第71話 呼び出し
呆れ顔で手紙を見つめる私とアーグレンを理解出来ないといった様子で、ルナはきょとんとした表情を見せる。
「やっぱり普通のお手紙ですよね?今夜会おうって言うのはなんか突然すぎる気もしますけど…王女様は忙しいでしょうから今日しか会う時間がなかったと考えれば理解出来ますし」
「アルターニャ王女がちゃんと仕事をしているとは思えないけどね…。」
「…同感です」
再び深いため息をつくとそれに合わせて優しい薔薇の香りが周囲を包み込んだ。
これがアルターニャからの手紙でなければ…どんなに良い香りだったかしらね…。
こんなに凝った手紙を寄越すなんて…よっぽど私に自慢したい何かが出来たのね。
行かないで思いっきり見なかったフリをしたいところだけど…こうして手紙を見てしまった以上行かないとよね。
隣国との関係をこれ以上悪化させる訳にもいかないし…。何よりアルターニャのことだから私が行かなければ屋敷まで平気で乗り込んできそうだわ。
「お嬢様、王女様に会いにいかれますか?」
改めてそう問われると否定したくなるものだが、仕方ない。私は力なく微笑むと、ルナに言葉を返す。
「断ったら何するか分からないもの…行くわ」
「私もお供致します、公女様」
その言葉にアーグレンを見ると、決意のこもった眼差しをこちらに向けてくる。
…心配してくれているのかしら?いくらなんでも一国を背負う王女だし、そこまで好き勝手は出来ないと思うんだけどね。
アーグレンの提案は非常に嬉しいが、アルターニャは私しかお呼びでないようだ。そもそもアーグレンという護衛騎士の存在すら知らないであろう。
ただ…アーグレンという最強の盾を使わぬつもりはない。彼が来てくれるのであれば、万が一に備えられるのだから。
「アーグレン、悪いんだけどアルターニャは私しか呼んでいないみたいだから…着いてくるにしても隠れててほしいわ。それでも良い?」
「構いません。護衛騎士というのは本来敵に知られぬ存在ですから。」
つまりアーグレンを敵にしていたら私は知らない間にまんまと暗殺されていたって訳ね…怖すぎるわ。
「…ベルハルト卿がいればお嬢様は安心ですね!…ところでこれ、お屋敷の近くって書いてありますけど一体何処の事を指しているんでしょう?もしかして秘密の場所でもあるんですか?」
「ないわよ。適当に探してみるしかないわ。」
私が来ないことで癇癪を起こして屋敷が破壊されたりしたら困るから急いで探さないと…全く、人を呼ぶならちゃんと場所を指定しなさいよね。
そして夜の帳が降りた頃、私は壁に掛けられていたストールを羽織って部屋の外へと出る。
お母様とお父様には予め伝えておいたので、心配される事はないだろう。
扉を開けるとすぐに側に立っていたアーグレンと目が合う。夜になるまで部屋で休んでいていなさいと言ったのだが、彼の性格上全く休んでいないのだろう。
「アーグレン…ちゃんと休んだ?まさかずっと私の部屋の扉の前に立ってた…なんて言わないわよね」
「…勿論です。立っていませんよ」
思いっきり視線を逸らしながら呟くので、私は訝しげな視線を彼に向ける。
「…本当は?」
「…立っていました」
観念したように項垂れる彼を見て私は軽くため息をつく。
彼が私の部屋を見張り続けていたということは紛れもなく私に対する忠誠心の高さの証拠だ。彼は本当に私を信じてくれているのかもしれない。
だが…だからといってずっと見張っていて良いという訳でもない。
「…なんで嘘ついたのよ」
「…公女様が心配なさると思いましたので…」
「そう思うならちゃんと部屋に戻って。何度も言うけどここは戦場じゃないし、ずっと見張っている必要はないの。貴方の部屋は私の隣よ。分かってるでしょう?」
「…はい。申し訳ございません」
なんとなくだけど…何度言っても彼は私の部屋の扉の前に立ち続けるんでしょうね。
一度主と認めた相手を疎かにするような人ではなさそうだから…。
まぁそれでも私は負けないけどね。絶対に休ませてやるわ。
…アルターニャの件が終わったらだけど。
「護ろうと思ってくれるのはとても嬉しいわ。でも私は…貴方に無理を強いるつもりはない。休める時に休んでおきなさい」
「はい。肝に銘じておきます」
怪しい…でもあまりにも彼の行動を否定すると彼自身を否定することになりかねないからある程度は好きにやらせてあげた方が良いわね。
「さぁ、行きましょう」
アルターニャが何を考えているのかは全く不明だが…会ってみれば分かる話だ。とりあえず行ってみよう。
アーグレンと共に外に出てみるとまず衝撃の事実が判明した。
空に浮かぶ月が…私の想像とはまるで違う形をしていたのだ。
今日は満月じゃなくて三日月じゃない…。
適当に書いたことがバレバレだわ。
なんとなく響きが良いから書いただけなのね。
…どうせ書くならちゃんと考えて書きなさいよ…。
行く宛もないままにただ屋敷の周囲を歩いていると背後から影が伸びる。
「来たわね」
振り返るとそこには腕を組み、なんとも高慢な態度でこちらを見つめるアルターニャの姿があった。
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