第55話 河瀬家集合

 先を行く姉貴の後ろで物凄く甘い雰囲気で一緒に歩く俺達だが、ただ隣で歩いているだけというカップルなのに可笑しい状態だった。

 しばらくその状態で河瀬家に向かっていると、麻那ちゃんの元気一杯な声が聞こえてきた。


「遥菜姉さん!お久し振りですぅ!」


「おー麻那ちゃんだったか!すっごい似てるかられいちゃんかと思っちゃった!」


「そ、そうですか……?えへへー」


 ここだけ聞けば仲睦まじい姉妹に見えるんだが、お互い別の家の住人である。

 麻那ちゃんは昔の玲香が着ていたちょっと大人っぽく背伸びした服装なのだが、ある一部分だけが少しだけ浮いていた。


 まあ玲香と姉貴が可笑しいだけなんだけれども……と、不意に耳を引っ張られる。


「いでで……っ!何すんだよ!」


「むう……いくら妹相手だからって……変な目で、見るな」


「変な目って……?」


 引っ張られた耳を擦りながら聞き返すと、何度目かの顔が真っ赤に染まり出してあからさまに顔を逸らす玲香。

 今度は背中を勢いよく叩かれる。


「いっで!!何すんだよ!」


「は、はーくんなんか知らない……!」


「もう相変わらず、誰かさんに似て玲香は素直じゃないわね……ふふっ」


 からかいながらこちらへ歩み寄ってくる一人の女性、河瀬彩奈かわせあいなさん。

 父さんとの旧知の親友らしく、本人曰く父さんの元幼馴染。

 元幼馴染とはいえ、互いに親友として親交していたので俺達みたいなことにはならなかった。父さんは好きだったらしいが。


 だけど、俺を見ると今でも父さんの事を思い出すらしい。


「お久し振り、颯斗くん……で良かったかしら?」


「……お、お久し振りです。彩奈さん」


 だけど俺はこの人が苦手だ。

 何を考えてるか全く分からないからこうして距離を縮めてくる。


「ちょっとお母さん!はーくんから離れて!」


「あら?さっきまで知らないって言ってたのは何処の子かしらね?」


「ぐぬぬ……!」


「そこまでにしろ彩奈、それと久し振りだね颯斗くん」


 俺達の前に現れたのは河瀬家の主、河瀬健吾かわせけんごさん。

 葬式の際にまだ幼い俺達の代わりに色々と動いてくれた恩人でもあり、もう一人の親みたいな存在。


「あいつの葬式以来、かな。すっかり大きくなって」


 父さんみたいに俺の頭を無造作に撫でる。


「遥菜ちゃんも……二人ともあれから元気だったかい?」


 葬式が終わってから俺達は施設に預けられ、姉貴が高校生になるまで逢うことさえ叶わなかった。

 だから心配してくれたことが何より嬉しかった。


「ええ、おじ様。色々大変でしたけれど……仲良くやってますわ」


「そうかい。じゃあ今回の旅行は是非とも楽しんで欲しい」


「はい!」


「……お父さん、いつまで撫でてるの」


「あぁ、すまない玲香。彼を盗ってしまって」


 また玲香の顔が真っ赤に染まる。


「もうっ!お父さんまで!!」


 その後皆楽しそうに笑っていたけど、どうしてか俺だけ上手く笑えなかった。寂しいという気持ちの方が強かった。


 俺はこういうというものを知らないから。


「……っ」


 すると不意に手を握られた。

 握ってきた相手は当然玲香、気付けば他の皆は四人で仲良く談話していた。


「私はいつでもはーくんの味方だから、今日は楽しもうよ?ね?」


 いつも見ている玲香の笑顔は、この時だけは全く別のもの見えた俺。それでも俺の心は綺麗に晴れなかった。

 そう、今にでも雨が降り出しそうな曇天のように。

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