第161話 レニーのパニック
いなくなったチームの4人の内、2人とは血のつながったリビー。他の2人も法律上の家族だった。リビーは自分の中の何かが凍り付くような、冷えた痺れのようなものを感じていた。だからレニーのパニックに気がつかなかった。
ブルーハウスに住んで、ずいぶんと長い間忘れていた安らぎをレニーは感じていた。再びそれが奪われたのだ。レニーはパニックになっていた。
ハルミナのブラウニーのダンジョンに二人が着いて、奴隷冒険者たちの温かい歓迎を受けた。リビーの凍った心は解けなかったが、リビーは16歳だから、表面を取り繕ってほほ笑むことはできた。
リビーはハルミナに長くはいなかった。ケンタウロスとリザードマンの祖霊から招待されて、6カ月ずつの訓練に招待されていた。隠れるには最適だった。ケンタウロスはドンザヒの対岸の島に、リザードマンは一番奥の島に王国を築いていた。それぞれ六星王国の一つだ。ン・ガイラが帝国を名乗るのは、六星王国が服属しているからだった。
ちび丸に6頭の子供が生まれて、可愛がっていたが、みなどこかに行ってしまった。レニーが心を許したのは、ゴーレム馬のブルースだけになった。ブルースは索敵統合スキルで与えられた、レニー用の少し小型のゴーレム馬である。
レニーは怖かった。そして自分を守るために強くなりたかった。レニーがブラウニーに頼んだのは結界魔法である。10歳のギフトを待てなかった。すぐに高いレベルの結界魔法が欲しかった。
レニーは結界魔法レベル3を得た。『結界魔法入門』という魔導書を得て、レニーの結界魔法の猛修行が始まった。とはいえ、セバスの方針で同じことは4時間以上続けないというルールがあるので、ダンジョン実戦は午前4時間、午後4時間の8時間である。
レニーは魔導書の恩恵で、動物などの体内に結界魔法を使って隠れるという技を習得した。ブルースの体の中に入れるかを試したところ、これが成功したのである。それ以来レニーはできるだけブルースの中に隠れるようになった。
ブルースは小型の馬なので、シルベスタ達とのパーティーでダンジョン巡回するのに邪魔にはならなかった。レニーの役割は結界での防御担当で、リンクで守られている3人には過剰だったが、誰もそんなことは言わず優しかた。
ブラウニーダンジョンは経済的にもうまく回っていた。サイスからは放置されていたが、ブルーダンジョンの統合で、支配下のダンジョンの数が飛躍的に増えていた。
ダンジョンが管理しきれないと、スタンピードの原因になって危険だが、ブラウニーダンジョンの場合、11体のサチュロスが支配のすべてのダンジョンを巡回してくれる。彼等が倒したモンスターの肉や魔石はブラウニーかセバスに渡されることになっている。
価値のないゴブリンの死体などは、ブラウニーダンジョンに持って来て、ダンジョンに吸収させてくれる。これはダンジョンポイントを数ポイント増加させてくれる。わずかだが、ちりも積もれば大きいのだ。
3人の奴隷は魔石喰いのアルバイトをしている。これは1月3万チコリの収入になる。住居はダンジョン内にあり家賃はタダである。食料はタダでもらえる廃魔石以外は、ほとんど自給自足している。
武器や防具は、ゴブリンやコボルトの錆びたものを、ブラウニーにリペアしてもらっている。ワイズが新薬を開発した場合、人体実験のアルバイトをするのも、3人の奴隷である。しかもファントムの従魔のちび丸が稼いだ分も3人で山分けになる。
3人は買われた時は訳アリの廃棄奴隷だったが、今は8時間以上冒険者として稼いでいるのである。要するに裕福になった。そうしたら彼等は奴隷身分のまま、奴隷を買い始めた。彼等と同じような廃棄寸前の奴隷である。
システムはもうできている。資金もある。オーナーは放置が方針で、ブラウニーとファントムは協力してくれる。奴隷パーティーは増殖し始めた。しかもテイムされた従魔に、雄オオカミが加わり、周辺の雌犬を孕ませ始めた。スライムもいつの間にか従魔に加わっていた。
レニーも木工士として、増えた奴隷のベッドや机を作った。それでも空いた時間でやったのは、ブルースの防具の作成だ。馬鎧である。レニーが持っているスキルは木工士なので、素材は木になる。
軽くて強い防具が欲しかった。レニーは一真の住んでいた日本の記憶を検索して、ハニカム構造を発見した。蜂の巣に使われているから、六角形の密集した形をレニーも知っていた。
木材で作ったハニカム構造の馬鎧は柔軟性がなく、実用的ではなかった。レニーは困って、先生のモーリー、彼は20代の女性木工家モエリーとして、新興都市プリムスに工房を開いていた。
モーリー(モエリー)は木工では無理と判断して、隣の鍛冶の名工グーミウッドに、レニーの作品を見せた。グーミウッドは一目見て、その可能性を見て取った。
かれはメタルスライムシートという素材で、新しい防具ができないか可能性を探っている所だった。グーミウッドが作ったのは軽くて強いサンドイッチハニカム構造の皮のような素材であった。5ミリくらいの厚さで皮と同じような色をしている。皮より軽いが強度は鉄並みにある。
モーリー(モエリー)はこの素材を、ドンザヒで馬具職人になっているリリエス(リーゼット)に送って馬鎧の作成を依頼した。リリエスは30代の若手の男性馬具職人のふりをしていた。場所はン・ガイラ帝国の西端の町ドンザヒである。
リリエス(リーゼット)が素材の追加を注文してきた。透明な目のカバーをつけるのでそれ用の素材の追加だった。グーミウッドは、透明で十分硬く、熱を加えると軟化する素材を作り上げた。
一真が手を加えてくれて、リビングアーマーの鎧操作の魔石を利用して、パワードスーツにしてくれた。片腕が欠損しているアミーフは弓士として復活したのだが、その応用である。特に素晴らしいのは内側からの力に対しては柔軟に対応し、外から加わる力には硬いことであった。
リリエス(リーゼット)はジュリアスの紫の布や糸も使って、暑さ寒さに強く、魔法耐性もある全身馬鎧を作ってくれた。眼の部分は大きく透明になっていて、視野を妨げない。馬具一体型である。使用者に自動調整してくれて、しかも成長する防具である。
新しい素材とチームの総力のを上げた素晴らしい防具であった。リリエス(リーゼット)は、レニーにも皮製に見える全身鎧を作ってくれた。それでもレニーは、戦う時にはブルースの中に入るのである。明らかに防衛過剰である。
レニーにはチームとして何か負い目の感情がある。何かしてやりたいとみんなが思っていた。ブラウニーはアリアに依頼してレニーのパワーレベリング試してみることにした。夜間、ブルースの中でレニーを寝かしたまま、アリアとパーティーを組んで、ダンジョン最下層を巡回するのである。究極の寄生である。
アリアは1日しかやてくれなかったが、キングサチュロスを除くサチュロスたち11体が、交替でパワーレベリングしてくれた。
ブルースまで何もせず寄生するのは良くない。ブルースには攻撃手段として、ドラゴンブレス(1%)と吹き矢のスキルをもらった。
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