第37話 【時空師】ガイナンのスキル
「ふむ。【時空師】とは読んで字の如くと見ても良いのか?」
ニールは丘上の家へジークと共に歩を進めがてら、ガイナンの異名に興味を持っていた。
「師匠は『
ジークはガイナンのスキルに関して説明を始める。
「『歪曲』は師匠の周りにしか作用せず、曲げられる角度もそんなに広くない。けど、あらゆる攻撃を流す事が出来る」
「『空間跳躍』は? まぁ大体わかるけど」
「特定の場所に師匠と触れているモノを転移させる能力だ。ポイントと呼ばれる、師匠と関わりのある存在の所に転移する」
「ふーん。基本は自分だけか」
「いや、触れてる範囲は間接的でも可能だ。師匠が地面に触れてる間は、全世界の物質が転移対象なんだよ」
「なんだ、その
「そんなこともあって、師匠はよく一人で犯罪組織の殲滅に動いてる」
ガイナンが敵組織の内部に入るだけでまとめて檻の中に転移出来る。
『世界安定教会』が大きな驚異に晒されていないのは、ガイナン・バースが敵対組織の芽が育つ前に潰している事が大きい。
「ふーん。でも見えない距離から狙撃とかで殺れそうだな」
「……師匠は
当人は殺意が針になって見えると言ってた。チクッとその方向から刺される感覚を感じるとの事で、当人は未来予知に近いと思っているらしい。
「人間かよ」
「オレも人類かどうかは疑わしいと思ってる。しかも、歳を取れば取るほど強くなってるらしくて、唯一の弱点は寿命だよ」
まぁ……師匠は不老不死なんて貰えても、つまらんって言って捨てそうな気もするけど。
「面白しれえなぁ、この時代。英雄殿の他にもそんなヤツが居るなんて」
「教会の執行官には他にも尖った人は多いらしいけど……戦闘においては師匠はヒトの中では最強クラスだと思うよ」
「バルバトスとどっちが強い?」
「いや……カテゴリーが違うだろ」
ニールの質問に双方の実力を直に知るジークはハッキリと断言出来る。
『ドラゴン』は生物として見るにはあまりにも規格外過ぎる。物理的にダメージを与える手段が『バルムンク』だけで、それも心臓を破壊しなければ倒す事が出来ない。
「バルバトスの死体も無くなってたしな」
「死体が消失するのは敬意だろう。純粋な消滅を願うからこその結果だよ」
「まぁ……鱗一枚でもやべー事になってたからな。今の世界ならその方が都合はいい」
『ドラゴン』の死体はエネルギーの宝庫だ。それを他に利用されずに消滅出来たのは良い事なのかもしれない。
「【時空師】か……興味あるな。一度ステゴロで戦りあってみるか!」
「お前のそのアグレッシブさはなんなの?」
「好奇心ー。おやおや、嫉妬かね? 安心してくれ。我が愛するのは英雄殿だけだよ。そう言えばまだ、貴様から言われてない言葉があるなぁ?」
「? 何の話だ?」
と、ニールはジークの腕に自分の腕を絡め、上目遣いで言う。ふよん、と柔らかい感触。
「我は貴様が好きだ」
「……………………ちょっと待ってくれ」
「ヤダ、待たないー♪」
顔を赤くして反らすジークにニールは、素直になれよー、と、もつれながら歩く。
その時、視界の端にドチャッ、と上半身だけの男が転がってきた。
「オウ!? スプラッター!?」
思わずジークは叫ぶ。
それは遺跡街では知らない顔だった。飛んで来たのは前方の家からである。
「な、な、な!? なんだぁ!? 一体、なんだぁ!!?」
「ば……バケモノめ……」
まだ僅かに生きていた上半身の男――ヴォントレットは家を指差すとガクッと息絶えた。
「やはり……あの人が特別なだけですか。ヒトとはこうも脆いのですね」
そんな女声と共にぽいっと男の下半身が飛んで来ると、上半身の近くに転がる。
ジークは声のした方に視線を向けると、そこには――
「……全く意味がわからんぞ!」
裸エプロンで返り血を浴びた美女が家の前に立っていた。
え? 何あれ? 師匠が雇った家政婦? それにしても……何で裸エプロンなんだ? プロポーションとかガチでモデルクラスなんだけど、なんと言うか返り血のせいでエロスよりもフィアーの方が勝る。
女もジークとニールに気がつく。すると、女は驚愕する様に眼を見開いた。
「おいおい。何かの間違いかと思ったけど、何でこんな所に居んの?」
「え!? あ! ちょっ! そ、それはこっちの台詞です! 何故、貴女がここに居るのですか!」
と、自らが恥ずかしい格好をしている事にようやく気がついた女は顔を真っ赤にして慌てふためく。眼なんてぐるぐる回っていた。
「ニ、ニール? あの人はお前の知り合いか?」
「まぁな」
て、事は――
《ドラゴンを殺せ》
「だから……反応が遅せぇよ……」
ひーん! と顔を覆って座り込む女は約10000年ぶりに“死の山”から降りてきた『ドラゴン』――カナタだった。
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