凶器2
「あった!」
青い波板で出来た掘っ立て小屋は、よくあの増水で流れなかったなと思えるような代物だった。
狭いその中は、日差しだけは集めていて、かなり蒸し暑い。
大輔と美弥は、その中にあるちっちゃなピンクのバケツを持ち上げた。
無造作に突っ込んであるおままごとの器とおもちゃのスコップ。
その上に盛られたプラスチックのバナナとりんごとキャベツの間に、たむらのステンレスのナイフが刺さっていた。
「これ、あれね、ほら。
間がマジックテープで引っ付いてて、おもちゃの包丁で切れる野菜とか」
ああ、と大輔が頷く。
自分たちの頃にはそんなものなかったが、昔、江梨子が遊んでいたので覚えているのだろう。
「きっと、これの包丁がなくなって、子どもたちは見つけたナイフを代用にしてたんだわ」
刺さったままの、たむらのナイフは、まだところどころに泥がこびりついていた。
「美弥さーん、大輔さーん、どうですかー?」
走ってくる水野の声が近づいて来た。
美弥はひとり道の端に腰掛け、にわかに騒がしくなった掘っ立て小屋の周りを見ていた。
「よ、美弥ちゃん」
ぽんと肩を叩かれ、振り向くと、三溝が立っていた。
「いやあ、お手柄お手柄」
元から老けていたせいか、高校時代から全然変わらない厳つい顔で三溝は笑う。
あ、わかった、と美弥は呟いた。
「叶一さんの言いなりに、此処捜索させたの三溝さんですね?」
「そうそう。
あの莫迦、勘だけはいいからな」
そうでなければ、一民間人の言葉に警察が従うはずはない。
あの事件以来、三溝は推薦組を狙うのをやめ、地元で順当に出世していた。
『出世しようと思って出来るのがあいつの凄いとこ』
と叶一は言う。
いや、まったく。
だいたい、昇進試験だけをやる警官になるか、現場で頑張るか、どちらかになりがちなのに、三溝はどちらも頑張っている。
「確認とれたよ。
此処であれを拾った子どもが家に持ち帰ってたんだ。
それで、親に、そんな汚いもの拾って来ないでって文句言われて、また此処に戻した。
だから、前、捜索したときにはなかったんだ」
もっとも、あったとしても、子どものおもちゃだと思ったかも、と素直に付け加える。
「たむらの客を当たってみるよ。
まあ、あれに反応のあった血が被害者のものかどうかはまだわからないけどな」
あのナイフからは予想通り血液反応が出た。
帰って細かく検査してみないと正確なところはわからないが。
「たむらか……」
と呟いた美弥に、
「なんだ、どうした元気がないな」
と言う。
「なんだか、また嫌なものを見てしまいそうなんです」
川原で蠢く人々を見下ろし、ぽつりと言った。
「あー、美弥ちゃん、勘がいいからなあ」
三溝はその短く硬そうな髪をガシガシ掻いたあとで、冗談のように言った。
「まーた、犯人わかっちゃった?」
「……そうかもしれません」
へ? と三溝がこちらを見た。
美弥は立ち上がり、頭を下げた。
「帰りますね。
もうすることないから」
ちょうど龍泉がこちらに歩いてくるのが見えた。
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