蒼天の弓 ― 川原 ―
もう鑑識のみんなが帰ってきているだろうと、叶一は警察に戻っていってしまった。
詳しい話を聞いてくるつもりらしい。
美弥たちは学校へ戻るため、近くの川べりの土手を歩いていた。
昼の光の降りそそぐ川にゴミのように浮いた白い花びらが流れている。
「大輔、学校、ほんとに戻るの?」
「まだ授業中だろ?」
「おじ様に付いてなくていいの?」
「俺が付いてたってどうしようもないじゃないか」
大輔は振り返りもせずに、ずんずん前を歩いて行ってしまう。
その白いシャツを見ながら、美弥は思っていた。
なんでかなあ、なんで私はこう――
そのとき、ふいに大輔が足を止めた。
「美弥」
「なあに?」
追いついて、その顔を見る。
相変わらず大輔の表情は、美弥でさえ、その感情を読み取りにくい。
「行ってみるか、うち」
「……いいの?」
いいのってなんだ、と大輔は眉をひそめて振り返る。
「ん。いや、大輔はなんとなく、行きたくないんじゃないかと思って」
「別に。
もう鑑識が帰ったのなら、血の痕とかも少しは始末してあるだろう?
莢子さんのことも気になるし。
三溝さんも俺たちなら入れてくれるかもしれない」
その言葉に、少しほっとしながら、そうだね、と言った。
そのまま、大輔の後を付いていく。
美弥は最近髪を切った。
秋の始めのちょっと肌寒くなった中で、日の光が首筋を温める。
ショートにしたのは初めてなので、首筋が露になると、こんなにも季節や天候がよくわかるものだと知らなかった。
振り返ると、少し上流の桜並木が小さく見えた。
もちろん、今は花は咲いていない。
そのまま後ろ向きに歩いていて、小石につまづいた。
うわっとよろけたが、なんとか踏みとどまる。
大輔気づいてないかな、と慌てて顔を上げたが、大輔どころか、通りかかった近所の寺のお坊さんまで、こちらを見て笑っていた。
大輔が、莫迦、という口の動きをする。
美弥はお坊さんに頭を下げると、大輔を追い抜く勢いで駆け出した。
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