第38話 レベル5

「こうして無事に会えた事を幸運と見るべきかしら?」

「いいや。必然でええぞ」


 『世界安定教会』の本部にてガイナンは『導師』と七年ぶりに顔を合わせていた。


「お前が消えるのは今に始まった事ではないが……せめてこちらの連絡に返答出来る様にはしておけ」


 執行官“第二位”【星読み】のオルセルは嘆息を吐きつつ目くじらを立てる。


「ワシもそろそろ歳をだからのう。老後を考えて色々とな」

「お前が隠居などするものか」

「まだ、ヒヨッコ共には世界を任せるには荷が重い。それはそうと、面白い事が起こったようだのう」

「……『ドラゴン』が出た。そして、討伐した」

「カッカッカ! オルセルよ、本気で『ドラゴン』など信じておるのか!?」


 その内、絵本から飛び出してくるのう、とガイナンは腹を抱えて笑う。


「なんとでも言え。事実を言ったまでだ」

「なら、何故世界中で騒ぎになっておらん?」

「さっきも言ったぞ。討伐した、と」

「一位か?」

「いや……【最凶】は動いていない。アイツは任務から戻ってから少し、おかしくなった」

「なら、誰が動いた? そんなふざけた妄想に対して――」

「ジーク・フリード」


 ジークの名前が接点のないオルセルから出たことに、ガイナンは表情を変える。


「彼のスキルは【竜殺し】だったな。しかも、お前の弟子だろう?」

「偶然にもな」

「本当に偶然か?」

「ああ。まぁ……出会ったのは偶然だ」


 そうか……、とガイナンは納得するように一人で頷く。


「ガイナン。貴方の功績は偽り無きモノです。教会も多くを貴方に依存している所があります」


 『導師』の澄んだ声がガイナン向けられる。


「今回の『ドラゴン』の件は公にならなかったものの、国の一つが滅んでいます。そして、世界中でソレが起こる可能性も十分にありました。ガイナン。何かを知っているのなら話してくれませんか?」


 『導師』とオルセルの視線に、仕方ない、とガイナンは腕を組んで己の目的を語る。


「世界の平和に孤軍奮闘するワシは前線を退く為に色々と試行錯誤していてのう。ある時、妙な噂を耳にした。“ジパングに仙女”が居る、と言うモノだった」

「……おい、まさかお前……」

「まぁ聞け。噂では天をも揺るがす美女と言う噂だ。行くしかないじゃろ!」


 ガイナンは呆れるオルセルに向けて笑う。


「いやはや、跳躍の“ポイント”になるまで何度も“死の山”に通いつめたわい。凄いぞ、凄いナイスバディの美女だった!」

「……はぁ……」


 世界が滅ぶ瀬戸際に、コイツは何をやってんだ……、とオルセルは呆れる。


「そう、がっかりするな、オルセル。その仙女は今、ワシの家で家政婦をやっておる。裸エプロンでな! 今から来るか?」

「……もう、帰れ」

「まぁ、聞けよ! お前が聞いたんだぞ!」

「いや……俺が悪かった。もう、帰って良いから……」


 うんざりするオルセルと、意気揚々と当時の戦いを語るガイナン。そんな二人の様子を見て『導師』は、おほほ、と笑っていた。






「なんじゃい、なんじゃい。自分から聞いておいて、帰れとは」


 ガイナンは、会議室から追い出されて不貞腐れながら『教会』の本部を歩く。


「あ、カコ。おじいちゃんだよ」

「ホントだ、ミライ。おじいちゃんだね」

「おお。【姉妹】か」


 すると、仕事中の“執行官”第十一位の【姉妹】と遭遇した。

 二人はマスクを着けた少女。手には血まみれのノコギリを持っていた。


「お前さん達、処置室から出るときは着替えろ」

「ちょっとトイレだからへーき」

「漏らす方が不味い」

「そんな限界まで己を高めなくてええわい」


 すると、処置室から悲鳴が聞こえてくる。ガイナンは、慣れたようにそちらを見た。


「今、何をやっとる?」

「捕まえた変なヤツを生きたまま解剖してる」

「全身に鱗があるんだよ。トカゲみたいな人間」

「ほー」

「夜叉が捕まえて来たの」

「傷が結構治るから、ちょっと時間かかってる」

「不思議人間か」


“ええい! 暴れるな! 眼球一つくらいでよ! 何のために二つあると思ってんだ!”


「ゾーイが苦戦しとるぞ。行ってやれ」

「はーい」

「おじいちゃん、また旅行に連れて行ってね」


 最初から最後まで表情の動かなかった【姉妹】は処置室へ戻って行った。

 すると、悲鳴はいっそう大きくなり、少しして静かになる。


「くわばら、くわばら」


 【姉妹】は本部勤務の尋問を担当している執行官である。彼女たちは持ち前のスキルを使って、対象を生きたまま刻むのだ。


「死に方が選べるなら、【姉妹】のとこだけは御免だのう。そう思うだろ? 夜叉」

「ええ!? マジ!? 完全に気配を消してたのに!」


 後ろから、ガイナンに触れようとした『鬼』の女――夜叉は驚いてそんな声を上げる。


「カッカッカ」

「ガイナンさんって本当に人間? 自信無くすよ」

「まぁ、前よりは上手く隠せてたわい。もっと精進せい」

「はぁ……いつになったら弟子になれるんだか……」


 ガイナンには多くの者が弟子入りを懇願している。夜叉もその内の一人だった。


「強さには階層がある。ワシの居る所がレベル5だとすれば、お前さんはレベル3だ」

「ええ!? ウチはまだ3?」

「うむ。最低でもレベル4には行って貰わねばのう」

「ちなみに5って他に誰かいる?」

「【微塵】ギルム。『確殺』ヴォントレット。『都市喰らい』オリバ。【最凶】リベリオン。この辺りだな」

「全部伝説モンじゃん。リーベなんてウチの一位だし」

「カッカッカ。お前さんの目指す高みはそれくらいのモノだと言うことよ」


 ガイナンと同格の者達は、どれもが有名な怪物共である。誰もが直接戦闘で強い訳ではないが、単純な“命の搾取”においては納得のナインナップだった。


「じゃあ今日くらいは稽古つけてよ。七年も音信不通だったんだからさ」

「その前にもう一人だけ、顔を見ておきたくてのう。お前さんも来るか?」

「いいけど……ちなみに誰?」

「リベリオンだ」

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