし相手せぇ」

「当然!」


 夜叉は近く刺さる剣を取ると、起き上がるリベリオンへ容赦なく振り下ろす。

 剣はリベリオンの鱗に触れると僅かな傷をつける事もなく砕けてしまった。


「硬った」


 なんの生物の鱗だよ。と剣を通じて戻った衝撃から岩石を越える強度を持つと察し、チャリ、と肘から小さな槍のアクセサリーを取り出す。


「オオオアッ!」


 下からの爪を振り上げ、夜叉は身を引いてかわす。僅かに服が裂けた。


「爪は少し距離感がわからんねぇ」


 リベリオンは距離を詰めてくる。夜叉の手の平に1本の槍が現れ、握ると同時に柄を下から打ち上げた。


「……並なら頭失くなってるんだけどね」


 夜叉の槍は持ち前のスキルと彼女の技量によって、どの攻撃も一撃必殺の代物であるが、今のリベリオンには効く攻撃ではなかったらしい。

 乱暴に爪を振るリベリオンから二歩程、距離を取る。


「今のリーベを侮ると夜叉さんが頭失くしますよ?」


 横からミリオンが割り込む。両手に剣を持ち、リベリオンへ斬り着けた。


「アアア!!?」


 そして、リベリオンと目が合うと、鎧が弾けるように鱗と爪がミリオンの両腕に現れた。

 リベリオンがミリオンを殴り飛ばす。咄嗟に腕をクロスしてガードを挟むミリオンだが、発生する衝撃波に鎧が砕け飛んだ。

 内蔵も揺らされ、口の端から血が流れる。


「――リーベ君は……」

「アアア!!!」


 リベリオンはミリオンへ追撃するも、


「はいはい、ウチを忘れるな」


 横から槍を棍術として扱った夜叉に叩き伏せられる。ズンッ! と巨人が足踏みしたような音と重さがリベリオンにのしかける。


「は?」


 しかし、リベリオンはその重さに抗う様に耐えていた。それどころか槍を掴むと押し返す様に身体を起こし、夜叉へ口を向ける。


「ヤバ――」

「アア!!」


 高濃度の魔力の放射。食らえば生物など跡形もなく消し飛ぶ。

 しかし、ミリオンの投げた剣に僅かに射線が逸れると、身を倒した夜叉の動きも相まってかすらせる程度に留まる。


「今のは……ヤバかった……」

「リーベ!」


 ミリオンが逆にリベリオンへ接近する。夜叉は槍を手放して距離を取った。


「オオオ!!」


 リベリオンはミリオンへ爪を振り下ろす。最後に残った頭部の鎧も砕けた。


「僕だ! 解らないのか!?」


 ミリオンはリベリオンへ組み付き蛇のように細い瞳を向ける。彼の声がまるで聞こえていないリベリオンは、その牙で肩に食いつくとミリオンの鱗ごと喰らいちぎる。


「くっ!」


 今度は首筋に狙いを定めたリベリオンの牙が開かれた。


「『極点直刺』」


 その横から夜叉の溜めた刺突がリベリオンへ向けられる。


「――」


 しかし、その攻撃は止められた。本気ではなかったとは言え、槍の直線エネルギーを片手で掴み止められた・・・・・・・のである。


「物理法則どうなってんさ?」

「オアアァ!!」


 リベリオンは振り回す様に二人を投げる。ミリオンと夜叉は態勢を整えつつ着地。そして、呼吸を整える様に距離を保つ。


「一位は伊達じゃないってこと?」

「……夜叉さん。借ります」


 ミリオンの鱗が消える。切り替えたらしい。


「別にどうこう言うつもりはないよ。プライドとか言ってられる状況じゃないし……」


 人間であれば数回は死んでいる攻撃にリベリオンは傷一つ負っていないのだ。


「ミリオン、リベリオンのやつぁ、何を宿した?」


 下手をすれば二人が殺されると察したガイナンが参戦するように前に出る。


「解りません。任務から戻ったら、急に黒の扉に入ってしまって、今の状況です」

「ふむ。よし、取りあえず大人しくさせるか」

「賛成」

「『憑依』した存在との同調が強くなってます。気をつけて」


 何があったのか。その辺りも含めて聞くには、まず大人しくさせなければ。


「世の中にはとんでもない化け物がいた様だな」



 『憑依』のスキルを持つ執行官“第一位”【最凶】リベリオンを止める為に三人は交戦を再開した。

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