第141話 大胆
「はい…」
先程の比較的落ち着いていた店員とは違う反応にアレクシスは少し戸惑っていたが、これが本来の反応であろうと思う。
幼い頃は町中にはなかなか行けなかったらしいし、大きくなってからも中々行かないだろうからね。そんな滅多にお目にかかれない王子様が来たら放心状態になるのも頷けるわ…。
この店は貴族すらあまり来なさそうだし、その驚きは計り知れないでしょうね…。
「只今準備致します!リティシア様はサイズをお測り致しますので、こちらにいらして下さい!」
「えっ」
ほぼ叫ぶように言葉を発すると店員は私の手を取り、そのまま連行される。そして奥の方にあったカーテンの向こう側へと入ってから店員は一瞬にして青ざめ、手を放す。
「も、申し訳ございません、焦った故に無礼な真似を致してしまいました。お手を痛めてはいませんか…?」
「だ、大丈夫です…」
「本当に申し訳ございません、どうか…どうかお許しを…命だけは…」
あぁそっか、この人は
…平民が貴族に無礼を働いたら例え首をはねられても文句を言うことができないんでしょうから。
「気にしないで下さい、誰だって突然殿下が来たら驚きますよ」
「リティシア様…。失礼ですが、殿下の婚約者様にあらせられるリティシア=ブロンド公爵令嬢様でいらっしゃいますか?」
「はい、そうです」
「…すみません。噂ではとても怖いお方だと聞いていたもので…大袈裟な謝罪をしてしまいました。お気を悪くされたのであれば申し訳ございません。」
「いえ、気にしていません。それからサイズを測って頂けるといっていましたがわざわざ測って私に合わせて作って頂くのではなく既製品を頂けませんか?」
「既製品…でございますか?オーダーメイドではなく…」
貴族は既に作られたものよりも一からデザイナーを雇ってデザインを書かせてそれを指定したお店で作らせるっていうのが主流なのかしらね。
顔も知らない誰かが考えて作ったものなんて着たくない…貴族の考えそうなことだわ。
しかし私も貴族であるからオーダーメイドを頼まなければ疑問に思われるのだろうかと思ったのだが、店員は私のドレスを見て何かを察したようであった。
「あっ…気づかずに申し訳ございません。すぐに拭く物をお持ちしますね。サイズをお測りしないのであれば一般的なご令嬢に合わせたものになりますが宜しいですか?」
「はい。それで構いません」
リティシアは一般的な令嬢より背が高すぎるとかそういうずば抜けて異なる部分はないから特殊なものでなければ普通に着れる服が殆どであろう。
令嬢と異なる点を強いてあげるとしたら…吊り上がった目と炎のように真っ赤な髪くらいかしらね…。
「リティシア様もお察しの通り、この店は貴族向けに作られたものではありません。ですが他の店よりかは安くドレスの提供をしておりますので、貴族からの注文が入る事があります。その際にいくつか多めに作って、選ばれなかった分を他のご令嬢にお売りしているのでリティシア様にご満足頂ける商品もあるかと思われます。と言ってもお値段をなかなか下げられないので買ってくれる方は少なく、沢山残ってしまっているんですけどね…。あぁ、今ドレスの一覧が載ったカタログとタオルをお持ちしますね」
貴族の性格上いくら格安と言えど殆ど売れないでしょうね…。たまに物好きな令嬢が買う以外は庶民にもっと安くして提供するとかしないと勝手に残ってしまうんでしょう。
それにしても多めに作らせておいて全部買わないって酷いわね。注文した分は責任持って全て買いなさいよ…。
「あ、出てきた」
カーテンを開くと、待ちぼうけを食らっていたアレクシスがそう呟く。
店員はタオルを私に手渡すと、アレクシスにカタログを取りに行く旨を伝え、そのまま走っていってしまった。
当然だがドレスの汚れはタオルで落とせるようなものではないので気休め程度にしかならないだろう。
私が拭こうとしたその瞬間、アレクシスが私の手から取ってしゃがみ込んだかと思うと勝手に拭き始める。
この人本当に王子なの!?地面に膝ついてるわよ!
「ちょっと、自分で拭くからいいわよ」
「リティシアはどんなドレスが好きなんだ?」
「…話逸らしたわね?…そうね、別になんでもいいわよ。ただ着替えるだけなんだし…」
「なんでもいいってことはないだろ…」
「あぁ、でもそうね…。青とか水色とか…そういうドレスはあんまり着ないから欲しい…と思わなくもないわ」
あんまりというか一回も着てませんね。リティシアの真っ赤な髪には似合わない気がするから。
「分かった。」
アレクシスは謎の承諾の返事をすると一通り拭き終えたのか、立ち上がる。
「ではそちらのお色のドレスを持って参りますね」
いつの間にかカタログを手に戻ってきた店員が私達の会話を聞いていたらしく、「こちらをご覧になってお待ち下さい」と告げて私にカタログを手渡してくる。だが、それを受け取ろうとした私をアレクシスが制止した。
「いや、その必要はない」
「必要ないってどういうことよ?」
「この店にある青と水色系統のドレス、一つ残らず全部頂こう」
「はぁ!?」
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