第237話 異世界
【アレクシス】
時は数十分前に遡る。イサベルが作り出した扉を通って…いや落ちて、気がつくと俺はどこかの部屋にいた。
「ここは……?」
周囲を見渡すと、黒板らしきものと、白いチョークらしきものがあり…必須であるはずの机と椅子こそないが、ここがどこかは十分に分かった、
俺は立ち上がると、背後に自分が通ってきた扉と全く同じものがあることに気づく。
…この扉がいつまで維持されるのか、イサベルの魔力がどれだけ続くのかは分からない。即ち、一刻も早くリティを見つけ、ここへ連れてこなければならないということだ。
部屋についていた二つの扉の内の一つを開けると、見慣れぬ廊下と、同じような部屋が幾つもあった。制服を着た生徒が、こちらを不思議そうに見ている。
間違いない。ここは学校だ。
教室を出ると、今正に通った扉には「使用禁止」の張り紙が貼られていた。
なるほど、だからここが扉の先として指定されたのか。突然異世界の人が現れたらそれこそ混乱に陥ってしまうから。
……まぁ使用禁止の教室から出てくるのもあんまり変わらない気もするけどな。…ってそんなことより早く探そう。
「すみません、ちょっとお聞きしたいことが……」
「えっ」
人を探すには人に聞くのが一番手っ取り早いと思った俺は近くを歩いていた女子生徒に声をかける。
制服を着てないので不審者だと思われただろうか。追い出されたら困るな……などと考えていたがその視線がどうもそうは思えなくて、余計に困惑する。
話しかけた女子生徒の隣にいた女子に至っては最早輝かしい眼差しをこちらに向けていた。
ここは不審者だと思ってくれないと困るところなのでは?いや思わない方が都合がいいけど……。
輝かしい眼差しを向けてきた方の生徒がこちらに話しかけてくる。
「あの、すっごいかっこいいですね!!ここの学校の生徒さんじゃないですよね!?どうしたんですか!?」
「えーっと……ありがとうございます……?仰る通り、私はこの学校の生徒ではないのですが、怪しい者ではありませんので追い出さないでくれると嬉しいです」
「追い出しませんよ!イケメンはいつだって正義ですから!」
「……?そ、そうですか…。ところで、私は今人を探しているのですが……」
「イケメンに探されるなんてどんな美女なんだろう!いいな〜私も探されたいよ〜〜!」
こ、この子と話していて本当にリティが見つかるのだろうか!?なんかどんどん道のりが遠くなっているように感じるんだが……。
そう思った時、最初に話しかけた方の女の子が口を開いた。
「探している人のお名前を聞いてもいいですか?」
「あっ、そうそう。どんなお名前なんです?その美女さんは!」
人としか言ってないのになんで美女確定になってるんだろうな…間違ってないから否定しないけど。
「その人の名前は…リティ……」
ここまで言ってようやく気づいた。この世界のリティの名前はリティなのか?
彼女がたまたまリティシア=ブロンドの身体に入り込んだが故にそう呼ばれているだけで、本当の彼女の名前は違うはず。見た目も当然リティシアのものではない。
となると……探しようがなくないか……?
突然考え込んでしまった俺をよそに、二人の少女は互いに意見を交わしていた。
「リティ……さん?ねぇ、この学校に留学生っていたっけ?」
「留学生はおろかハーフすらいない。皆日本人の名前よ。」
「じゃぁ……イケメンさんは誰を探しているのかな?」
「この情報だけじゃ分からないわね……あの、その人の見た目とかって分かりますか?」
突然こっちに話が振られ、更にその質問が今正に悩んでいものだったからなんと言うべきか迷ってしまう。
「……いや、分かるけど、分からないというか……」
「えっ、もしかして名前しか分からない人を探してるってことですか?」
「困りましたね、それじゃどうやって探せば……」
リティについて色々と考えてみたが、この世界の彼女も全く同じなのかと言われたらどうも違うように思えてきて、これといった情報は浮かばなかった。三人で一緒に悩んでいると、近くにいた生徒の噂話が聞こえてくる。
「ねぇ、体育館裏に人がいたんだけど…喧嘩とかじゃないよね?」
「え、そうなの?あぁもしかして問題児で有名なあの子?流石に喧嘩とかはしないと思うけど……どうだろうね?」
「ちょ、ちょっとそれ詳しく!体育館裏に人がいるのね!?」
学校の情報に詳しい方の生徒が、噂話をする生徒の肩を掴み、そう語りかける。その剣幕に驚きながらも彼女はなんとか返事をする。
「え、えっと、三組の問題児と話題の生徒が体育館裏にいて、もしかして喧嘩になっちゃうのかなーと思って……」
「三組の問題児ね!?となればあの子しかいないわね、全くもう、早く行かなきゃ……」
喧嘩か……それは早く止めなきゃだな。それにしても随分と正義感の強い子なんだな、この子。リティも相当だったけど。
そんなことを考えているとその子は「すみません、人探しは後でもいいですか!?私、行かなきゃ!」と言いながら駆け出していた。この子は大人しそうに見えていたけど随分と行動派だった。人は見かけによらないなと思った。
「行きましょうイケメンさん!」
名乗らなかったのが悪いのだが、いつの間にか変なあだ名になってしまったなと思う俺なのであった。
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