【ウォール視点】ウォール

 俺はドラゴンに襲撃された時死にかけ、その時ウインに助けられた。

 ウインは5体のドラゴンをまるでうさぎやゴブリンを狩るように簡単に倒していた。

 ウインが化け物に見えた。

 ウインは何か特別な物を持っていて、俺はレアスキルを持たない選ばれない者。


 俺は普通の人間。

 ウインのようにはなれない。

 そう思った。




 俺はゴブリンのスタンビートの時も、俺は死にかけ、ウインに抱えられて気を失った。

 ウインを見て安心していた。

 特別な存在が助けに来てくれた。


 俺は普通の人間。

 特別なウインが助けに来た。

 助けに来てくれたんだ。

 だが、俺は間違っていた。




 兵士育成の会議にウインを呼び、ウインの話を聞いて驚愕した。

 ウインのジョブは斥候で、固有スキルはキャンプ。

 俺は戦士のジョブで剛力の固有スキルを持っていた。


 ウインの話を聞いて分かった。

 俺の方が恵まれていた。

 周りの人間にも、初期のジョブにも、固有スキルにも恵まれていたのだ。

 俺より恵まれなくてもウインはあそこまで強くなれたのか。




 俺は王に進言した。

 もっと力をつけたい。

 もっと強くなりたいと。


「うむ、言い分も案も納得できる。ルナの訓練が終わるまで100人隊長のライトに騎士団の指揮を任せてみよう。その後はウォールとメアの訓練をしようではないか」

 

 あっさり許可が下りた。

 俺は自分を縛っていただけだと気づいた。


 俺が動けば意見が通る。

 動けば変わっていく。

 型に縛られる必要は無い。


 それからウインの事を考える時間が増えた。

 ウインは自分で動いて道を切り開いた。

 俺は動き始めただけだ。

 ウインより環境も能力も恵まれ、それでもウインははるか遠くにいる気がした。


 自分が成長すればウインがさらに遠くに感じる。

 ウインは俺とは何かが違う。

 俺はおぼろげながら結論に達した。

 ウインは自頭の良さや先見性、見えているものが違うと思えた。


 ウインが得体のしれない大きなもの。

 天才とは違うかもしれないが、一番近い表現はそれだろう。

 俺とウインでは発想が違う。




 今日は死んだゼスじい、ばあさんの墓に花を供えに行った。

「俺は、頑張ったつもりでいた。でも、本当に本気でやってこれたのか?」

 涙が溢れる。



 

 俺はみんなを守れる偉大な人間になれる様にウォール王都の防壁と名付けられた。

 小さい頃は母に英雄の絵本を何度も読んでもらった。

「ウォールは英雄のお話が本当に好きね」

「ぼくねえ、おおきくなったらねえ、えいゆうになるよ」

「ふふ、そうね、大人になったらね」


 そんな両親は魔物に襲われて死んだ。


 その後、ゼスじいとばあさんの家に引き取られた。

 ばあさんは名前で呼ばれるのを嫌い、ゼスじいはよく酒を飲んで過ごしていた。


 ゼスじいはだらしなく、ばあさんは変わっている。

 そう思っていた。


 俺が毎日魔物狩りをして帰ると、ゼスじいが言った。

「その両手剣、貸してくれんか?」

「重いぞ。ゼスじいには無理だ」


「ほ、ほ、ほ、まあ貸してみい」

 俺はゼスじいがケガをしないように地面に剣を置いた。


 ゼスじいは「心配性だのう」と言って剣を軽々と持ち上げ剣を振った。

 ゼスじいの顔つきが変わり、戦士の顔になった。


 ブンブンと剣を振り、「わしも年を取ったのお」と言って剣を返した。

「ゼスじい、俺より強かったのか」


「ほ、ほ、ほ、14のガキよりは強いかもしれんのう。じゃが、今に追い越される。ワシは年を取って今も衰えとるが、ウォールはどんどん強くなっとる。酒とウォールの成長がワシの楽しみじゃ」


「俺は、才能が無い」

 俺はレアスキルを持っていない。

 俺は才能があるわけじゃない。


「ウォール、才能が無いと思ってはいかん。それを考えても何も良くならん。今お前は若い。がむしゃらに頑張ってみい。その先に見える者が分かれば人生が変わる」

 ゼスじいはいつもの酔っ払いではなく、鋭い眼光で真剣なまなざしを俺に向けた。

 その時は良く分からなかったが、今はその意味が分かってきた。


 俺はゼスじいの言葉を聞いて頑張るようになったつもりでいた。


 俺は前よりは頑張るようになり、けがを負う事が多くなった。

「ウォール、最近ケガが多いわよ」

 そう言ってばあさんはケガを何度も治してくれた。


 本当に何度も何度も何度も治してくれた。

 俺は恵まれていた。


 周りにはレアジョブを持つ者も居たが、俺はいつの間にかそいつらより強くなっていた。

 周りに比べて強くなっていた。


 俺はレアジョブを持っていない。

 でも、恵まれていた。


 初期ジョブが戦士である事。

 剛力の固有スキルを持っていた事。

 父と母に育ててもらったこと。

 ゼスじいとばあさんに育ててもらったこと。

 そして、命を犠牲にして守ってもらったこと。


 俺は恵まれていた。

 ウインに会って思った。

 本気で強くなろう。


 ウインに会って思った。

 俺は本気じゃない。

 まだ本気ではなかった。

 やれることすべてをやってこなかった。


 俺はウォール。

 皆を守る壁になる男だ。

 

 俺は墓に祈りを捧げた。

「父さん、母さん、ゼスじい、ばあさん、今度は俺が、お、俺があ、皆を守るから、おれが、う、ぐうう」


 その後ウォールは更に頭角を現す。

 だがそれはまだ先の話だ。













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