第72話 一重の三白眼
狐獣人の娘ジュリアス。10歳になったばかりだから、色香はまだない。胸が膨らみはじめたことは、外見ではわからない。無条件に可愛いと言えるのは小さなケモミミ。黒に見える濃い青の髪から、チョコンと出ている。一重の三白眼でつり目。美人になるかどうかは不明。ジュリアスは、自分の外見に関心はない。
ジュリアスは市場の手伝いが終わると、テッドのところへ行って朝食を作る。材料はもう準備されていて、軽く炒めたり、温めたら出来上がりだ。二人で食べる朝食は楽しい。
「テッド。私、全財産20万チコリあるの。それで買える最高の武器と防具をそろえたい」
「どんな戦闘スタイルなの?」
「自殺盾。味方に当たりそうな攻撃に、自分から当たりに行く」
「長生きできそうもないな」
「自分でもそう思う。それで防具とか良くしたくて。でも良い鎧は重くて、動きが鈍って、当たりに行けない。それが悩み。それで全財産で防具を買いたい」
「じゃあジュリアス。今日は1日、武器や防具を取りに行こう」
「泥棒するっていうこと?」
「まあそうかな。馬車で行くから準備して」
着いたところはディオニソス神殿。ジュリアスはこんなところがあるとは知らなかった。美しくて厳かだった。まさか神様からドロウボウ。神殿の手前にタワーがあって、黄色の粘土で塗られている。最近の改修だ。だれか住んでいる。テッドが大声で叫ぶ。
「ワイズ。いろいろ、連絡を頼む。ケリーにも。今日は行商休みって言っておいて。神殿でジュリアスとモンスター倒しているから手伝ってと」
スケルトンと戦えとテッドは言う。ジュリアスはテッドの店でいい防具選んでもらうつもりだった。テッドはここで国宝級の武器や防具が出ることを知っている。
「ジュリアス。来た3体。俺が2体足止めするから、1体ずつ倒せ」
まず盾で受ける。スケルトンの剣は重い。なんとか力を受け流す。その技術を今、練習中。獣人だから、敏捷性には自信がある。しかも兆候発見スキルで、なんとなく相手の剣筋が分かる。
レイピアで逆襲。連続して突く。ボロボロだが、防具もつけている。重武装のスケルトンだ。防具の隙間を突くが、隙間に入っても、骨には当たらない。
スタンピードの時、エルザに教えられたスケルトンの弱点を思い出す。頭蓋骨を砕くか、火魔法で焼き尽くす。火魔法なんかない。必死に突いても、スケルトンには効いてない。
ダメだ。頭蓋骨まで手が届かない。魔法スキルは水魔法しかない。ウオーターバレットを足に打つ。スケルトンが前のめりになった。目のあったあたりの穴に、レイピアを突き刺す。
剣が抜けない。重い剣がジュリアスの頭を襲う。盾で受け流し、ウオーターバレットで、頭蓋骨を打つ。剣が外れて、距離をとれた。息が上がりはじめた。
速攻だ。ウオーターバレットを足に、レイピアを顔に。さらに顔に連打。頭蓋骨にひびが入り、そのひびを連打。頭蓋骨が砕けて、スケルトンが倒れる。やっと勝てた。
「さあ次だ」
テッドは容赦がない。この人、優しいふりして、本当は怖い人なのかもと、ジュリアスは思う。3体が終わったらヒールしてくれた。悪いこと思って御免テッド。と思ったらまた次だ。2体。そうして10体倒したところで休憩。ヒールした後、MPポーションを飲ませてくれた。これ高いものだ。
「テッド、これ私みたいな貧乏人が飲むものじゃない」
「俺のおごりだ。断ったら失礼になる。そっれでも断るか」
「いえ、ありがとうございます」
スケルトンの装備を丁寧に剥ぎ取る。手に付けている手袋や、靴、靴下、下着まで。本当に重装備で手間がかかる。でもこのぼろ装備をリリエスにリペアしてもらうとテッドは言う。それが最高の装備を手に入れる方法なのだと。
昼食をはさんで15時。それまで76体のスケルトンを倒した。途中からケリーも来てくれて、二人で競争しながら戦った。ケリーの糸術、上手くなっていて焦る。ジュリアスより強い。集めた武器や防具をリリエスのところへ持っていく。
リリエスに自分の目指す自殺盾を説明して、あきれられる。そして20万チコリを渡す。明日ダンジョンでアリアにも同じ説明をしなさいと言われる。アリアも20万チコリの予算内で、何かを作ってくれると。
テッドは16時にイエローハウスまで送ってくれた。テッドともゆっくりできて、今日は良い日だった。
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