「打倒してしまっても構わんのだろう？」と魔王城へと向かい、逃げ帰ってきた勇者に追放された俺、その後英雄となり、美女たちと幸せライフを送る。～え？勇者？もう助けないし関わらないからご自由に～

スイーツ姫の謎

　修行を続け、ルナのレベルが８０を突破した。

　休憩を取る為と、魔物の受け渡しの為にアーサー王国の王都にたどり着く。

「久しぶりに王都に帰ってきましたわ」

　ルナは疲れているようだったが機嫌がいい。

　俺の機嫌もいい。

　エムルが内政の為セイラと共に一旦ディアブロ王国に戻ったのだ。

　ウォールとメアは戻ってすぐ仕事だ。

　騎士隊長は忙しいな。

　だが俺は自由だ。

　内政は大事だ。

　エムルが抜けるのも仕方がない。

　そう、仕方が無いのだ。

　今は俺、ベリー、ルナの３人しかいない。

「エムルもいなくなったことだし、たまには3人で出かけようか」

「デザートが食べられるランチがおすすめです！」

「ベリーもそこで良いか？」

「そうね」

「さあ、行きましょう」

　街に入ると子供がルナを指さした。

「あ、スイーツ姫だ！」

　さらに近くにいた子供が騒ぎ出した。

「むーんぷりんせすぷりん！」

　母親が子供に言い聞かせる。

「我慢しなさい！」

「ぷりんたべたい！！ぷーりーんーー！」

　子供は泣きだした。

「ムーンプリンセスプリンとは何ですか？」

　ルナが母親に魔眼を使って質問する。

「な、何でもありません。子供の言うことです。失礼しました！」

　母親は子供の口をふさいだまま走り去った。

「この街で何かが起きています！すぐに調べねば！」

「まずは食事だ。それからにしようか」

「分かりましたわ」

　食事はとてもおいしく、デザートもうまかった。

　だがルナは落ち着かない様子で食事を終える。

　そしてすぐに街で聞き込みを開始する。

　ルナは食事の後魔眼を使って街を調べ始めた。

　魔眼を使われると嘘を付けない。

　怖くね？

　俺とベリーはルナを見送る。

　俺とベリーは宿屋でゆっくりするが、ルナが中々帰ってこない。

「ルナが遅いよな」

「きっとスイーツ姫について調べてるのよ」

「でも、ルナはスイーツ姫だろ？」

　ベリーが目を逸らした。

「そ、そう言う事を言うのは良くないわ」

「でも、胃袋に余裕が出来ればお菓子を口に入れないと気が済まないだろ？ルナはスイーツ姫だって」

「コーヒーでも飲みましょう」

　ベリーは答えたくないようだ。

　それはルナがスイーツ姫だって認めてるようなもんだろ？

　これ以上の追及は止めておこう。

「ベリーと２人だけで過ごすのも久しぶりだよな」

　ベリーがコーヒーメーカーをがたんと落とした。

「ご、ごめんなさい」

　うろたえすぎだろ。

　だが可愛い。

　ベリーはコーヒーを飲むとすぐに自分の部屋に戻って行った。

　急いで飲まなくてもいいんだがな。

　武具やポーションを作ろう。

　作っている時、無になる感じが好きだ。

　俺はひたすらポーションを作った。

　日が落ちている！

　無になりすぎたか！

　そこにルナが帰ってきた。

「お帰り」

「……ただいまですわ」

　ルナが戻ってくるとベリーも寄ってくる。

「お帰りなさい」

　ルナはベッドでうつぶせになり、枕に顔をうずめていた。

「ルナ、どうした？」

「魔眼を使いすぎて、目が痛いです」

「無理しない方が良いぞ」

「どうやら私は、スイーツ姫と呼ばれているようです」

　ですよね。

　ぴったりのネーミングだ。

「そっかー」

　本当にぴったりだ。

　ネーミングセンスに光るものを感じる。

　ルナはうつぶせの状態を崩さないまま話を続けた。

「ただ、ムーンプリンセスプリンのことはまだ分かっていません」

「普通にお菓子だと思うわ。どこかに売ってるのよ」

「私もそう思いましたが、3大スイーツ店を調べてもそのような商品は発見できませんでした」

　３大スイーツ店ってなんだよ？

　お菓子マニアか？

「ムーンプリンセスか。明らかにルナのことだよな」

「謎が解けません」

「ケーキでも食べて少し落ち着こう」

　ルナはむくりと起きてケーキを1ホール完食した。

　ニコニコとおいしそうにケーキを食べる姿はやっぱりスイーツ姫だった。

　その日は何事も無く終わる。

【次の日】

「ウインも私のことをスイーツ姫だと思いますか？」

　いきなりぶっこん出来た！

　ベリーはその場から気配を消して居なくなった。

　ベリー早いな！

　エムルに鍛えられて危機管理能力が上がってないか？

「ん、考えた人は面白い人だなーと思うよ」

「ウイン。私の目を見てください」

「目の調子は大丈夫か？俺がヒールをかけよう」

　そういってルナの目を塞ごうとするが、ルナの手に阻まれた。

「私がスイーツ姫かどうか？『はい』か『いいえ』で答えてほしいです」

　明らかに魔眼を使っているな！

　怖いからな？言い方が怖い。

　俺は観念した。

「スイーツ姫は似合ってると思うけど、そこがルナの愛されポイントでもあるから気にしなくてもいいと思うぞ」

「ウインにまでそう思われているとなると、みんなにそう思われていますね」

　ルナは深刻な顔をしていた。

　そこにショックを受けるのか！

　ルナの恥じらいやショックを受けるポイントがまだつかめない。

　ルナが唸っていると大臣がやってきた。

「ルナ様、スイーツコンテストの審査員が1名急遽欠席となってしまいました。ぜひともルナ様に代わりをお願いしたいのです。今回のテーマはロールケーキ対決です。王女であるルナ様に参加いただければ主催者側の顔もたちます。皆さんを助けると思ってぜひ参加いただきたいのです」

「そうですか。そういう事なら仕方がありません。皆さんの顔をつぶさないために私が参加します」

「ルナ様！ありがとうございます」

　ルナは嬉しそうにスイーツコンテストに向かって行った。

　やっぱりスイーツ姫だな。

　ルナがスイーツコンテストから帰ると俺ともう一度3大スイーツ店に向かうことになった。

　１店目の店に入り、ルナの姿を確認すると、店員は急いでルナの前に立った。後ろでは何やらごそごそと隠ぺい作業の指示が行われていた。

　俺は真っすぐ裏の隠ぺい現場に向かう。

　スイーツ姫のタルトという札を見つけた。

　俺はその札を目にもとまらぬ速さで奪った。

「おーい！ルナ！これを見てくれ！」

　店員は俺とルナの間に強引に割り込んだ。

「ケ、ケーキなどいかがですか！？ルナ様にぜひご試食いただきたいのです。もちろん料金はいただきません。そうだ！せっかくなので無料でケーキをお渡しします。いつもルナ様にはお世話になっていますからね！ささ、お選びください。ルナ様の後ろ（・・）のケースの中にあるものからお選びください。遠慮はいりません。どうぞどうぞ！ルナ様の後ろ（・・）のケースを見ながらお話ししましょう」

　明らかにルナの視線を後ろにやろうと誘導してるし、やたらと饒舌になった。

　そんなにばれたくないのか。

　スイーツ姫のタルトの表記はすべて撤去されており、その動きは熟練の職人を思わせた。

　この無駄な作業何なんだ？

　連携取れすぎだろ？

　ルナがケーキを夢中で見ていると、店員が俺に、『い・わ・な・い・で・！』

　というジェスチャーをして必死で謝っていた。

　そこまでするか？

　店員が必死すぎる。　

　……今回は言わないでおこう。

　言うのも悪いような気がしてきたのだ。

　ルナは帰った後にタルトを1ホール完食していた。

　食べていたのはスイーツ姫のタルトだ。

　本人にばれないように店員は包む箱を普通の物に変えて、ルナにばれないように万全の偽装がされていた。

　無駄な隠ぺいに力を使いすぎだろ？

　ルナのことがかわいくて俺は後ろから頭を撫でた。

「な、なんですか？」

「ルナがみんなに愛されるのもわかると思ってな」

　ルナは、本当にかわいい。

　スイーツ姫か。

　ルナはどう見てもスイーツ姫だ。