第73話 持ちすぎると自滅する

 不幸は連鎖していく。ある悪意が人を傷つけると、傷つけられたものも悪に落ちて、別の人を傷つける。どこかで連鎖を止めなくてはならない。 だが人間の悪意は次々と湧いてきて。人は次々悪に落ちていく。自分もその一人だと、クルトは思う。悪意の連鎖を止められない。それはクルトの罪なんだろうか。シスターナージャのように、


「あなたはすでに許されている」


と言われてみたいクルトだった。


 どうして人は忙しいときに、不意に内省的になってしまうのか。いぶかりながら、クルトはアーサーを訪ねていた。場所は王都アリアスの郊外。高級住宅街の一角だ。アーサーはここにメイドと二人で住んでいる。


「黒騎士クルト。出世したんだって」


「6番目になった」


「ギルド組織で6番目か。そのうちセバートンでは1番になるな。冒険者の勝ち組だ。黒騎士だし」


「アーサーはカシムの兄貴分と呼ばれているらしいな。こんな静かな場所で死ねるのが、本当の冒険者の勝ち組だな」


「カシムの兄貴分って、まあ黒騎士よりはましかな。それより、リリエスは勝ち組になれたか」


「まあ30倍は生きて乗り切った」


「悪魔になったらどうしようかと思っていた。そうなったらクルトと俺は、民衆裁判で死刑になっていたな」


「一応まだ生かしてもらっている。だけど本当に危なかったかもしれない」


「それでいつかは上り詰めるのか?組織のてっぺんまで」


「いや俺がこっち来たのは、ケリーっていう子供のを復讐を成し遂げるためなんだ。親殺しされた子供でね。村ごとやられている」


「なんかできることがあったら言ってくれ」


「もういっぱいしてもらっている。もう十分だ」


「リリエスも絡んでいるんだろう。その復讐」


「リリエスをあんなにしたリッチは死んだ。でも受け継いでいるやつがいると思う。もしそんな奴がいたら、そいつもぶち殺す」


「それからどうする」


「何も決めていない。勝てるかどうかわからないしね。そのうち死ぬさ」


「復讐は気休めだから。できれば忘れさせてやるんだな。もし何人かで復讐をするとして、そのパーティーは終わった後必ずバラバラになるから、その準備しておきなよ」


「考えてはいる」


「それにしてもリリエスは、レベルがカンストしたままなのか」


「いや、スキルいらないらしくて、レベル1に戻した。なんか無駄なことさせたみたいで、悪かったな」


「いや楽しい遊びだったよ。スタンピードも」


「ありがとう。今日はそれを言いに来た」


「それで、スキル全部1にしたのか?それ聞くのはマナー違反だな。リリエスはまだ現役だし。いらなくなったスキルは捨てたのか」


「スクロールになっている。使い方が難しくてね。俺らはもういらないし、若い子にやってしまうと、自滅しそうだし。使い道に困っている」


「ぜいたくな悩みだな。スキル1上げるのに、とてつもない苦労してきたから」


「持ちすぎると、それでやられてしまうんだ。アーサーも金多すぎて困ってないか。俺が助けてやってもいいぞ」


「金もな。俺らは今更いらないし、若いやつにやると、自滅するって。おんなじだな」


 世間話をしてアーサーの家を辞した。いらないといってもクルトはリリエスのスクロールの恩恵を受けている。かなりたくさんだ。


 30倍のビッグバンが起きた夜、憑依していた一真も巻き込まれていた。一真の経験値も30倍された。既に持っていたスキルに加えて、まだスキル化していなかった一真(ケリー)のスキルまで発現し、スクロール化されていた。


 今もそのスクロールストックから、真偽判定、鑑定、表計算、カード型記憶、スキル強奪。なんと5つのスキルをもらって、身に備えている。


 スキル強奪はもともと贈与のスキルだったのだが、上位のスキルに2回進化した。最初は交換スキルで、相手にスキルを贈与すると必ず何かのスキルを返してもらうことができた。それがもう一回進化すると、何も与えなくても、相手から指定したスキルを強奪できる。


 王都アリアスの東地区ギルド長として、ギルドの不正を暴き、粛清をしてクルトの権威を確立する。そのためにこれらのスキルは役に立ってくれるだろう。クルトはまだ王都のギルドに出勤していない。その前にやることがあった。

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