第70話 神の研究者


「ではいきます……【リーディング】」




名前 ケイゼ・マクシミリア

年齢 24

種族 魔人 level52

クラス 呪導士 level3

HP:1250/1250

EP:530/530

STR:21

VIT:23

INT:69

MND:57

DEX:39

AGI:24


スキル

体術level5 槍術level7 火属性魔法level51 呪属性魔法level43 魔法操作level39 魔力操作level41 魔力強化level4 魔力支配level39 魔力察知level31 魔力遮断level34 瞑想level28 気配遮断level25 気配察知level15 解体術level6



天成器 エルドラド

基本形態 球体

階梯 第四階梯

EP︰1492/1500

エクストラスキル

格納 魔力増幅 限定浮遊 念話 変形:穿孔捻槍 隆渓楽土




 レベル52!?

 ケイゼ先生の手に触れながら行った解析は信じ難い結果を暴きだした。

 いや、そんなことよりも……。


「その……身体は大丈夫ですか? 頭が痛くなったり、体調が悪くなったりしていませんか?」


「フフッ、そんなに心配そうな顔をしないでくれ。……これといって体調の変化はないな。私としては『善悪鑑定』のように多少の不快感があるものと覚悟していたんだが……」


 不思議そうに自分の手を見ながら首をかしげるケイゼ先生。

 どうやらスキルをかけられた違和感もまったくなく、解析された実感が沸かなかったようだ。


「それより、私の詳細なステータスは判ったんだろう。紙に書き出してくれないか?」


 用意してあった紙にスラスラと解析した結果を書きだしていく。

 それにしても、ケイゼ先生がこれほどの強さをもっていたなんて……。


「君たちもこの結果を見て感想を聞かせてくれ。一人でも多くの意見を聞きたい」


 ケイゼ先生が向けた視線の先にはエクレアとイクスムさんがいる。

 彼女たちは俺がケイゼ先生に事前に許可をもらい、この場に同席していた。


 エクレアと向き合うと決めた以上、隠し事はしたくない。

 ケイゼ先生との《リーディング》の能力の検証を話し、初めてこのスキルを他人に使う今回の検証に同席してもらった。


「よろしいのですか? ステータスともなれば本人だけの秘中の秘。レベルやスキルがわかってしまえば、そこから技能や戦術、戦闘力が大まかにわかってしまいますが……」


 イクスムさんは戸惑いながらもケイゼ先生に尋ねる。

 

「構わないさ。君たちもクライ君の未知のスキルが気になるだろう。彼が家族に隠したくないというんだから君たちにも見る権利はある。それに、折角この場に居合わせてるんだからね」


「……」


「……わかりました」


 エクレアが頷き、イクスムさんが渋々ながらも同意する。

 それを見ながら解析した結果を書きだした紙を見て思う。


「……凄いスキルの数ですね」


「ん? ああ、そうかい? ……なんだが丸裸にされているような落ち着かない気分になるね」


 恥ずかしそうにそっぽを向くケイゼ先生。


「《リーディング》。クライ様から聞かされた時はどんなスキルかとも思いましたが、これはこれで恐ろしく、また有用なスキルですね」


「そうだね。このスキルで解析すれば、戦う相手のステータスを問答無用で、しかも本人の了承もなく覗き見ることが可能だ。さらにスキルの細かいレベルまで確認できる。戦い方まで丸わかりだ」


 そういってケイゼ先生は紙を指差す。


「火属性魔法のレベルは高く、槍術のレベルは低い。これを見れば私がいかに接近戦を疎かにして禄に鍛錬していないことが判ってしまう」


 他にも体術や魔力強化のレベルが低い。

 体術なら俺の方がレベルが高いくらいだ。

 確かに、ケイゼ先生が接近戦より遠距離戦を主に得意としているのがこの結果からわかってしまう。


「火属性魔法のレベルだけ突出しているな。それと呪属性魔法もかなり高い」


「火属性はそうだね。私は火魔法の他に炎魔法も使えるからその分レベルが高いんだろう」


 炎魔法とは火魔法の上位魔法といわれる強力な魔法だ。

 六大属性の魔法にはそれぞれ上位の魔法が存在し、その特性が変化する。

 

「呪属性魔法は適性があったようでね。それもあってクラスチェンジの選択肢には呪術士があった。魔法使いから呪術士、それから呪導士を選んで今に至っているわけだね」


 呪属性魔法。

 アレクシアさんの使っていた聖属性魔法、《セイント》と同じで魔法に特性を追加することができたはず。

 獣や人など生物に対して威力を引き上げる呪属性魔法と、アンデットなど不浄の存在に有効な聖属性魔法。

 使い手は少ないはずだけど、そんな魔法まで使えるとは……。


「このエルドラドのEPは高すぎないか? 私のEPとは比べ物にならないほど多いぞ!」


「お褒めいただきありがとうございます」


 ミストレアの抗議の声に、いつものようにケイゼ先生の周囲を浮遊して漂っていたエルドラドさんが恭しく礼をいう。

 1500、途方もない数字だ。

 ミストレアが150だから十倍の量があることになる。


 そんなに差があるものなのか?


 自分たちとのあまりの格差に俺とミストレアが言葉を失っていると、イクスムさんが励ますように声をかけてくれる。


「天成器は第四階梯でエクストラスキルを習得した時にEPが一気に増大します。エーリアスも第二階梯では200でしたが、第四階梯では600はあります。今から心配する必要はないでしょう。……それにしても1500は多すぎますけど」


「ははは、エルドラドは基本形態が球体という珍しい天成器だからね。最初からEPだけは有り余るほどあったのさ。それに基本形態では武器としては使えないんだからそれぐらいは許して欲しいね」


 他人のステータスを知るような機会はまずない。

 自分のステータスとの大き過ぎる違いに驚くばかりだ。


 そのあと、ケイゼ先生は記載されているスキルについて解説してくれた。

 以下はその内容を要約し自分自身でまとめたものだ。



・魔法操作 

魔法を操作、改良するスキル


・魔力操作 

魔力を体内で操作するスキル


・魔力強化 

魔力で物質を強化、切れ味や強度をあげるスキル


・魔力支配 

自らの魔力を支配し、体外の魔力支配域を操作するスキル


・魔力察知 

自身の周囲の魔力をもった物体、生物を察知するスキル


・魔力遮断

微量に身体から漏れでる魔力を遮断し探知から逃れるスキル



 ケイゼ先生はスキルについて話し終わると、どこか寂しそうにポツリと呟いた。


「正直ここにはもう来ないかと思っていたよ」

 

「……どうしてそう思ったんですか?」


「フッ、神の研究なんてする奴は大概が頭のおかしい奴扱いされるだけさ。神は実在する。その神の行う偉業に疑問を呈するものなんていない。そんな奴が身近にいれば避けようとしても不思議じゃない。君が以前と変わらず訪問してきた時は驚いたよ。しかも自分の家族も紹介したいという。フフッ、そんな奴いるか?」

 

 笑いながら問いかけるケイゼ先生の声は少しうわずっていた。

 目じりには僅かに涙が浮かび、それをさっと指で拭う。

 

「紹介してきた家族も変わり者だ。なにせ私の研究のことを話してもそれがどうした、という態度だ。最早笑うしかないね」


 言葉は軽くてもケイゼ先生がその時のことを嬉しく思ってくれているのはなんとなくわかった。


「失礼な人ですね」


「……」


 イクスムさんとエクレアがケイゼ先生に視線を向ける。

 だがそれは非難の眼差しでなく、優しく見守るかのような眼差しだった。


「なぜだろうね。帝国ではあれだけ非難され、否定された研究を君たちは関係ないという。どうして君は私の研究を否定しなかったんだい?」


 その質問は俺に向けられていた。

 ケイゼ先生の瞳は変わらず救いを求めている。


 俺の答えは……。

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