蒼天の弓 ― 琢磨―

 

 

「だから言ったじゃないですか、犯人は叶一だって」


 久世琢磨は面倒臭そうに言う。


 指示を仰ぎに来ていた看護師長に手早く伝えると、再び、ソファに腰を下ろした。


「でも、なんで叶一が」

と三根は身を乗り出す。


 何故か大倉を押しのけて付いてきていた三溝は横で黙って控えていた。


「なんにも思うようにならなかったからでしょ」


 素っ気無く言って、断りもせず、琢磨は煙草に火をつける。


 その様子に、内心はかなり苛立っているのではないかと思った。


 叶一も久世家の人間には違いない。


 本音を言えば、誰であろうと一族の中から犯罪者を出したくはないはずだ。


「でもあいつは――」


「あんたたちがどう思っているか知らないが、あれはなかなかの野心家ですよ。


 知らないんですか?


 あの条件出したのは、叶一なんですよ」


「え―?」


「あんな愛人の子、適当に現金でも与えときゃいいのに兄さんも、甘いんだから」


 相続の際に条件を出したのは叶一本人?


 横を向いて脚を組んだ琢磨は、こちらを見ずに煙を吐き出す。


「いっそ、バカなら可愛げもあるのに。


 もし、今回の犯人でないとしても、あんなものを放置しておいたら、いつか大輔の脅威になる」


 立ち上がりかけた三溝の肩を掴んで止める。


 しかし、三根はちょっと琢磨を見直していた。


 隆利以上に情を感じない言動をとる琢磨だが、さすがに甥の大輔のことは、少しは可愛いと思っているようだった。


 ちらと三溝の顔を見て笑うと、琢磨は言った。


「あいつの目的は近衛鉄鋼じゃない。

 近衛美弥ですよ」


「え?」


「父親に、大輔に復讐するために――」






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