8.「講座はこの時間だけなのでしょうか」
静村さんがまだ行方不明だけどオリエンテーションを始めることになった。
ていうか信楽さんが仕切っているんだけど。
「まず機材を配りますぅ」
信楽さんが教壇に立って指示する。
全員の前に箱が置かれた。
配ったのは
何かもう信楽さん無敵だよね。
箱を開けて見る。
最新型のタブレットじゃないか!
これ、貰っていいの?
「宝神の学生や講師にはぁ全員に支給されますぅ。ちなみに大学の備品ですのでぇ無くしたり壊したりしたらぁ弁償ですぅ」
さいですか。
その場で起動するように
ちなみに僕は教授のはずなのに学生扱いされてるんですけど?
「今は事務局の
「信楽さんって事務局の人なの?」
「事務次長ですぅ」
偉い人だった!
まあいいか。
信楽さんの話ではオリエンテーションの一環で、宝神の事務関係や機材の使い方については事務局の人が学生に説明することになっているのだそうだ。
心理歴史学講座は事務次長が直々にやってくれていると。
このタブレットは学生や講師の専用端末であると同時に大学事務局側が学生や講師に色々連絡したりするためのもので特注品だとか。
信楽さんが自分もタブレットを使いながら説明してくれた。
「これはぁクラウド端末ですぅ。内部メモリにはぁ何も保存出来ないようになってますぅ。アプリやデータはぁ大学のサーバにありますぅ」
ちなみにこのタブレットは大学の構内でしか大学のサーバにアクセス出来ないらしい。
凄いセキュリティだ。
「大学を出たら使えなくなると?」
「インターネットの端末としてならぁ使えますぅ。例えばぁ通信大学のぉ講義映像を見たりは出来ますぅ。メールなども読み書き可能ですぅ」
なるほど。
つまり大学の外ではブラウザ端末兼メーラーでしかなくなるわけね。
まあタブレットの機能って本来はそういうものだからいいんだけど。
「でもそうすると大学に来なければ講義の休講とか判らなくならない?」
「大学にぃ外部接続用のサーバがありますぅ。これはぁインターネットからアクセス出来るのでぇ、事務作業についてはぁ外部からでも可能ですぅ」
使ってみて下さいぃと言われたので色々弄ってみたら「心理歴史学講座」のサイトが既に立ち上がっていた。
何かもう
もっとも開いて見て安心した。
ちなみに大学の場合、1単位時間は90分。
休み時間を挟んで連続3時間が僕の持ち時間になるらしい。
思ったより楽どころかスカスカ過ぎるのでほっとしていると信楽さんが言った。
「後で説明しますがぁ、宝神の教育体制は特殊ですぅ。心理歴史学講座の単位時間はぁ種別としては演習ですがぁ、むしろ発表になると思いますぅ」
「それってどういう」
「つまりぃ、学生はぁ1週間で成し遂げた成果をぉそこで発表することになりますぅ。その結果も考慮してぇ次の1週間の目標をぉ決めますぅ」
もちろんこれは試案ですぅ、と信楽さん。
ざわっと無言の叫びが響いた。
つまりこれ、テストみたいなもん?
いやむしろ成果発表か。
そういえば聞いたことがある。
営業職のサラリーマンって一日中営業に出ていて帰ったら集められて上司の前で成績を報告させられるんだって。
成果が上がってないとボロクソに言われたりして。
(ブラック企業はそうらしいな。ネットの噂だが火のない所に煙は立たないから、そういう企業もあるんだろう)
(俺は営業じゃないからな。さすがにみんなの前で発表とかはなかった。だが成績が上がらないというか仕事の結果が悪いと居たたまれなかったなあ。失敗でもすればそれはもう)
逃げたな。
経験があるらしい。
やだなあ。
「講座はこの時間だけなのでしょうか」
高巣さんの声が上がった。
そんなはずないでしょ。
どこの世界に週休6日制で出席する日も午前だけで終わる大学があるかっての。
「そのお話をしようと思ってましたぁ」
信楽さんが淡々と続けた。
「宝神総合大学ではぁ○○通信大学と契約をぉ結んでいますぅ。通信大学についてぇ知っている人はぁいますかぁ?」
シーン。
しょうがない。
僕は手を上げて言った。
「詳しくないけど映像で講義を提供する大学でしょ? 学生はいつでもどこでもスマホとかで講義を受けられるっていう」
「その通りですぅ。実際にはぁ、スマホの受講だけでは卒業出来ないですがぁ。試験やぁ実習もありますぅ」
そうなのか。
まあそうだよね。
スマホで映像見てるだけで学士号取れたらそれって詐欺だよ(笑)。
「先方は宝神とどういう契約を?」
「宝神の学生がぁこの通信大学の講座を受講して単位を取った場合ぃ、その単位を宝神でぇ認定しますぅ。ただしぃ一般教養だけですぅ」
何と。
そういうことか!
「……上手くやったのか」
ずっと黙っていた
「相変わらず凄腕だな。信楽秘書室長」
「宝神ではぁ事務次長ですぅ」
帝国の将軍と魔神。
何気ない言葉の節々に火花が散っているような。
「
「説明は受けていた。取締役会で事業計画として上がっていたからな。ダイチ、契約書にはお前がサインしたはずだが」
覚えてない(泣)。
そんな僕たちに構わず高巣さんが溜息をついていた。
「そういうことですか。つまり宝神はわたくしたちにその講座を受講しろと」
「受講するかどうかはぁ学生の自由ですぅ。でも受講しないとぉ単位は貰えないですぅ」
それからのほほんと。
「毎年ぃ取得単位数がぁ決まっているのでぇ、それに達しない場合はぁ
鬼か!
いや判ってる。
そういう方針は黒岩くんたちから出てきたんだろうね。
でないと護衛兵の人たちなんか全滅するだろうから。
ちらっと見ると高巣さんの後ろに仁王立ちしている
いや一見お寺の仁王像みたいだけど僕には判る。
動揺が顔に出てるよ?
「ちょっと……よく判らないんですが」
残念な声が上がった。
「どういうことでしょうか」
「それはね」
うんざりした声で説明する
「要するに宝神には教室で座って先生の話を聞いていればいいような授業はない、ということよ。そういうのは空き時間にタブレットかスマホで受ける」
「その分働けということだよね? ヤシロッチ」
鞘名さんがなぜかウキウキした声を上げる。
「いいよいいよ! 私、たっぷり働くから!」
あんたらの仕事って証券事業部の部屋でソファーに寝転がってポッキー食べながらテレビ見ることだったっけ?
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