第209話 牢獄
私はその言葉で全てを察した。私の未来はもう決められているのだと。
皇后の圧倒的権力を前にどうすることもできず、私は乱雑に外へと放り出される。そして動揺していたのも相まってドレスの裾が足に引っ掛かり、私は転倒してしまう。
何かが落ちる音がしたが、それを確認する暇すらくれず、兵士達は私を強引に立ち上がらせるとそのまま連行していく。
後で回収しなければ…。それにしても私は何を落としたんだろう。大事なものでなければいいんだけど。
というか仮にも公爵令嬢なのにこんな対応を受けるなんて流石は史上最悪の悪役令嬢ね。
相当嫌われていなければこんな扱いは受けないわよ。リティシア、勝手に貴女の身体を乗っといてなんだけど、貴女のことは一生恨むからね。
城の地下の牢屋に入れられるのだろうと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
私は明らかな裏道を通って城の外へ出されると今度は強引に居心地の悪い馬車へと乗せられる。
わざわざ城の牢屋へ放り込まない理由は唯一つだ。アレクやアーグレンが何かの拍子に気づいて助けに来るかもしれないから。皇后は本気で私を捕まえるつもりなのだ。
道中で盗賊に襲われるとか、なんらかのハプニングを期待したのだがそんなことは起きる気配もなく、私は無造作に牢屋へと入れられる。鉄格子と冷たい床が私は捕まったのだということをよく示している。
「大人しくしておけ。まだ生きたいと願うなら…逃げようなんて考えないことだな」
鋭い剣を腰に携えた兵士の瞳がギラリと光る。皇后陛下を完全に信じ切っているだけでなく、私が悪女であると信じて疑わないようだ。
まぁそうなるように動いていたのだから仕方ない。自業自得だ。
皇后陛下の言う通り、こんなどこかも分からない牢屋まで助けに来てくれる人なんて一人もいないだろう。
…これは罰なのだろうか。悪女という役割を放置した私への、神からの罰なのかもしれない。
私は冷たい床に寝そべると、一気に体温が奪われていく感覚を感じた。
「……これからどうしようかな。」
周りの牢屋には誰一人入れられておらず、私だけがこの部屋に入れられたようだ。恐らく、他の誰かと協力して脱獄を図ることを恐れたが故だろう。
私はこれからのことを考えながら、静かに目を閉じた。
【アレクシス】
いつものように執務室で公務をこなしていると、外から言いしれぬ騒がしさを感じた。部屋を飛び出し、侍女達に事情を聞いてみても、皆何も変わったことはなかったと答え、首を傾げる。
嘘を言っている様子もないのだが、どうも何もなかったとは思い難い。俺の中にある謎の勘が違和感を必死に訴えていた。
「殿下、どうなさいましたか?」
一人の侍女が、俺の様子を不審に感じ、声をかけてくる。彼女にも同様に尋ねてみる。他の者と同じように首を傾げたが、その先の発言は他とは違っていた。
「そういえばアーグレン様が騎士……その中でも皇后陛下にお仕えしている兵士の数が足りないと仰っていましたが……それと何か関係があるのでしょうか?」
「母さんに仕える兵士だけが足りない……?それは一体……」
やはり何かがおかしい。この城で、俺の知らない何かが起こっている。もう少し情報を集めれば分かるかもしれない。侍女に礼を告げ、走り去ろうとしたその時、背後から声がかかった。
「アレク!」
俺の名を呼んだのは、他でもない親友のアーグレンだった。
「グレン!また城に帰ってきてたんだな」
「あぁ、ついさっきな。それよりも城の様子がおかしい……何かあったのかもしれない」
「あぁ。俺もそう思ってたところだ。今丁度使用人に聞いて回ってて……ん…?あれは?」
その時、玉座の間の扉付近に光る何かがあることに気がついた。
近寄ってみると、それはよく見覚えのあるものだった。溢れんばかりの輝きを秘めた宝石が、悲しげに光を放ち、衝撃で外れた鎖はすっかり錆びついているかのように思えた。
「これは……俺がリティにあげた……?」
「まさか…公女様の身に何かが……!」
二人で顔を見合わせたその瞬間、再び背後から声がかかる。
「団長!アーグレン騎士団長!」
同時に振り返ると、彼は俺に気づき「あぁ、殿下もいらっしゃったのですね。ではまとめてご報告させて頂きます」と呟き、地面に膝をつく。
「我が騎士団の内の何名かがリティシア公女を何処かへ連れ去ったとのことです!」
「……なんだと?連れ去った?一体何処へ!?」
焦ったような声を上げるアーグレンの横にいた俺は、あまりの衝撃に一切言葉が出てこなかった。
……連れ去った?何故?直接家からではなくわざわざ城へ呼び出してから?誰が…なんのために?
「も、申し訳ございません。我々も行方を追っておりますが全く掴めず……」
「アレク!?」
報告に来た騎士の言葉を最後まで聞かずに、いてもたってもいられずに俺は駆け出す。城の出口へと一目散に向かうが、ここからでは少し遠く、時間がかかる。
瞬間移動の魔法が使えれば便利なのに、そんなものはない。それがとてももどかしかった。
必ず護ると決めたのに、まさかこんなことになるなんて……。一体どうすればいい!?何処にいるんだリティ!!
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