【ウォール視点】ブルーオーシャン

 ベアード討伐後俺はすぐ眠り、起きたのは昼だった。

「腹が減った」


 本来は隊長の務めもあるが、血を流しすぎた。

 俺は大量の食事を摂りつつ、明日の早朝に港町ブルーオーシャンに向かう為準備が進められている事を知った。


 港町ブルーオーシャンの開拓は重要な国家事業だ。

 港と陸路の魔物を狩るだけで魚を内陸に運べる。

 東のヤマトと交易をする事で災害や魔物の被害があっても交易で食料を交換してもらえる。

 アーサー王国とディアブロ王国はより豊かになるだろう。

 

 更にデイブックの移民を受け入れる事で国の人口を増やすことが出来る。

 今のアーサー王国は人口が少なすぎるのだ。


 明日の出発に備えて今日はたくさん食べて眠る。





【次の日の早朝】

 王都の西門を抜けると、メア・ルナ様・エムル・ベリーの他に騎士団が準備を揃えていた。

 メアは半分眠っているがいつもの事だ。


「それでは出発だ」

 俺とメアが戦闘を進み、ウインのパーティーが後ろを固める。




 進むとウインの戦闘の痕跡が見える。

 ウインが好んで使う風魔法で草や木がなぎ倒されている。

 魔物の血も残っていた。

 ただ何故か異様に多くの木が斬り倒されている。


 目が覚めてきたメアに話しかける。

「メア、魔物地帯の木を斬り倒す事業はしていないだろ?ウインがやったのか?」

「ウイン君でしょうね」


 ウインは何のために木を伐採している?

 陸路の魔物狩りをする予定だったはずだ。

 大規模な魔物の群れが居たのか?

 いや、血の量が少なすぎる。


「考えても分かりませんよ。ブルーオーシャンに着いたら聞いてみましょう」

「うむ、そうだな」



 

 ◇




 俺達は予定を早めてブルーオーシャンに到着した。

 港の外れに場違いなさら地があり、その中央でウインが大型船を建造していた。

「ウォールか」

 そういって船の上からシュタっと飛び降り着地した。


「な、何をしている?」

「何って、船を作っているだけだ」

「船がでかくないか?」


「交易に使うなら大型船だろ?」

「いやそれよりどうやって海まで運、そうか、ウインは運び屋のレベルが100だったな。ストレージのスキルか」

 ウインは規格外だ。

 たまに理解が追い付かなくなる。


 本来大型船を作るためには造船工場を作り、その上で大型船を作る予定だったが、ウインの錬金術師のレベルは100でステータスも高い。

 能力が高いなら造船工場すら不要となる。

 数日で年単位の計画を消化するだろう。


 すぐにホープ大臣を呼ぶ必要がある。

 計画の修正が必要だ。


「なあ、船だけは1隻作ったけど、ベッドとかは何も作っていない。必要な物はあるか?」

「リストは船に登って遊んでいるメアに作らせておこう。俺は計画を修正する為、ホープ大臣を呼んでくる」


 メアは船の上に昇って船の内部に入ったりしてはしゃいでいた。

「ウイン君は船を造る為に木を切っていたんですね。凄い!帆に風を発生させる魔道具がついていますよ!」





「ウォール。船って後何隻必要なんだ?」

「ホープ大臣は10隻欲しいと言っていた。出来る事なら船本体だけを作っておいて欲しい。細かい所は我々やホープ大臣で進めよう。恐らくその方がホープ大臣はやりやすくなるだろう」

「分かった」

「すぐにホープ大臣を連れてくる。計画が早まってホープ大臣は喜ぶだろう。すぐに王都に戻る!」




 俺は100の騎士を連れて王都への帰路についた。

 騎士が話しかけてくる。

「ウイン王子は規格外ですね」

「ああ、戦いだけじゃない。内政の能力もかなり高い。それと動きが早い」


「ホープ大臣とブルーオーシャンに戻る頃には、大型船が10隻完成しているでしょうね」

「そうだな、1隻作ったら後は同じものを作るだけだ。同じ部品を9個ずつ作って組み上げていけば造船の建造速度も上がる」

「急いで戻りましょう」

「そうだな」




 ◇




「……と言う事があった」

 俺は夜中に王城に帰還し、すぐにホープ大臣にブルーオーシャンの出来事を話した。

 夜中だったが話を聞くホープ大臣の目に光が宿っていく。


「すぐに準備が必要ですな!文官100名と物資を移動させ、ブルーオーシャンに拠点を作りますぞ!すぐにヤマトに交易船を送り、ヤマトと協定を結び交易を再開させれば海路交易だけは黄金時代の再現が出来ます!」


 連れてくる騎士が少なすぎたか。

 いや、今から兵を集めよう。


「更に大型船ならブルーオーシャン港近辺だけでなく、遠くの海まで魚を取りに行くことが出来ます!そしてデイブックと行き来する客船の準備、更には」

「ホープ大臣!」

「なんですかな?」


「護衛の兵はいくら必要だ?それと、ウインには10隻作ってもらっているが足りるか?」

「失礼、つい興奮してしまいました。護衛は500,大型船の規模にもよりますが、欲を言えば20隻は欲しいですな」

「すぐに連絡を出そう」


 ホープ大臣が興奮するのも分かる。

 海路の開拓はホープ大臣の夢だった。

 ウインが国内の魔物を狩っていなければ国の西端にある港の開拓計画は実行不可能だった。


「今日は失礼する」

「ウォール、今日はゆっくり休んでください」

 その3日後、ホープ大臣と文官を護衛しつつブルーオーシャンに向かった。




 港に着くと、20隻の大型船が整列するように海に浮かぶ。


「これが、ウイン殿の力」

 そういったホープ大臣を見ると、涙を流していた。

「し、失礼、感極まってしまいましたな」

「いや、気持ちは分かる」


 ホープ大臣は何年も苦労を重ね、餓死者を減らす為働いてきた。

 だが出来なかった。

 どんなに内政を頑張っても魔物に襲われ壊され、また作っては壊される。

 何度も何度も計画を修正してそれでも諦めず頑張ってきたのを知っている。


 それは俺も同じだ。

 魔物は狩っても狩っても出てくる。

 部下を育てても育ててもどんどん死んでいく。


 悔しかった。

 無力感を覚えた。


 ウインが来てから変わった。

 いや、ウインが魔の森で修業するようになってから魔の森からの魔物の発生は減っていた。

 もっともそれに気づいたのは最近だ。


 ウインは魔の森の魔物を狩り、国内の魔物を狩り、皆が力をつけ始めた。

 ウインがきっかけで明らかに変わった。


 ホープ大臣はウインを見つけると泣きながら走ってウインの手を握った。

 それを見守る俺の頬に涙が流れていた。


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