【アーサー王視点】スタンピード①
【アーサー王国王城】
ゴブリンスタンピードの情報はすぐさま王に伝えられた。
「ゴブリンスタンピードが確認されました!数は約10万!ゴブリンキングの姿も確認されました!」
「なんだと!魔物の位置はどこだ?」
「国の南東部です。南の町に向かっています!それと他にも報告が」
「なんだ?申せ!」
「南西の検問所でスタンビードに先行する形でデイブックの勇者ブレイブの姿が目撃されています!ブレイブは検問所を突破し、南の町へと走り去ったようです!」
王は頭を抱えた。
「またデイブック、この国を亡ぼす気か」
奴らのやり方は昔から変わらん。
魔道具を高値で売りつけ、厄介な魔物をこちらに押し付ける。
今まではこちらを生かさず殺さずに徹してきた。
だが今回のスタンピードはデイブックでもまともに戦えば多大な被害が出ただろう。
成長したゴブリンはそれだけ厄介なのだ。
今人の力が衰え、魔物の力が増している。
昔のように未開地の討伐をする余力は今の我らには無い。
防戦に回るしかない状況なのだ。
「南の町の住民は避難可能ですか?」
ルナは冷静に状況を分析した。
「可能です」
「お父様。住民を王都まで避難させましょう。そうしなければ南の街は全滅です。時間を稼いで、戦いの態勢を整えてから応戦しましょう。それと、ディアブロ王国とウイン様に協力をお願いしましょう」
アーサー王国の中で一番防御力の高い都市が王都だ。南の街は、防壁の高さと強度に問題があり、常駐させている戦力だけで防衛は出来ないのだ。
「そうだな。ウォール隊長はいるか!」
「今魔物討伐で遠征中です!」
「すぐ呼び戻せ!それと今いる騎士と兵士、冒険者ををすべて集めよ!時間が無い!火急の王命だ!」
「「は!」」
「それと、ディアブロ王国と、ウインにも協力を要請しろ」
「それが」
「どうした、遠慮はいらん。答えよ!」
「ウイン一行ですが、今は道なき奥地で魔物を討伐しております」
「ぐう!すぐに、すぐに呼び戻せ!出来るだけ早くだ!騎士を投入しろ!確実に連絡を取れ!」
「は!」
ウイン殿が居ない!
ぐう、唯一ゴブリンキングと渡り合えるかもしれぬ最強が不在。
頼む!間に合ってくれ!
アーサー王は両手を強く握って祈った。
◇
スタンピードは、一番防壁の能力が高い王都で迎え撃つこととなった。
全ての兵士・騎士・冒険者、そして魔王軍が王都へと集結したが、ウイン一行の到着が間に合わぬまま絶望の開戦を迎えた。
アーサー王国全軍18000
ゴブリン全軍 92000
兵力差5倍強!
ゴブリンの進軍が始まった。
後方に1000の精鋭を残し、残り全軍での進軍だった。
後方のゴブリンキングを含む精鋭は不気味に王都を見つめる。
メアとウォールは防壁の上からゴブリンキングの様子を観察していた。
アーサー王の横で構わず会話を始める。
2人とて恐怖があるのだろう。
恐怖が大きいと会話を始めるものなのだ。
「怖いですねー。後ろのゴブリンキング。こちら側の隙が出来たら一気に突撃してきますよー」
「そうだな。だが今は、やれることをやるしかない」
「守り切れますかね?」
「守り切るしかない。と言いたいところだが、正直厳しい。頑張っても時間稼ぎくらいにしかならんだろう。相手は今日中に城を落とすつもりだろうが、一日は持たせたい」
「ゴブリンたちは精鋭1000を残して全軍で詰め寄って来てますもんね。一日でここを落とす気ですよ」
「一気に王城の南側城壁に攻めよって来る気か!はしごまで用意している。城門の破壊と、はしごによる城壁の制圧を同時にやってくるつもりか」
「厄介ですね。向こうが消耗戦を仕掛けてきてくれれば、まだウイン君を待って時間を潰せば良かったんですが、ゴブリンたちが全力でつぶしに来たせいで、こちらが打てる手をほとんど潰されました」
「後2年、いや、後1年遅く来てくれれば、兵の量・質・装備すべて強化することが出来た。それ以前に南東部の住民をもっと北西に移民させることで、デイブックからゴブリンを押し付けられることもなかったかもしれんな」
「全くですよ!こうなったら、ゴブリンがまとまった所で、魔法をお見舞いしてやります!」
ゴブリン部隊の突撃が始まった。
王が合図を出す。
「矢を放て!」
防壁の上から兵士が一斉に矢を放つ。
矢がゴブリンに突き刺さるが、向こうは数に物を言わせて突撃し、ゴブリンも矢を打って来る。
矢の撃ち合いでは防壁の上から矢を打てるこちらの方が優勢ではあったが、ゴブリンたちの勢いは止まらず、突撃を続けた。
「そろそろ魔法の射程に入ったか、私が出鼻を挫く!」
魔王ガルゴンは両手を前にかざした。
「
魔王の両手から2つの黒い球体が発生し、防壁の外に居るゴブリンへと放たれた。
「2重詠唱か!しかもあれは!二大最強魔法の一角!ブラックホール!」
驚愕を隠し切れない。
二重詠唱と特級魔法の合わせ技!
しかも特級魔法特有の長い詠唱をスキルでの使用!
高等スキルのオンパレードだ。
ウイン殿が居なければ協力を得られなかった。
2つの黒球が、ゴブリン達を吸い込み、一発だけで数千のゴブリンが倒された。
ブラックホールによって地面ごとえぐり取られる。
「まだだ!MP0!」
魔王ガルゴンの固有スキルで、次に使う魔法の魔力消費を無しにするスキルだ。使うのは当然。
「3発目のブラックホールか!」
アーサー王はまた驚愕した。
3発のブラックホールで、万を超えるゴブリンを倒したのだ。
これが魔王ガルゴン殿の力か。
そのおかげでゴブリンの動きが一瞬止まる。
魔王がガクッと膝を折り、魔力ポーションを飲む。
「はあ!はあ!な、何をしている、ゴブリンの動きが止まった。魔法の追撃を開始しろ」
「む、そうであった!魔法攻撃!撃て!」
「私も行きますよ!……サイクロン!」
メアは上級魔法の中で最も攻撃範囲の広いサイクロンを連発する。
「我らもメア殿に続け!」
それぞれが自身にの得意な攻撃魔法を撃つ。
弓兵はひたすら矢を打つ。
一時魔王と遠距離攻撃部隊の猛攻で、ゴブリンの足並みが乱れた。
ゴブリンキングが前に出る。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ゴブリンキングの雄たけびにより、ゴブリンは操られたように攻撃を再開し始めた。
まるで狂戦士のようにゴブリンは突撃を繰り返す。
その様子を見て兵士に恐怖の色がにじんだ。
一回の雄たけびでゴブリンは体勢を立て直した。
それだけではない。
味方の兵士の士気すら下げた。
あの恐怖を感じさせる雄たけびと狂ったように攻撃を再開するゴブリンを見て恐怖を感じるのは当然だ。
だが、攻撃を続けるしか手はない。
今ガルゴン殿は最強魔法を使えず、メアも倒れた。
魔法攻撃が止むのは時間の問題。
「ウイン殿はまだ来ないか?」
「まだです」
「……そうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます