内政の英雄

凱旋

 俺はベアードをストレージに収納した。

 生きている者を収納することは出来ない。

 息の根を止めた事を確認したのだ。


「撤収だ!片付けよう!」

 ウォールが走って来る。

「助かった。ウイン一行は休んでくれ。後は俺達がやる」


「ウォール。一番休息が必要なのはお前だ」

 ウォールはベアードを足止めし、疲弊しながらもこの瞬間まで隊列の陣形作りやや決戦の事前準備を行ってきた。


 100人隊長が駆け寄る。

「ウォール隊長もウイン殿、いえ、ウイン王子も休んでください」

「ウインでいいぞ、ウォール、帰って休むか」

 俺はウォールの手を引いて強引に南門に歩いていく。


「ベリー・ルナ・エムル、今日は騎士達に任せて休もう」

 俺達が南門の近くに向かうと、兵士が門の側面にずらりと並ぶ。


「英雄の凱旋であーる!!かああああいもおおおんん!」

 兵士の叫び声で南門が開けられる。


 凱旋って、すぐ外で戦っただけだし、またその言い方で開門するのか。

 王城に続く道はパレード状態になり、魔道カメラがカシャカシャと鳴り響く。

 宿屋に言って休みたかったが強制的に王城に歩くルートが確保される。


「ベアード討伐祭はまだ行われています。南門付近の出店はまだやっております!どうか奮ってご参加ください」

 魔道マイクで宣伝が行われる。


「ベアード討伐祭になってるわ!」

「国民を安心させたいのですわ」

「でも、出店の収入を上げたい思惑も感じる」

「それもありますわね」




 王城に入る直前にマスコミが取材してくる。

「どうも、クロノです!ベアード討伐について一言お願いします!」

「倒せてよかった」

「長めの感想をお願いします!」


「……休ませてほしい」

 早く引き上げて欲しい。

 

 そこにホープ大臣がやって来る。

「英雄には休息が必要。取材は終わりです。あまりしつこい様なら、公的に圧力をかけますぞ」

 ホープ大臣はにこにこしながらマスコミに言った。


 マスコミの表情が変わりすっと下がっていった。

 俺達は王城に入り門が閉められた。




「大臣、助かった」

「いえいえ、お礼を言いたいのはこちらの方です。ウォールも今日は休んでください。細かい処理はこちらで済ませますぞ」


 ホープ大臣は王女であるルナではなくウォールの名前を出した。

 やはりウォールの体調は相当悪いんだろう。

 ベアードとの戦いで血を流しすぎた。

 ポーションや魔法で傷は塞げても腹は膨れないからな。


「ウォール、今日はたくさん食べて眠ってくれ」

「ああ、そうさせてもらう」

 ウォールは歩いて立ち去った。


「しかし、マスコミはしばらくしつこく取材をしに来るでしょうな。ベアード戦を終わらせ、早く海路の開拓をしたいのですが」

「港町に漁船だけじゃなく交易船を作って港を整備するって話か?」

「その通りです。それと港に続く魔物狩りも同時進行でやる必要があります」


 港は西の端にある。

 港の整備とここを結ぶ陸路の魔物狩りの計画中にベアードが現れたのだ。

 港の整備はデイブックへの人口流入と島国ヤマトとの交易。

 両方を行う為の国家事業だ。

 

 マスコミに付きまとわれるのは嫌だ。

 英雄扱いされて式典に出るのもお断りだ。

 今から港に向かおう。


「俺は今から魔物を倒しつつ西の港、ブルーオーシャンに向かう」

「今からですか!ベアードを倒したばかりですぞ!」

「俺の固有スキルに回復力を常時アップさせる効果がある。疲れが癒えてきた」


「今真夜中ですぞ!」

「斥候レベル100だから夜の移動は得意だ」

「真夜中!よ、夜の移動。はあ、はあ、僕も行くよ!」

「皆今日は休め!」


「ウイン殿は規格外ですな。分かりました。その前に!ブルーオーシャンに至る陸路の魔物狩りはほどほどでお願いします。騎士とここにいる皆もブルーオーシャンの魔物狩りを行う事になるでしょう」


「分かった、行ってくる」

 俺は城の窓から飛ぶようにジャンプしてソロで魔物狩りに向かった。



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