オロチ殺しの英雄
俺は外側に意識を戻す。
「すまない、俺はどのくらい瞑想していた?」
「30分程でござる」
「すまないな。俺の内面全てに意識を向けたかった」
「なんとなく、声をかけない方が良いと思ったわ」
「分かった事がある、いや、まだ確信はない」
「何でござる?言ってみるでござる」
「俺の体の呪いを、俺の炎の力が消しているかもしれない。いや、浄化の方が近いか」
「カムイ」
ヨウザンがつぶやく。
「それは大げさじゃないか?」
「え?なに?なんの話?」
「悪い、説明不足だった。カムイは、神話に記されている炎の神だ」
「ウインのキャンプファイアみたいね」
「神話のカムイは俺のキャンプファイアとは比べ物にならない力を持っている」
「カムイの炎は魂の呪いさえも焼き尽くす炎を操ったと書かれているでござる」
「ウインの呪いを焼く炎と、カムイの魂の呪いを焼き尽くす力。似ているわね」
「待て待て。大体スキルが発現していないんだ。俺の気のせいかもしれない」
「スキルが目覚め始めているのかも」
「覚醒の予兆でござるよ。メツとオロチの呪いを受けて生きている理由として、カムイの炎の力と言われた方がしっくりくるでござるよ」
「そうね。神話の力が目覚めたおかげでウインが生きているって言われると納得できるわ」
「炎を操るウイン殿が神話の炎のスキルに目覚めつつあるでござる」
ベリーとヨウザンが頷く。
「なあ、何でオロチは俺の事をカムイって呼んだんだ?」
「その話はヨウザンから聞いたけど、オロチの契約を私に移せば分かるかもしれないわ」
「それは駄目だ。オロチの呪いが残っている。だが、時間が経てば呪いが消えるかもしれない。その後だな」
「少し、休みましょう。眠くなってきたわ」
「ベリーはまだ眠いのか?」
「そうね。何か思い出せそうな気がするんだけど」
「ゆっくりしよう。俺も寝て過ごす。そう言えば俺ってどのくらい寝ていたんだ?」
「三日でござる。もうしばらくは養生するでござるよ」
「ああ、そうだな」
たった三日か。
思ったより短い。
メツの時は一カ月、目を覚まさなかった。
メツよりオロチの呪いの方が強く感じていた。
だが俺は三日で目覚めた。
俺の力が増している?
その日から俺は眠って瞑想をして過ごした。
◇
目を覚ましてから更に三日が過ぎた。
たっぷり眠り、気が向けば瞑想をする。
俺の中の炎を前より実感できるようになった。
気のせいじゃない。
俺の中の炎が呪いを浄化している。
炎の力が大きくなり、呪いを燃やし尽くそうとしている。
オロチをテイムして、俺の体にオロチの呪いが半分が入り込んだ。
俺とオロチがそれぞれ呪いを受けている状態だ。
オロチの契約をベリーに移したい。
俺はオロチが受けている呪いを意識して燃やす。
俺の呪いは後回しだ。
オロチの苦しそうな顔を見たくない。
ベリーが泣いているように見えるから。
俺はオロチの呪いを消す。
オロチの苦しみを消している実感がある。
だが最近おかしい。
縁側での瞑想が終わり、気づくと俺を拝んでいる者がいる。
俺はヨウザンに話を聞きに行く。
「最近俺が拝まれている気がするんだ」
「ウイン殿はオロチを倒した英雄になっているでござる」
「倒してないぞ」
「本当の事を話すとベリー殿が酷い目にあうと思ったでござる。オロチとの戦いを見た兵はウイン殿がオロチの首を落とし、人化したオロチを消し去ったように見えていたでござる。少し脚色して、英雄になって貰ったでござるよ」
「なん、だと」
「ベリー殿の事を思えばそれが一番でござろう?」
「ぐ、確かに、しばらくは部屋でゆっくりすごそう」
数日もすればみんな忘れるだろう。
だがそうはならなかった。
数日後、ヨウザンが俺とベリーにやりたいことを聞いてきた。
「イチゴ大福」
「きゅう~」
ベリーだけでなくきゅうもイチゴ大福が食べたいようだ。
「俺はそばを食べたい」
「手配するでござる。ゆっくり休むでござる」
その日の夜、ごちそうが用意されていた。
料理長の男が俺に頭を下げる。
「このたびは、オロチを討伐していただき、誠にありがとうございます。子が生まれましたが、ウイン太郎と名付けようと思っております」
「やめておけ!」
「英雄の名は恐れ多いでしょうか?」
「違う!名前が変だろ!」
「そうですか、では他の名前を考えてみます」
「そうしてくれ」
料理長が下がっていく。
さっきからきゅうはそばの上に乗った油揚げから目を離さない。
明らかにハンターの目をしている。
ベリーは油揚げを食べた。
「きゅ!きゅうー!」
ベリーに頂戴!頂戴!とアピールする。
「きゅうが食べたがっていたぞ」
「きゅうは食べなくても大丈夫よ」
ベリーも油揚げが好きだよな。
きゅうとベリーは似ているのか?
きゅうがベリーのスキルなら好みも同じになるか。
「きゅう!きゅ!きゅきゅうう!!」
きゅうが俺に縋りついてくる。
ターゲットが俺に移った。
「俺の油揚げが欲しいのか?」
「きゅう~」
油揚げを箸で持って移動させるときゅうが首を振って目を離さない。
きゅう用の小皿に油揚げを置くと夢中で食べだす。
串団子の串を外して渡すと両頬をぷっくりさせながら2玉を口にキープする。
更にそばを口に運ぶと1本だけちゅるちゅると食べだした。
そして俺の膝の上で眠る。
可愛い。
だが眠ってしまったか。
食事を終えると部屋を出て散歩する。
夜風に当たりたい気分だ。
城を出て港町を歩くとすぐ声をかけられた。
「お!英雄のお出ましだ!」
「焼き魚がある!食ってくれ」
「酒だろ酒」
「英雄に抱かれたい女なら紹介できるぜ」
夜なのに街に出たとたんに囲まれた。
ヨウザンの力は想像以上に強いようだ。
俺は英雄に祭り上げられていた。
俺は急いで城に戻る。
「なんなんだ?港町に出た瞬間囲まれた」
「当然でござる」
ヨウザンが当然のように声をかけてくる。
「オロチは1000年の間、民を苦しめてきた存在でござる。オロチが居なくなれば見張りの兵を魔物狩りや治安維持に使え、島の奥地にある鉄も取れるようになるでござる。北島は豊かになっていくでござるよ。ウイン殿が英雄になるのは当然の事でござる」
「そっか。何よりだ」
倒していないが、皆が救われたのなら気分がいい。
「最近体の調子はどうでござるか?」
「呪いはだいぶ楽になった。街に出かけられるくらいよくなった」
「うむ、ではタケル様の所に向かって欲しいでござる」
「ん?」
「用事があるようでござるよ。出来ればお忍びで向かって欲しいでござる」
「良く分からないが、分かった」
俺はタケルの元に向かった。
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