第120話 魔法大戦
「「「【ファイアブラスト】」」」
騎士たちから一直線にスライムの大波に向けて放たれた楕円形の球体。
(あれは……上級魔法?)
それは火の榴弾。
着弾と同時に巻き起こるのは轟音と破砕。
榴弾に内包された火が周囲に爆散する。
「うお、派手な花火だな」
「すご〜」
「上級拡散火魔法。楕円形の火の榴弾を作り出し射出する着弾時に拡散し、中範囲に影響を与える魔法さ。隠密行動時には着弾の爆音がネックになるが、大量の敵相手なら中心に撃ち込むことで大きな損害を与えることもできる。見てご覧」
ケイゼ先生に促され、火魔法とスライムたちの衝突した現場を注意深く観察する。
「うむ、前面に押し寄せていたスライムの大半が消し飛んだな。しかし……ファイアスライムは火に耐性を有しているから彼らだけは生き残っている」
「ですが、勢いは大分削がれたようです」
ラウルイリナとイクスムさんが感心した様子で現場を見入っていた。
息を合わせた魔法の一斉掃射の威力を見せつけられていた。
「そして、延焼を引き起こす火魔法を選択したお陰でスライムの下敷きになっていた草原に燃え移り、火炎となって逆巻いている。あれだけでも相当な数のスライムにダメージを負わせることができただろうね」
一度に放たれたことで広範囲に巻き起こった火炎がスライムたちを焼いていく。
いまの攻撃で大分押し寄せていたスライムたちも減ったと思ったが……それでもその穴を埋めるように次から次へと迫るスライムの大波。
しかし、クランベリーさんもそれは想定内だったようだ。
即座に次の手を打つ。
「次! 大群を押し戻しなさい! 風魔法用意――――放てっ!!!」
「「「【ウィンドシリンダー】」」」
騎士たちが隊列を組み直し撃ち放ったのは中級形成風魔法。
サラウさんもグレゴールさんも他の属性で使用していたこの形成魔法は、ぶつかった相手を押しだす特性をもつ。
風の円柱がスライムたちに命中した途端、この魔法を構成していた風がスライムたちを押し返すように一方向に吹きすさむ。
「おお、スゴイ! 押し返した!」
すぐ近くで響くアイカのはしゃぐ声。
喜ぶのはわかるがあまり引っつかないで欲しい。
後方からのエクレアの視線が突き刺さるようで痛い。
その間も再び騎士がクランベリーさんの合図で位置を変える。
「壁!」
「「「【アースランパート】」」」
それは見るも壮観な土の城壁の連なり。
(凄いな……複数人で障壁魔法を使うとこうなるのか)
(土の城壁同士を隣接して展開しているお陰か、まるで都市を守る外壁のような光景だな。一つの長大な壁。あれなら――――)
数と勢いの失われつつあるスライムたちを完全に止めるための城壁。
現にスライムの大波は城壁にぶつかった途端その場に押し留められた。
「バン! あんたの出番よ!」
「団長……副団長が不在とはいえ私のようなもので本当によろしいので? もっと他に適任がいると考えますが」
「このっ……あんたは一芸特化なんだからこんな時しか出番ないでしょ! 無駄口叩いてないでとっととしなさい!!」
「はぁ……団長自らそうおっしゃられるなら仕方ありませんね。ですが多少お時間はいただきたいですね。あの魔法は時間がかかるので」
「それがわかってるなら早く魔法の準備しなさいよ! まったく……あんたって奴はいつもいつも……」
うんざりした表情のクランベリーさんの隣に立つのは背の高い男性。
クランベリーさんと並んで立つと対比でより大きく見える。
(クランベリーは随分あのバンとかいう男に怒っているな。厭味ったらしい顔をしてるから仕方ないだろうが)
厭味ったらしい、か?
まあ、バンと呼ばれた男性はあの傍若無人なクランベリーさんが怒っていても含み笑いを浮かべたままだからな。
ちょっと胡散臭い感じはするけど……。
「各員城壁を避けて攻撃しなさい! 初級魔法でいい! 手数で圧倒するのよ!!」
「了解! 【ファイアボール・ ダイブ5】!」
「【ウィンドアロー・ダイブ6】」
「【ストーンアロー・バーティカル5】!!」
城壁を避けた上空からの魔法攻撃が雨あられのようにスライムたちに降り注ぐ。
魔法因子によって軌道変更された魔法は確実にスライムたちの数を減らしていた。
「ねぇねぇ、ケイゼさん、あの銀髪ツインテールのカワイイ団長さんは魔法を使わないの?」
「クランベリー団長か……彼女の魔法はあまり人前では、ね。ここに民衆はいないが恐らく彼女はこの場では魔法を使うことはないだろう」
「?? そうなの? う〜ん、もっとピンチじゃないと使わないってことか〜〜」
アイカが興味本位からかケイゼ先生にクランベリーさんの魔法について尋ねる。
クランベリーさんの魔法か。
人前では使わない。
レシルさんも彼女のことを話すとき悲しそうな表情をしていたけど、なにか関係あるんだろうか。
……気になるけど、いまは戦況の方が大事だ。
第二騎士団の戦う最前線に目線を向ける。
絶えず土の城壁上空から降り注いでいた魔法が途絶える。
それは準備が整った証拠だった。
「……全員、城壁から離れなさい! バンが最上級魔法を放つわよ!!」
(は? 最上級?)
「………………【ガストディザスター】」
バンさんの両手の中心で押し留められていた薄緑の球体が、土の城壁の上を通り勢いよくスライムの大群、その中心上空へ向けて射出される。
スライムの数は多い。
薄緑の球体は到底中心部までは到達しなかった。
だが、そんなことは最早関係ない。
その威力を鑑みれば……。
場所なんて意味をなさなかった。
「くっ……」
「わっ、なに!?」
「……んっ」
突風が戦場全体を包む。
(ここまで何百m離れてると思ってるんだ!? クライ、大丈夫か?)
(これは……あの魔法の余波、なのか?)
「最上級魔法まで使えるとは、流石王国の誇る騎士団の中でも魔法戦に長けた騎士の集まる第二騎士団」
ケイゼ先生は興味津々で魔法の結果を眺めているが、こうして肌で威力を感じとっているとそんなに笑っていられない。
「あの魔法は一体……スライムたちが切り刻まれてる?」
「スライムだけじゃない。あれは味方の《アースランパート》まで切り裂いちまってるぞ……」
ラウルイリナとニールも驚きを隠せないでいる。
結果は衝撃的だった。
広大な範囲。
そこに存在したものは渦巻く風によって尽く切り刻まれている。
「あれは風属性派生、烈風魔法。薄く鋭い斬撃の風を作り出し攻撃する魔法。本来は斬撃魔法や武器魔法と相性のいい魔法なんだが、旋渦魔法で放つとは……珍しい使い方だな」
同じ風属性派生でもウルフリックの使う乱気流魔法とは違い、削りとるのではなく切り刻む魔法。
それが広範囲の渦となりスライムたちの上空で広がった。
いまなお切り刻み続ける竜巻。
以前ミノタウロスとの戦いで見たものやカザーさんの使用していた中級旋渦魔法、《トルネード》とは似ているが範囲がまったく異なる。
あんな広範囲の魔法、巻き込まれれば抜けだすのは難しい。
……恐ろしい魔法だ。
「ぐっ……」
「……良くやったわ。少し休んでいなさい」
額に脂汗を浮かべ片膝をついたバンさんは、クランベリーさんの労いの言葉に苦しそうに一礼すると後方へと下がる。
あれほどの魔法だ。
消耗も激しいのかもしれない。
「さあて! そろそろ私たちの出番だな!!」
戦場に響くイーリアスさんの雄叫びのような大声。
その声はようやく戦えることへの歓喜があった。
「野郎共! 喜べ! クランベリーたちが私たちの道を切り開いてくれた! ……突撃だ。あのスライムの大群を蹂躪する! 野郎共、準備はできてるな!!」
「おおーーーーーー!!!」
それは天地を揺るがす戦意の猛り。
第三騎士団が――――動く。
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