第214話 何処へ

【アレクシス】


グレンの協力によって部屋の外へ出ることができ、お礼を言ってから駆け出そうとした俺であったが、「待て」とドアの向こう側から声がかかる。


彼は最初にそうしてあったように結界を張れと言ってきたが、結界の作り方など俺は知らなかった。そしてそれを作ることによって彼が逃げにくくなることを心配したが、全く聞く耳を持たなかった。


「早くやれ。公女様がお前を待ってる」


結局俺はグレンに言い負かされ、結界のような模様のついた魔力の膜を張り、それは簡単に中から打ち破れるような強度にしておいた。これでグレンがタイミングを見て脱出すれば大丈夫だろう。


親友が選んだ入れ替わるという選択に一度は頷いたが、彼の自由と引き換えにというのはとても心が痛んだ。万が一にもグレンが脱出に手こずっていたら困るので、リティを助けたらすぐに戻ってこよう。


「アーグレン団長?殿下の見張りはどうしたんですか?」


階段を駆け下りた俺に真っ先に話しかけてきたのは騎士であった。一瞬無視しかけたが入れ替わっていることを思い出し、俺は立ち止まる。


振り切ることは勿論できるがそんなことをしたら余計に怪しい。適当なことを言って誤魔化そう。


「…殿下が誰も近づかないでほしいと命令を出されたんだ。結界が張ってあるから、脱走の心配はない。そう思って部屋を離れたまでだ」


「なるほど…確かにそうですね。では皇后陛下にもそのようにお伝えしておきますね」


「あぁ…よろしく頼む。それじゃぁ私は城の外の様子でも見てくる。他の騎士や使用人が私を探したりしないように彼らにもそう伝えてくれ」


「はい!分かりました。」


騎士の表情から推測するにどうやら全く疑われていないらしかった。こう言っておけば他の騎士や使用人にも怪しまれずに城の外までいけそうだ。


すると騎士が突然周囲を見渡し始める。そして彼は俺の耳元で周りに聞こえぬよう小声で囁いた。


「あの……アーグレン団長。殿下は大丈夫ですかね。実の母親に閉じ込められるなんて…いくらなんでも…。そもそも殿下は皇后に叱られるようなことをする方じゃないのに…」


雇用されている立場上、皇后の命令だから仕方ないと受け入れているものだと思っていたが、流石に騎士達も疑問を抱いているようであった。この様子だと恐らく大した理由は聞かされていないのだろう。


いくら母さんといえど、息子の婚約者を牢屋へ閉じ込めるために息子を部屋に監禁しようとしたなんて説明はできないだろうから仕方ないが。


それでも良かった。完全に皇后側ではない人間がいるだけで十分有り難い。流石の母さんも騎士の心までは操れなかったようだな。


「大丈夫。殿下のことは、私がなんとかしてみせる。皇后が間違っているのであれば、それはいずれ必ず明かされる。悪が勝つということは絶対にない。心配するな」


「…!そ、そうですよね。殿下と、団長を信じて見張りを続けようと思います。有難うございました!」


騎士の不安そうな顔が明るくなったのを見て、俺は再び城の外へ向けて走り出した。随分時間を使ってしまった。急ごう。


騎士達の不信感を募らせてまでリティを牢屋へ閉じ込めて一体何をする気なのかは分からないが……今彼女を助けることができればきっと母さんの計画は丸潰れだ。


何かが起きる前に、早く外へ出よう。俺が外へ出るのを阻止したということは…リティはこの城の地下牢獄に入れられた訳ではなさそうだ。


となれば…恐らく…昔聞いたことがある、母さんに対して悪事を働いた人間を放り込む牢獄…そこだ。そこにリティはいる。


頼むから…どうか無事でいてくれ…リティ…!


その後俺は一切疑われることなく城を脱出し、召喚したドラゴンの低空飛行で最大限の速度で牢獄へと向かった。


森の奥にひっそりと佇む石造りの建物…これが王族所有のもう一つの牢屋だ。


俺が部屋に入れられた時には既にリティは連れ去られていた。ということはここの見張りの騎士…あるいは兵士達は俺が皇后に閉じ込められているという事実を知らない。


つまり俺が普通に牢屋を見に来たとしてもなんの問題もないはずだ。だが婚約者が牢屋を見に来たら普通は脱獄を手伝うと思われるだろうから…結局はアーグレンの姿のままの方が楽だろう…。


牢獄へ足を踏み入れると、案の定見張りの騎士が話しかけてきたが、「公女の様子を見に来た」とだけ伝えると全く怪しまれずに通された。ということは…ここにリティがいるということだ。


俺の予想は当たっていたらしい。


母さんの妨害に手間取ったせいで助けに来るのが遅くなってしまったが…リティは怒ってはいないだろうか…。


絶対に幸せにすると誓ったはずなのにこのザマとは…怒っているに違いないな。彼女が許してくれるまで謝らなければ…。


そんなことを考えながら彼女がいるらしい、曲がり角の先の一番奥の牢屋に全力疾走で向かったが、おかしい。人の気配がまるでしない。


「だ…団長…公女が…!公女が脱獄しました……!」


地面に倒れ込んでいた兵士が、俺のズボンの裾を掴むと、悔しそうな表情をして呟いた。がらんどうになった鉄格子には、鍵が壊れたというよりは溶かされたような跡だけが残されている。


脱獄……!?じゃぁリティは一体何処へ……?

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