一週間

あれから一週間経った。

ソファで目が覚めるのに慣れてきた自分がいる。

ふと、そこで気付く、彼女に起こされてない。いつも、俺より先に起きて、朝飯を作って起こしにくるのに。

けれど、いい香りがする。

テーブルの上には味噌汁と白飯と焼き魚があって、かけられたラップが白く曇っていた。

そのすぐ横に書き置きらしき紙があった。


“少し家に帰ります”


そう書いてあった。

ここはあの子の家じゃなく、他人の家だ。いつかは帰る。制服を着ていたし、学校だってあるかもしれない。

だけど、その家は、悪い人間に攫われてでも逃げたい場所じゃ、なかったのか?俺は彼女の逃げ場所にさえなれないのか?攫ったのは間違いだったのだろうか。

ここに一週間もいたのに。今更、なんで。

飯を食う気になれず、仕事も手に着かず、俺は久し振りにベッドで寝ようとした。

無理だった。入ってすぐにあの子の匂いがした。

俺は家にいるだけであの子の気配を感じて、家を飛び出した。冷えた朝飯を置いて。

図書館に逃げ込む。

日曜日の図書館は人が多く、読書スペースは学生で埋め尽くされていた。あの子と同じ制服を着た学生もいて、思わず息をのんだ。

結局、十分と待たずに図書館を出た。

次に本屋を歩いて、その後古い友人の家に転がり込んだ。

俺は愚痴のように、友人にこの一週間の話をした。書き置きの話をすると友人は、

「少し、って書いてあるんだから帰ってくるんじゃない?」

と言った。

帰路についたのは午後9時だった。

その頃には落ち着いていて、温めた味噌汁も食った。

インターホンからチャイムが鳴った。映ったのは彼女だった。

すぐに解錠して、玄関を開けて待つ。エレベーターから現れた彼女の手を引く。同時に玄関を閉めた。

彼女の左目の上に大きな傷が付いていた。

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