第131話 お店
「リティシア、どこへ行きたい?」
「そうね…」
ここは悪役らしく返すポイントかもしれないわね。
さてなんて返すべき?こんな奴ともうデートなんてしたくないって思わせるような台詞…。
うーん…本物のリティシアだったらなんて答えるかな?
…いや本物のリティシアと比べたら私なんて可愛いものね。あの人は悪役令嬢というよりはむしろ悪魔に近いもの。
「貴方の行きたくないところに行きましょう」
どう?デートでこんなこと言う女って最低でしょ!?
というか私ならこんなこと言われたら即婚約破棄よ。だってこんな人と結婚したくないもん。
流石のアレクシスも嫌よね?
もっと良い人を見つけたいと思うわよね…?
…あっ、そう思ったとしても今すぐはダメだけどね。何度も言うけど主人公が現れるまでは何がなんでも破棄はしないわよ。
私はアレクシスに期待の眼差しを向けたのだが、彼はまたしても私の予想を裏切る反応を見せた。
「行きたくないところ…うーんそうだな、どこだろう…」
彼は私の言葉を真剣に捉え、傷つくどころか凄い真面目に考え込んでいた。
「いや真剣に悩まないでくれる…?」
せめて少しでも怒ってほしいんだけどなんで怒る気配がないのかしらね…。こんなんじゃ悪い人にすぐ騙されちゃうわよ。
全く、私がちゃんと守ってあげなきゃね。
それにしても…こんなんじゃいつまでたっても主人公に譲れる気がしないわ。
アレクシスは一応婚約者だから私を大切に扱ってくれてるし…会う度にその扱いが進化してる気がするんだもの。
そのせいで私がもっと離れがたくなってしまうという悪循環。正しく負のループだわ…。
どう足掻いてもいつか主人公が私達の前に現れることは分かりきっているのに。
私はため息をつき、ふと顔を上げると目の前に建っていたとあるお店が目に入る。
店外には可愛らしい装飾が施されており、恐らく女性やカップルをターゲットとしたような店なのであろう。
近くに設置された看板にはその店自慢の真っ赤ないちごの乗ったショートケーキのイラストが描かれている。
…ショートケーキ?これだわ。
「あのお店…」
「ん?あのお店に入りたいのか?」
「えぇ」
そして私は頷くや否や彼を強引に引っ張りお店へと入っていく。
店内は予想通り風船やらリボンやらで飾られており、中はカップルや女性の客で溢れ返っていた。どうやら人気なお店らしく、並ばずに入れたのは奇跡に近いようだ。
あぁそうだ。まずはお持ち帰りができるか聞いてみようかな。
私達の存在にいち早く気がついた店員がこちらに声をかけてくる。
「いらっしゃいませ、ニ名様で宜しいですか?」
「はい。あの、このお店ってお持ち帰りはできますか?」
「勿論ご用意できますよ。どの商品をお求めですか?」
「じゃぁ…このケーキのセットをお願いします」
私はメニューに記載されていた、十個程色んな種類のケーキが詰められたセットのイラストを指差す。店員は嬉しそうに微笑むととある提案をしてくる。
「中でお食事をなさるのであれば、お帰りの際にお渡し致しますね。」
「分かりました、お願いします」
「畏まりました。ではご案内致しますね」
そう言い終わると、店員が少し前を歩き始める。そして勝手に返事をして話を進めていく私をただ黙って見ていたアレクシスが口を開いた。
「なんだ、リティシアが入りたかった訳じゃなくて、屋敷の人にあげる為だったのか」
「そうよ。別に私が入りたかった訳じゃないわ」
貴方が嫌がると思ってわざと入ったということには気づいてないみたいね。
全く…悪役令嬢の意図にちゃんと気づきなさいよね。
「わざわざ屋敷の人にケーキを買ってあげるご令嬢か…やっぱりリティシアは他の令嬢とは違うな」
「あら、貴方も他の王子様とはまるで違うわよ。特にあの隣国の王子なんかとは比べ物にならないくらいだもの」
私が何気なく言い放ったその発言が衝撃的だったらしく、彼は驚いて目を見開いていた。
思わず何も考えずに言ってしまったが、よく考えたらこれでは私が彼をちゃんと評価しているのだということが気づかれてしまう。
…誤魔化さなければ。
「あっ、今のは違くて、その…」
「え、違うの?」
「いや…その…」
違…くはないのよ。なにしろ隣国の王子はクズを極めし究極の存在だったから…アレクとはそもそも比較対象にすらなっていないのよ。
主人公じゃなくてただの脇役だからってあそこまで性格がひねくれているのは普通にやばい。
あの男と結婚するなんて私がアルターニャにアレクを譲るくらいあり得ない話なのよ。
王子という最強の地位がなければあんな奴そこら辺に生えている草と同レベルだわ。
あ、こんなこと言ったら草が可哀想ね。ごめんなさい。
そうだ、アレクと話してる途中だったわね。
なんて言うべきかな…完全に否定したらまた傷つけちゃうだろうし、かと言って認めるのも悪役令嬢らしくないし…。
これ以上好感度が上がらないようにしなきゃいけない…なんて難しいの!?
私が一人で真剣に考え込んで勝手に頭をパンクさせているとその様子を見た彼が笑う。
「…可愛いな」
彼が小さく独り言のように呟いたその言葉は、私にはよく聞こえなかった。
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