4話 新生活


入学式の翌日、俺は必修授業を受ける為、大学に足を運んだ。

俺の通う大学は誰もが一度は聞いたことのある名の大学でキャンパスも広く設備も充実していた。

校門をくぐると石畳の道があり、両端には立派な槻が街路樹としてそびえている。

この槻はこのキャンパス設立時からのもので生徒からも愛されているらしく毎年の学祭の名前にもなっている。

そんな通りを歩き教室へと向かった。

経営総論、経営学 、会計学、公共経営学、近代経済学A、近代経済学Bが今年受けるべき必修授業で今日は午前の授業が必修だった。

初めての講義ということもあり少し緊張したが、身構えるほどでもなかったので安心した。

授業が簡単というわけではないのだが、教授の話が長く、思ったよりも終わるのが早く感じただけだと思う。

今日の必修授業をこなし、取っていた科目も午後最初の一コマだけだったので入学式に貰ったチラシを頼りに、あるサークルの活動場所へと向かった。

チラシによると平日二回休日一回の計三回の活動で俺は今日このサークルにお邪魔することになった。


「すいません。サークル見学に来たんですけどー…テニスサークルって此処で合ってますか?」

テニスは俺が中学高校とやっていたスポーツだった。

「あー合ってるよー」

少しだるそうな声で如何にもチャラい人代表のような人が出てきた。

「えーっとサークル入るの?」

「そう思っています。どのくらいの活動頻度ですか?」

「週によってまちまちだけど、最低でも週一回はあるよ」

「分かりました」

「入るならこの書類に名前書いて置いて」

「はい」

「霧島神仁いい名前だね。俺は一宮智哉って言うんだ。こんななりだけど一応三年な」

「よろしくお願いします」

「今日の活動を見学してもいいですか?」

「今日の練習はないよ」

「そうですか。分かりました。活動日を把握したいので連絡先を聞いてもいいですか?」

「いいよ。はいこれ、limeのQRコード」

「ありがとうございます」

「じゃあ後でサークルのグループ招待しておくから入っておいて」

「わかりました。ありがとうございます」

「今日は特に活動ないから帰っていいよ」

「はい。じゃあまた」

「はいよー」

サークル活動もなくやることもさほどないので、俺は家に帰ることにした

この大学はテニスの活動結果はあまり芳しくないが、limeグループの人数的に人は多いようだった。

時刻は午後6時頃、まだ玲は帰っていないようで家はシンとしていた。

特にやることもなくソファーに寝そべる。


思い出さないようにしても昨日のことはやはり、脳裏に焼き付いて離れてくれそうにない。

気を紛らわすのと小腹を満たすために冷蔵庫を開けた。

冷蔵庫の中には残りのご飯と使ってくださいと言わんばかりの1つの生卵があった。

俺はすかさず冷えた茶碗をレンジに投入した。

茶碗が熱くて持てないほど加熱した白米の上にまだ日が新しいのか、黄身の立った卵を箸で作った窪みに落とし、少ししょっぱいかなと思うほどの醤油をたらしそれらを茶碗の冷めぬままかき混ぜ俺の中に流し込んだ。

食欲が三大欲求だと言われる所以だろう、小腹を満たした神仁は茶碗を片付けると満足そうにスマホでおもしろ動画を見始めた。

その数十分後、玲は帰宅した。


『たっだいまー』

「おう、お帰り」

『ご飯もう食べたの?』

「小腹満たしにたまごかけご飯食べたけどまだ食えるよ」

『高校の時みたいに運動してないんだからすぐ太るぞー』

「おふくろみたいに言うなよ」


『???もう名前呼びは終わったの?うーちゃんって』

「っばか!やめろよ恥ずかしい、人前で呼ぶときはおふくろって呼んでたからそう呼ぶようにしただけだよ」

『ふぅーん、じゃあうーちゃんにlimeで(どうしよう!しーくんが大人の階段上がっちゃったよ!!!)って送っとくね』

「人聞きの悪い、悪意のある書き方はやめなさい」


俺の家庭では、おふくろがお母さんと呼ばれるより、あだ名で呼ばれたかったらしく物心ついた時からうーちゃんと呼ばされていた。

母の本名が羽衣だったからだろう。

『…ちぇっ』

「チェっ、じゃねえよ、ったく…それより買い出しありがとな」

『私にかかれば楽勝よ。この完璧美人に任せなさいっ!』

「完璧美人は言いすぎだろ、それよりもこれからのごみ捨てと食事代、それに買い出しのルールを決めようぜ」

『りょー』

それから二人は、ごみは週交代制、ご飯も予定がある場合は前日までに共有し当日予定が入った場合は各自で食事をとることなど共同生活をするうえで必要な仕事を決めた。


「不公平だ…」

『じゃんけんだもん、仕方ないね』

結局、あまり玲に勝つことが出来ずに八割ほど俺が受け持つことになってしまった。

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