【ウォール視点】希望

 俺はありえない速度でここにたどり着いた2人を見て恐怖を感じた。

 魔族の方も強いのは分かるが、問題は男の方だ。


 歩き方、魔力の量、一瞬で見抜いた。

 こいつは普通じゃない。


 俺は身構えるが手が震える。

 だがその男は俺に話しかけてきた。


「俺の名前はウインだ。ここにいるドラゴンは俺が全部倒してもいいのか?」

「か、構わん。むしろ助かる。倒せるのか?」

「多分大丈夫だろ?小さいし」


 まるでもっと大きなドラゴンを倒してきたような言い方だ。

 いや、実際倒して来たのかもしれん。



 ウインはドラゴンに目をやると、ショートソードを腰から引き抜き、ドラゴンの首に斬りつける。


 時間差でドラゴンの首がドスンと落ちた。


 驚きしかない。

 俺にはウインの剣の振りを認識できなかった。 

 ドラゴンに近づく時の速さ!

 あっけなく落ちるドラゴンの首!


「化け物か!」


 他の騎士もざわつく。

「救世主だ!」

「神は我々を見捨てていなかったんだ!」


「こっちを向け!」

 ウインの言葉でスキルの発動を感じた。

 挑発と威圧だ。

 聖騎士か剣聖のレアスキルか?


 4体のドラゴンがウインを見た。

「皆ここから離れろ!巻き添えを食うぞ!」


 騎士達が必死で倒れている者を運んでドラゴンから離れていく。


 ウォールの所に、ルナ王女に匹敵するほどの美少女の魔族が近づいてきた。

 なぜか体調が悪そうに見えた。


「君が隊長かな?もう大丈夫だよ。なんせ英雄が援軍に来たんだ」

「君たちは一体何者なんだ?」

「僕はディアブロ王国の魔王の娘、エムルだよ。彼の名前はウイン、ディアブロ王国とアーサー王国を救うため、使者としてアーサー王国に来た英雄さ」


「ウインは人間なのか?」

「人間だよ、ただ、数年間魔の森で修行して生き延びた人間だよ」

 奥に入ったら生きて戻れないと言われている魔の森で数年間生き延びたのか!

 信じられん。


 ウインが首を切り落としたのは分かるが、あまりにも現実離れしすぎている。

 感覚が追い付かない。

 大体あの短いショートソードで可能なのか?

 理解できない。



 今は彼の戦いを見守ろう。

 ウインは作業をするように2体目、3体目のドラゴンの首を確実に落としていった。

 あっけない。

 今までの苦戦が嘘のように感じられた。


 まるでゴブリンを倒すかのように1撃でドラゴンの首が落ちていく。

 いや、ウインにとってドラゴンはうさぎ狩りのようなものかもしれない。

 正確には動きは見えないので斬ったのだろうという予想になる。


 4体目のドラゴンの首を落とした所で残り1体のドラゴンが飛び上がった。


「ハイウインド!」

 ウインは風の中級魔法を使い、ドラゴンの羽を切り裂いた。


 なんだと!攻撃魔法を使ったのか!

 それではウインのジョブはなんだ?

 いや、魔法剣士系のレアジョブも存在する。


 恐らくそれか。

 だが風魔法の威力が高すぎる。

 風魔法は攻撃力が低い欠点があるはずだ。


 ウインは落ちてくるドラゴンに剣を突き立てあっけなく倒した。


 本当にあっけない。今まで俺たち精鋭1000人が束になってやっと1体をギリギリで倒したが、ウインはうさぎでも狩るように5体のドラゴンを倒したのだ。ウイン一人で少なくとも万の兵力と同等の力を持っている。ウォールは身震いした。


「英雄だよ。みんなに英雄の存在が広まり始めるんだ」

 エムルが震えて顔を紅葉させる。

 圧倒的だった。


 圧倒的なドラゴンをさらに圧倒的なウインが倒したのだ。

 周りからは歓声が聞こえた。

 兵士の中には、涙を流している者もいた。


「エムルと言ったか、ウインは別の大陸から来たのか?」


「違うよ、デイブック民主国が故郷だよ」

 ウインがウォールの所に歩いてきた。


「ドラゴン討伐の援軍は終わった」

 メアがウインに飛んで抱き着き、泣きながらお礼を言った。

「助かりました。死ぬかと思いましたよ。ありがとう!」

 メアの胸がウインの顔をうずめるほど力強く抱きしめていた。


「ごほん、俺は騎士団の隊長ウォールだ、ドラゴン討伐の援軍、心より感謝する。随分余裕で倒していたようだな」


「うーん。ドラゴンの中では小さい方だった」

 これがウインとの最初の出会いだった。

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