オロチ

 10メートル以上ある大きな体。

 うねうねと不気味に動く8本の首。

 オロチが城に迫って来る。

 呪いのような黒い魔力をまとっている。


「大蛇じゃなくてどう見ても竜だろ?」

 ヤマトに竜は生息してないんだっけ?

 いや、いるよな。

 首が長いからヘビに見えるのか?


 まだ城から距離は遠いが、辺りが騒ぎ出す。

「うああああ!もう終わりだあああ!」

 城の者が叫び、混乱が起き始める。


 ベリーが絞り出すように言った。

「だめ、やめて」

「ベリー?」


 ベリーは両手をオロチに向けた。

「やめて!」

 ベリーは気を失って倒れる。

 その瞬間オロチの黒い魔力が薄くなり、オロチの動きが一瞬鈍くなるが、すぐに城に向かって歩き出す。


 俺はベリーを抱きかかえながら外に出ていたヨウザンに言った。

「ベリーを頼む!」


「またれい!お一人で行くおつもりでござるか!!兵を整えるまで待たれええい!!」

 ヨウザンは声を荒げて制止する。


「時間がない!行って来る!」

「ま、またれえええい!」

 止めようとするヨウザンを振り切って俺はオロチの元へと向かった。




 オロチは俺を8つの顔すべてで凝視する。

「注意を引けたか。こっちに来い!」


 グオオオオオオオオオオオオ!

 俺は人の居ない森に移動した。


 斥候の能力でオロチのステータスを調べる

 炎耐性と炎のブレス攻撃か。

 キャンプファイアは効きにくいだろう。


 オロチのブレスを何度も何度も何度も避ける。

 オロチの首を狙って何度も何度も何度も何度も斬撃を繰り出す。

 オロチの首が半分落ちると、オロチが変身する。


 ベリーと同じ。

 まるでベリーの双子のようだ。

 キュウビの時は尻尾の数が違ったが、変身したオロチはベリーと同じ形をしていた。


 体が小さくなった分、黒い魔力が濃く、凝縮されている。

 オロチの顔は悲痛な表情を浮かべる。


 悲しんでいるのか?

 苦しんでいるのか?

 怒っているのか?


 いや、様々な負の感情が入り混じっている。

 傷ついたベリーの顔が脳裏に浮かぶ。


 オロチは黒い魔力を炎に変えてまとう。

 まるでベリーのフレイムダンスのようだ。

 オロチが叫ぶ。

「カムイ、何で!何でなの!」


 カムイ、不思議な感覚に包まれる。

 俺の事をカムイと勘違いしているのか?

 カムイって、神話の神の名前だよな?


 オロチは自分を傷つけるように炎で燃えていく。


 黒い呪いの炎に包まれたオロチ。

 その姿に胸がチクリと痛む。


 悲痛な顔と声を出しながら自らを焼くオロチ。

 その苦しみを、俺は、俺が変わってやりたい。


 俺はおかしいのかもしれない。


 おかしいのかもしれないが。


 オロチも元に一歩、また一歩踏み出す。


 そして、抱きしめた。


 後ろからオロチに備えたヨウザンが兵士を連れて追い付いてくる。

「ウイン殿!何をやっておられる!焼き殺されてしまいますぞ!狂っているのでござるか!」


「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ離れて!カムイを殺しちゃう!」

「オロチ!選べ!俺をこのまま焼き殺すか!テイムされるか選べ!」


「テイムしたらあなたは呪いを受ける!いいから離れて!離れてよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!!」」


「離さない!俺を受け入れろ!言う事を聞け!俺の言う通りにしろ!俺のものになれ」

 オロチは『俺のものになれ』と言われた瞬間オロチの魔力が乱れる。


 自らの殻に閉じこもったオロチの魔力にほころびが生じた。

「テイム!」

 オロチが俺の体に吸い込まれた。


「大丈夫でござるか!?」


「何がだ?」

「そのやけどでござる!その呪いでござるよ!」


 自分の手を見ると焼けて、黒いマダラの文様が浮かんでいた。

 俺はすぐに魔法で火傷を治す。

 そして魔法で呪いを解除しようとするが、手ごたえがない。

 火傷は治っても呪いが消えない。


 俺は意識を失っていく。




 ◇



 ベリーが近くにいる。

 俺の服を掴んでいるのか?

 いつからだろう? 

 時間の感覚が分からない。


 俺が目を覚ますとベリーが抱き着いてくる。

「やっと起きた!」

 ベリーは泣きながら俺からしばらく離れなかった。



 縁側の扉は開けっ放しになっていた。

 ヨウザンは何度も俺が居る部屋を訪れるが、ベリーの様子を察して3度部屋を後にした。


 ベリーが落ち着き、ヨウザンが4度目に部屋を訪れた時に俺はヨウザンを呼び止めた。

「ヨウザン、来てくれ。ベリーも一緒に話をしよう」


 俺が寝ている横にヨウザンとベリーが座る。


「体の具合は大丈夫でござるか?」

「死にはしないだろう。呪いが治るにはしばらくかかるだろう」

「信じられませぬ!神が1000年荒ぶるほどの呪い。普通は一瞬で呪い殺されるでござる!」


 ヨウザンと少しだけ距離が近くなった気がする。

 オロチ戦で腹を割って言い合ったのが良かったのか?


「そう言われてもなあ。名前持ちのメツの時も死ななかったし」

 俺の言葉の後、ベリーがスケルトンの名前持ちの説明をした。


「スケルトンの名前持ちの呪いから死を免れ、更にオロチを体に宿してなお、調子が悪いで済んでいるでござる!常軌を逸しているでござる!」


 アンデットの名前持ちの呪いは強烈だ。

 伝説の英雄がアンデットの名前持ちに何度も殺されている。

更に神話の時代からの化け物、オロチをテイムして俺は生きている。


「そう言えば気になったんだけど、普通魔物をテイムするときゅうのように言う事を聞くようになるだけで、体に入ってきたりしないよな?どうなってるんだ?」


 ベリーに乗っかっていたきゅうがここだよと伸びてアピールしてくる。


 オロチをテイムした瞬間オロチが俺の体に吸い込まれた。

 普通のテイムと状況が違う。



「それを聞きたいのはこっちでござった」

「ベリーは何か感じたり思い当たる節があったりしないか?」

「分からないわ。私がテイムすれば分かるかもしれないわ」

「それは駄目だ!」


「どうしたてござる?」

「オロチは呪われている。テイムして分かった。オロチは呪いを受けて狂ったんだ」


「私に契約を移せばウインの具合が良くなるわ」

「駄目だ!俺は回復力が高いから助かっている。ベリーが呪いを受けたら死ぬ」

 俺は自分で言ってから気づいた。


 俺は、メツとオロチの呪いを受けて生きている。

 普通は死ぬらしい。

 だが、回復力が常時アップする程度で呪いを防ぎきれるのか?


 メツの時は奇跡的に助かったと思っていた。

 だが2回呪いを受けて寝込む程度で済んでいる。

 キュウビの呪いもいれたら3回だ。

 しかも俺はキュウビの呪いを寝るだけで簡単に治した。

 俺は深く呼吸をし、自身の内側に意識を集中させる。


 呼吸。

 血の巡り。

 流れる魔力。

 すべてを感じる。

 

 ……俺の中にある炎が、呪いを燃やしている。

 メツ戦の後の時は感じ取ることが出来なかった炎を感じる。

 2度大きな呪いを受けて俺の中の炎の力が増している。

 

 この炎は、オロチの炎ではない。

 俺の中にある炎の力。

 俺の中の炎の力が、強くなっている。




 


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