蒼天の弓 ― 白和え―

 

 

 これでラストだ~!


 刑事をやめてから、あまり走ることのなかった圭吾は、ちょっと膝が震えていた。


 美弥のメモにあった店で、白和えを買い、近衛家の台所からくすねた鍵を手に、近衛鉄鋼に行く。


 紙袋を隠して、自分の黒い鞄を目立つようにし、まるで仕事で訪れたかのように受付を済ます。


 目的の場所は、工場の方の一角。


 『備品倉庫3』という場所。


 出来るだけ人には聞かないようにしようと、自分で工場内の地図で確かめる。


 そこは工場の喧騒から少し外れた場所にあった。


 あっ、近くに裏門があったのか、と後で気づく。


 あの短時間にメモしたため、さすがの美弥も書きそびれたのだろう。


 素早く隠しはしたが、あの目敏い大輔に見られなかったかどうかはわからない。


 だが、大輔は何も言わなかった。


 あ、的がある。

 巻藁も。


 自転車置き場のようなところにひっそりと置かれたそれに、そういえば、大輔がたまに、工場で弓道の練習させてもらっているという話を思い出した。


 的に向かって射る大輔と、それをしゃがんで見ている美弥の幻が見えた。


 だが、急がなければ、とそれらを振り払い、圭吾は建物の中に入っていった。


 その辺りの一角は普段は使われないものが仕舞ってあるようで、まったく人の気配がしなかった。


 備品倉庫3は地下。


 厭な予感がする……。


 近づくにつれ、カタカタという音が漏れ聞こえ始め、圭吾は、どっぷり暗い気持ちになった。


 鍵を差込み回す。


 その微かな音が、その空間には響いた。


 中からの音が止まり、圭吾はドアを引き開ける。


 薄暗い室内に、パソコンの灯り。


 何処で見たような風景だ。


 がっくり膝をつきそうになった圭吾に、聞き慣れた声がかかる。


「やあ、ようこそ、Jr.

 まあ、なんのおもてなしも出来ないけどね」

と――。





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