第249話 阻止

「……えっと…初めまして?こちらこそお会いできて光栄です、聖女様」


「身に余るお言葉ですわ。あぁそれと、今お話していた内容ですが、リティ様や殿下がもしお互いのために命を投げ出すようなことがあれば、その前に絶対イサベルさんにお話するということでよろしいのでは?」


聖女はその顔に笑顔を保ったまま、そう提案してくる。確かにそれならイサベルも納得してくれるかもしれない。


イサベルを見ると、「それなら、まぁ……いや、相談してももちろんダメなんですけど……」と複雑そうな顔をしていた。


「皆様は本当に仲がよろしいのですね。羨ましいです。ところでイサベルさん、お二人に話したいことがあると仰っていませんでしたか?」


「あっ!そうでした!」


イサベルは涙を拭うと、ぱぁっと表情を明るくさせる。その急な感情の変化に私は危うく彼女を女優か何かかと勘違いするところだった。


「リティ様!私のお力がリティ様のお役に立てる日がようやくやってきました!」


「えっ、いやいつも役に立ってくれてるけど……ってまぁそれはいいわ。えっと、どうしてそう思うの?」


「聖女様とお話していたのですが、どうやら私の光の魔法には邪気や悪いものを払う力があるようでして、リティ様と殿下の反発する魔力を完全に消して中和することができるかもしれないんです!」


イサベルの言葉に私は一瞬理解ができず、きょとんと首を傾げてしまう。


そしてすぐにアレクと私を決定的に分断するあの設定が存在することを思い出した。続いて私は目を見開き、イサベルを見つめる。彼女はにこにこと嬉しそうに微笑んでいる。


「イサベル、それ……ホント?本当なの?」


「はい。私の光の魔力には無限の可能性が秘められているって聖女様が教えてくれたんです!だからきっと、できます!今すぐにではなくてゆっくりになってしまうのですが、でも必ず私が……」


「ありがとうイサベル」


「えぇっ!」


イサベルをぎゅっと抱きしめてみると、彼女は驚いてあたふたと慌てる。その様子すら可愛くて私はくすっと笑ってしまう。


イサベルがここまで私達のことを想ってくれていたなんて……というか運命すらも変えられてしまうなんて、主人公ってやっぱり凄いのね。その力を惜しみなく使ってくれるのだから私は感謝しなければならないわ。


「アレク?聞いたでしょ?イサベルが私達の為に力を貸してくれるって」


イサベルを抱きしめながら、そう呟くとすぐに返事が返ってくる。


「あぁ聞いた。…本当にありがとう、イサベル」


「こうなったら私達、何が何でも一緒にいなくちゃね。もう私達だけの問題じゃないわ」


アレクに視線を移し、微笑みかけると、「これからも末永くよろしくね」と声をかける。彼は優しく微笑むと「あぁ。こちらこそよろしくな」と答えてくれる。


そっか、私。本当にここにいてもいいのね。この先もずっとここに……。


目頭が熱くなるのを感じて慌てて振り払いイサベルに視線を移すと、何故か彼女が一番嬉しそうな顔をしていた。


「リティ様と殿下は第五十一回ベストカップル賞第一位ですね……!」


「え、そんなのいつ開かれたの?というか開きすぎじゃない?伝統なの?」


まさかのイサベルの冗談に思わずツッコミを入れてしまうと彼女はふふっ、と楽しそうに顔を綻ばせていた。


…ちょっと待って、何かを忘れているような…。


「…あっ!そうだ、早くリティシアを止めにいかないと!ねぇイサベル、私が…いやアレクが私の世界に来てからどれくらい時間が経ってるの!?何時間も経ったりしてないわよね!」


「殿下がそちらの世界に行かれてから実は十分程度しか経っていないんです。私の作る光の扉の世界とこちらの世界とは時の流れが違うようですね。」


「そうなのね!?じゃぁ早く止めに行かないと!」


正直経過した時間は最早どうでもいい。あの悪女は一秒でも放置すると何をしでかすか分からないのだから。私は焦って立ち上がると、部屋を飛び出そうとする。


「もう行かれてしまうのですね。すみません、私は聖女としての仕事がまだ残っているため力をお貸しすることができないのですが…」


聖女は寂しそうにそう呟くと、最後にお告げをくれた。どうかそのネックレスは手放さないようにと。そして彼女は私達三人に手を向けると突然呪文を唱え始める。


驚く暇もなく私達は光りに包まれ、気がつくと神殿ではなく、見慣れた私の屋敷の前に立っていた。


「これは……!?」


「聖女様は神殿へ訪れた者なら誰でも一瞬で家へ帰すことができるんだ。さぁ行こう!」


え、ななによその便利魔法。これも彼女が聖女と言われる所以かしらね……。ってそんなことより急がなくっちゃ!


屋敷の扉を無造作に開き、私の部屋へと一直線に向かうと、怒鳴り声が聞こえてくる。それは私の声と全く同じものだったが、とても自分のものとは思えなかった。


「いつまで押さえつけてるつもりなのよ!あんた私の護衛騎士でしょ!!主人に反抗するんじゃないわよ!」


「何度も言いますが私の主人は貴女ではありません」


「この平民風情が……!」


「待たせたわね」


部屋には状況が飲み込めずに困惑するルナと、抵抗するリティシアを無理やり押さえつけるアーグレンの姿があった。一同は一斉に私の声に反応する。


「リティシア。貴女が用があるのはこの私…そうでしょ?」

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