キュウビ

「まさか7日でここまでキュウビを追い詰めるとはのお」

 俺達は何度もキュウビに迫り、そのたびにきつねの魔物に囲まれ、殲滅した。


 だんだん狐の数が減り、キュウビの顔に疲労が見えた。

「キュウビに試してみたいスキルがある。出て来た魔物の足止めをみんなにお願いしたいんだ」


「構わんが何をするのじゃ?」

「ん、反応がある。やる事はその時になってからだ」

「気になるのお」

「すぐにわかる。それに期待しないでくれ」


 タケルの部下も合わせた56人全員でキュウビに突撃する。

 俺は少し後ろからみんなを追った。

 そしてきつねの足止めが始まった瞬間、俺は全力で駆けだした。


 キュウビに手をかざす。

「テイム!」


 キュウビの体が輝き、小さくて丸いフォルムに変わる。

 丸いボールを潰して、きつねの耳と尻尾、そして小さな足をつけたような外見に変わる。

 つぶらな瞳が可愛らしい。

 まるでぬいぐるみのようだ。


「きゅう~」

 キュウビが俺に抱きつき、すりすりと体を擦りつけてくる。

 可愛すぎる。


 スピードホースの時のトラウマが嘘のように俺に懐いてくる。

 懐いてくるって良いよな。

 スピードホースと大違いだ。


「キュウビをテイムしおったわい。じゃが大丈夫かの?呪いを受けたようじゃが」

 キュウビは呪われていた。

 その呪いがテイムした事で俺に流れ込んだ。


「呪いは軽い。すぐ治るだろう。それにキュウビは名前持ちの魔物と質が違う気がしたんだ」

「うむ、ヨウザンもそんな事を言っておったのう」

「ヨウザンか。会ってみたいな」


「ヨウザンの居る北島にはオロチも居る。オロチもテイムできるかのう?」

「分からない。見てみないと何とも言えない。行ってみるのもいいかもな」


 俺はベリーの所に歩いていく。

 ベリーはこういうのが好きだ。

 きゅうきゅう泣いて可愛い。

 ベリーも喜ぶだろう。


「ベリー、見てみろ。可愛いだろ?」

 

 ベリーが俺からキュウビを受け取ると、両手で持ってキュウビを見つめる。

 ベリーとキュウビが見つめ合ったまま動かなくなる。


「……」



 ベリーとキュウビは数分間見つめ合っていた。

 そしてベリーが口を開く。

「ねえ、キュウビを私と契約させて」

「ベリーがキュウビと契約したいのか?」

「そうね」


 ベリーはよっぽどキュウビの事を気に言ったらしい。

 あんなに真剣に見つめるのは珍しい。


「わかった」

 出来るだけキュウビの呪いを俺が受け取る。

 そうしないとベリーが呪われるからだ。

 呪いは軽いが念には念を入れる。


 その後俺はキュウビとの契約をベリーに移す。

 だが、契約を移す時、キュウビの契約がベリーに吸い取られるような不思議な感覚を覚えた。


「オロチの所に行きましょう。でも少し、疲れたわ」

「連戦が続いた。疲れが出たのかもな」

 だがおかしい。

 キュウビ契約をベリーに渡してから急にベリーが疲れたようにも見える。

 ほとんどの呪いを俺が受け取ったはずだ。


 ベリーがテントで眠ると、タケルと一緒に焚火を囲んで話をする。

「ウイン、ベリーの疲れが取れたらすぐにヨウザンの元に向かうんじゃ」

「どうした?」

「ベリーとキュウビの契約を見て感じたんじゃ。ベリーとキュウビには何かがある」


 それは俺も感じていた。

 何かは分からないが何かがある。


「そう、だな」

「すでに斥候に命じて船の手配は終わっている頃合いじゃ」




 その後ベリーは3日ほどだるそうにしていた。

 俺もキュウビの呪いを受け取った事で体がだるい。

 すぐ治るだろう。


 ベリーの調子が戻らない為、俺はベリーをおんぶして港へと向かった。

 俺に背負われたベリーの上にキュウビが乗っている。


「ベリー、具合は悪くないか?」

「具合は悪くないわ。でも、凄く眠いの。何かを思い出せそうな」

 ベリーはうとうとし始める。

「無理せず寝てくれ」

 ベリーは頷いてそのまま眠った。


 走るとベリーの負担になる。

 ゆっくり歩こう。


 ゆっくり歩く。

 何度も休憩を挟む。

 5日かけて港にたどり着き、船に乗った。


 船に乗るとベリーが起きて俺を見つめる。

「ねえ、私、きゅうと一緒だったのかもしれない」

「きゅうと一緒?きゅうってキュウビの事か?」

「え?そうね。この子はきゅうよ。ふぁ~。まだ寝ぼけているみたい。もう少し寝るわ」


 もう名前まで付けていたのか。

 お気に入りだな。

 寝ているきゅうを撫でまわす。

 そういえばきゅうもよく眠るよな。


 ベリーが言っていたきゅうと一緒だったってどういう意味だ?

 いや、本人も寝ぼけているって言っているんだ。

 気にしても意味はない。


 ベリーは思ったより精神的な負荷がかかっていたのかもしれない。

 キュウビと恐れられ、きつね族に危機が訪れていた。

 そして自分は何もできず見ているだけだと言っていた。


 更に体力的にも何度もきつねの魔物との戦いに引きずり込んで無理をさせていたのかもしれない。

 

 しかも俺はベリーを何度も恥ずかしがらせた。

 俺も、良くなかったのかもしれない。

 汗が噴き出す。

 

 もっと、ベリーにやさしくしよう。




 ベリーが起きると俺はすぐに謝った。

「ベリー、今まで恥ずかしい事をして、負担をかけてしまった。本当にすまない」

「どうしたの?」

「ベリーが最近疲れて眠っているから、俺が恥ずかしがらせたせいかと思った」


「ふふふ、違うわよ。でも、すごく恥ずかしい思いをしたのはその通りよ」

 ベリーがほほ笑みながら言った。


「うん、言っておいた方がいいわね」

 ベリーは自分を納得させるように言った。


「私ときゅうは元々1つのものだったと思うわ」

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